COMPLETE | 第2話:リリアナ
#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー
↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります
私、柏木・クリステスク・リリアナが日本に来たのは一年前。警視庁の対ヴァンパイア特殊強襲部隊である、通称V-SATに招かれて期限付きで派遣されてきた。本来はルーマニアに拠点をおく『光の探求者』に属していて、これまでもそこで活動してきたわ。
『光の探求者』は人とヴァンパイアが協力関係にある組織で、その歴史は五百年とも千年とも言われている。もう一つのヴァンパイア組織『闇の支配者』に対抗すべく、人とヴァンパイアが手を組んだのが始まりなんだそうだ。だからなのか、長い歴史の中で人とヴァンパイアの混血が生まれ、そして引き継がれている。私の母も組織の人間でヴァンパイアの血を引く者……つまり私もヴァンパイアの血を引いているが、別に陽の光に当たって溶けてしまう訳でもない。更に言えば混血と言ってもヴァンパイアの血は十六分の一とか三十二分の一とか僅かな割合でしかないので、私に至ってはもう普通の人と何ら変わりない。ちょっと力が強かったり運動神経が良かったりするぐらいかな?
話を戻して私の父は日本人で、ルーマニアの日本大使館に勤めている関係で私の日本行きを提案してくれた。最近ではV-SATと言う対ヴァンパイア部隊ができてはいるものの日本はまだまだ平和だそうだし、今までに何度か行ったことのある父の故郷に行けることはとても楽しみだったわ。実際赴任してみるとV-SATの出番はそれほどなく、またあったとしても簡単なケース。それでも本場仕込の私の対応は称賛されて……ちょっと鼻が高かったなあ。実はもう一つ大きな目的があったのだけれど、そちらは一年経った今でも手掛かりすらない。
出動のない日は内勤をこなしたり、訓練したり。金髪の外国人女性が珍しいのか、警察内では男女問わず注目されてしまうが、言い寄ってくる男はいなかった。どちらかと言うと女性から良く声を掛けられる……まあ、彼女たちとお喋りするのも楽しいんだけど。私に気軽に話しかけてくれる男性はV-SATチームの同僚たちぐらいかな。
「ターン! ……ターン! ……ターン! ……ターン! ……ターンッ!」
地下の射撃訓練場にM360Jの発砲音が響く。.38スペシャル弾だからそんなに反動は大きくはないけれど、撃っている彼女は必死だ。シングルアクションで撃っているから、ちょっとまだるっこしいわね。
「もうちょっとリラックスして。腕は曲げない様にして、撃つ瞬間に反動でブレない様に力を入れれば大丈夫よ」
「は、はい!」
寄り添って彼女の腕の位置を修正しながら話しかけると、頬を赤らめつつ焦った様に返事をした。フフフ、カワイイわね。
「ターン! ……ターン! ……ターン! ……」
もう一度的に向かって撃つと、今度は的の比較的中心の部分に全弾ヒット。彼女の顔もパッと明るくなる。
「有り難うございます! リリアナさん!」
「フフフ、おやすい御用よ。またいつでも声を掛けてね、付き合うから」
「はい!」
彼女が訓練を終えた後は自分の訓練。と、上司の黒田キャップが入ってきて、後ろから覗き込んできた。
「ほう、今日はマグナム弾か。ウチは警察でも特殊部隊だから、M360よりもっと大きい銃でもいいんだぜ」
「携帯もし易いし撃ち慣れてるからこれがいいのよ。それにこれならダブルアクションでも撃てるしね」
「お手並拝見といこうか」
普通の女性であれば、先程の彼女の様に両手で銃を持って撃つのが主流だけど、私の場合はヴァンパイアの血のお陰か力が強いのでM360なら片手持ちでも十分撃てる。ダブルアクション時のトリガープルの重さも気にならないわね。
「ズダァーン! ズダァーン! ズダァーン! ズダァーン! ズダァーン!」
先程の.38スペシャル弾とは明らかに音が違う。的も遠い方だったけど、どれも中心近くを捉えていた。
「ふぅ……」
「見事なもんだな! しかしダブルアクションで撃っているから若干ブレてないか?」
「まあ、多少はね。アイツらは動きが速いから、ハンマーをいちいち起こす暇がもったいないのよ」
「違いねえ。なら一層オートにしてみるか? G17もなかなかいいぞ。弾数も多いし」
そう言いながら自分の銃を取り出して構えるキャップ。確かに普通のケースはそれでいいけど、対ヴァンパイアに用いる特殊弾はM360系のリボルバーでしか撃てないじゃない。
「あの弾はなんでリボルバーでしか撃てないのかしらね」
「さあな、どうやら開発者の趣味って話だぞ」
「ああ……」
開発者……彼にはルーマニアで何度か会ったことがある。弾のことを聞くと熱く語ってくれた記憶が……つまりは、武器オタクの彼の趣味ってことなのだろう。私は元々M360を使っていたからいいんだけどね。訓練場を後にしてキャップと話しながら部屋へと向かう。途中、女性職員たちがキャーキャー言いながら声を掛けてくれたので手を降ると、またキャーキャー言いながら走っていってしまった。
「モテモテだな、女性にだけど」
「ほんと、男性たちはどうなってるのかしら。誰も声も掛けてくれないんだけど」
「ヴァンパイア・プリンセスは高嶺の花なんだよ。俺がもう十歳若けりゃなあ」
「キャップは妻子持ちでしょう! 大体『ヴァンパイア・プリンセス』ってなによ。別に太陽に当たって溶けちゃう訳でもないわよ、私」
「ハハハ、そりゃそうだがな。その内、男日照りで干上がっちまうんじゃないか」
「もしそうだったら、ヴァンパイアの血が泣くわ」
などと冗談を言いつつ部屋に戻ると、同僚から声を掛けられた。
「部長がお呼びだぜ、お二人さん」
「部長が?」
キャップと顔を見合わせて部長室に向かう。普段出動の命令はキャップから隊員に伝えられるはずなんだけど……何か別の仕事かしら?