COMPLETE | 第6話:視線
#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー
↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります)
昼休みに柏木先生とお喋りした日の帰り道。友達と別れて駅のホームに入ってから、ずっと誰かの視線を感じていた。これは……そう、あの盗撮魔に写真を撮られていたときと同じ感覚。辺りを見回してもそれらしき人物は見当たらなかったけど、その感覚は電車に乗っている間もずっと続いていた。
私の住んでいる場所は学校から少し遠くて電車を乗り継いで一時間ほどだけど、最寄り駅で電車を降りてようやく視線を感じなくなる。私の感覚は人のそれよりも鋭いから少しぐらい離れていても視線の主を見分けられるんだけど、今回は違う。最初の日は勘違いかも……と考えたけれど、それが三日も続けば自分が尾行されているのは明らかだった。それでも結局相手は分からず終いで、次の日も悶々としながら通学する。
「美月、おはよー! あれ? どうした、どうした? 暗いじゃない」
「あー、うん、ちょっと気になることがあってさ。でも平気! ほら、急がないと遅刻だよ!」
「おう!」
いつもの様に授業を受ける。学校ではあの視線は感じないから、学校帰りを狙って付けられているんだ。あー、もう! ムカつく! なんで私がこんなことで悩まなきゃダメなのよ! 今日こそ相手を突き止めてやるんだから! 色々考えていると授業にはほとんど集中できず、気が付くと放課後になってしまっていた。
「美月、帰りにカラオケ行こうぜぃ!」
「ごめん、今日はちょっと用事があるから真っ直ぐ帰るよ」
「えー、付き合い悪いなあ。まあ、しょうがないか。じゃあ、また明日ね!」
「うん」
友達たちはいつものようにキャッキャ言いながら教室を出ていった。私は臨戦体勢で意気込みつつ、わずかしかない荷物をお気に入りのリュックに詰める。コウモリの羽根が付いた小さなリュック。アメリカにいたときに買ったものだけど、自分にピッタリな気がして愛用している。そして荷物を詰め終わった頃、不意にあの視線を感じた!
「!?」
ガタッと勢い良く立ち上がって椅子が倒れそうなる。まだ教室にいた同級生がビックリした様子でこちらを見たのでなんとか誤魔化して、リュックを掴んで教室を出た。と、廊下の向こうから歩いてきたのは柏木先生。でも彼女からあの雰囲気を感じる訳ではなく、どこか別の場所から……いや、今はもう感じない。さっきのは気のせいだったのかも。
「あら、渋沢さん。慌ててどうしたの? もう帰っちゃう?」
「あ、いや、友達を追いかけようかと……」
「そう? 悪いんだけど少しだけ時間を貰えないかしら? 聞きたいことがあるのよ」
「まあ、少しだけなら」
「有り難う。じゃあ、場所を移しましょうか」
断りづらい雰囲気だったのでオーケーしてしまったけど、尾行犯を追い詰める計画が……まあ、いいや。本当に尾行されているなら、少しぐらい学校を出る時間が遅くなっても相手は現れるはずだもん。
先生に付いて廊下を進む。また談話室かと思いきや、一旦外に出て渡り廊下を通り旧校舎へ。こっちは今使われてないはずだけど……
「先生、ここで話すんですか?」
「ええ。あまり他の人に聞かれたくない話だから念のために、ね」
私は別に聞かれて困る様なことはないけどなあ……そんなことを考えつつ、先生に付いていった。やがて到着したのは旧校舎の端の教室。当然ながら人気もなく電気も点いてないので、傾き始めた陽の光でなんとか明るさを保っている感じの部屋。
「それで、センセ、話って?」
「渋沢さんのお父様は一斗と言うお名前で良かったかしら? お父様はお元気?」
「うーん、ママと一緒に海外赴任して置いていかれちゃったからなあ。時々ある連絡の様子では元気そうだけど」
「そう。海外はどちらに?」
「オーストラリア。その前は一緒にアメリカにいたんだけど、私は日本の高校に行きたいから一旦皆で帰国して、二人はすぐにオーストラリアに行っちゃった。なんでそんなことを?」
「実はね、以前ルーマニアでお父様にお会いしたことがあるの」
そうなの!? 今まで黒板の方を向いて背中を見せていた先生が振り返るとその手には拳銃が握られていて、そして私にその銃口を向けた。
「な、なんのマネですか!?」
「私が一斗と最後に会ったのは一年前よ。それまで彼はルーマニアにいたの。それに彼は未婚だったわ。ルーマニアでは私と付き合っていたからね。あなたの存在も、そのママとやらの存在も辻褄が合わないわね」
「……」
ヤバッ! 嘘が全部バレてる! こういう時のための設定を考えてあったのに、パパの知り合いが来るケースは考えてなかった!
「あー、えーっと、アメリカにいたのは二年前だったかなー」
「一斗はルーマニアに二年以上いたから、二年前もルーマニアよ。もういいからあなたの目的を言いなさい。闇側の組織の者なの? ヴァンパイアなんだったら覚悟しなさい。この距離だったら外さないわ」
「!?」
先生の口から『ヴァンパイア』と言う言葉が出たことにはちょっとビックリした。日本でも警察組織の中に対ヴァンパイアの特殊部隊があるって聞いていたけど、一般には公表されていないハズ。ってことは先生、V-SATの人!?
「どうして私がヴァンパイアだと?」
「あなた、私の尾行に気が付いていたわよね。あなたを撮影したカメラにも気が付いていたでしょう。学校での様子はまったく普通の女子高生だったけど、色々と力をセーブするのに苦労しているみたいだったし」
「私のこと、観察してたんだ」
「そういうこと。さあ、あなたの目的、喋ってもらうわよ」
これはもう誤魔化し様がなさそう。こう言うときは、えーっと、どうするんだっけ。ああ、そうだ! 逃げるが勝ち!