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あたらしい優しさに抱かれて


中学生の頃、ある日の夕方、
学校から帰宅して自分の部屋に入った時に、その違和感は始まった。

夕焼けの光が強く差し込む部屋が茜色に染まっていて、
やたらと綺麗で穏やかで、
なのに強烈な違和感で次第に恐ろしくなってきて、頭がぼんやりしてくる。


「あれ、これ夢?」


「さっきの授業も、帰り道の友達も、夢?」


そう思った。


「起きてるのに寝てる感じがする」


その日からもずっとその違和感は続いて、これは何かのまずい病気なんじゃないかと、母親に「起きてるのに寝てる感じがする」とそのままの言葉で伝えた。


出た答えは、寝不足でしょう、と。


なんともまあ「ですよね」という答えだったし、当時熱中していた執筆活動や友達とのメールのやりとりで深夜遅くまで起きていたから、きっとそういうことなんだろうと落ち着いた。

それからもその違和感は続いたけれど、
「これを言ったら笑われるかやばい奴だと思われるから」と、
感じても「今日も寝不足ですね〜」と言い聞かせるようにした。
でもやっぱり心のどこかで、原因はそれだけじゃないような気がしていた。


当時くらいから流行り出した言葉、中二病。
その言葉を覚えた時、あっこの類じゃね・・・と恥ずかしくなった。
これはそういう病気かと、自分が一番納得できた言葉だった。


「これが夢でも現実でもいいから、今日も明日も楽しくあってくれ」


いつしか、違和感をそう変換するようになった。



高校生になっても、大学生になっても、毎日が夢みたいだった。

違和感に慣れてしまったせいか、毎分毎秒それを感じているわけではないことに気づいたからなのか、ある法則のようなものに気が付いた。

心が大きく動いた時に、その違和感の中で生きていることを思い出すのだ。


それは「悲しい」や「苦しい」瞬間だけではなく、「楽しすぎる」や「幸せすぎる」時にも感じるらしい。緊張している時なんかもだ。

これはあれだ、『ドラマの最終回』で感動した時みたいな感覚に似ているな、と自分の中で言語化したのは大学生の時だったろうか。


続きがない気がする、これ以上はない気がする。
これで終わり。

今夜寝たら、もうおしまい。


それでも次の日、また普通に起きて、
当たり前に昨日の続きを生きるのだった。



社会人になって、ある夏の早朝、
その日も違和感とともに目を覚ましていた。

寝不足どころか、寝ていなかった。

その頃不眠症気味で、何をするわけでもなくただ思いふけ、答えの出ない悩み事と戦う。
空が白んできてようやく、眠りにつけるようになっていた。

でもその日は一向に眠れなくて、一人暮らし部屋のカーテンがついに朝焼けで輝き始めた。

眩しいけど、当たっていたい。
とても穏やかで、どこか恐ろしい。

ぼんやりして夢をみているみたい。

幾度と訪れる最終回にも慣れてしまって、ぼんやりとスマホを開いた。


よく聴く『羊文学』が昨日にyoutubeで新曲のMVを公開したのを知り、再生ボタンを押した。



日の差すカーテンの前で、スマホに釘付けになって聴いた。

曲が終わってもまたリピートした。

「えっ?」というのが、一番はじめに持った感想かもしれない。

ずっとずっとずっと感じていた違和感が、音楽として目の前にあったのだ。


もしかしてみんな、この違和感を知っているの?





鋭利な歌詞が並んでいて、抽象的で、ダークな印象も受けるけど、
生命力で溢れているようにも感じた。

溢れているのは、聴いている自分なのか。

よくわからないけど、同じような朝を迎えている人が世界中にたくさんいる気がしてならなかった。

みんなこの違和感を、それぞれの心の中に隠し持ちながら、なんとか今日をやり過ごしているのかもしれない。


なんだか許されたような気がして、
この穏やかさと恐ろしさを、
誇らしいとすら感じた。


今日も生きてる。

今日もちゃんと起きてる。



最終回なんかじゃない。大丈夫。






2020年12月9日、羊文学はニューアルバム『POWERS』と共にメジャーデビューされました。おめでとうございます。うれしい。

『あいまいでいいよ』という曲を聴いた時、『ドラマ』の先もちゃんと生き続けて、さらなるドラマを越えてきたからこそ、生まれた曲だよなぁと勝手に嬉しく思いました。

あいまいでいいよ、と言える優しさを持っていたい。

これからもっとたくさんの人に届いて、
たくさんの人のドラマのBGMになっていくんだろうなぁ。

ミュージシャンって素敵なお仕事だ。




音楽にまつわる記事を他にも何本か書いているので、もし気に入ってくださいましたらのぞいてやってください。


うち、コミュニケーションロボット「タピア」を開発している会社です。

関係無さそうな記事ばかり書いてしまっていますが(笑&汗)
誰かの日常の瞬間に寄り添いたいと願う気持ちは「タピア」に通づるのではとnoteをはじめてみました。

Instagramでは、
僕と「タピア」のタッグでオリジナル読み聞かせアニメ作っています。

アニメ制作ド初心者と読み聞かせ特訓中のタピアですが、頑張って面白いものを制作していますので、
是非観ていただけるとめちゃくちゃに嬉しいです!本当に・・・



谷口




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