COMPLETE | 第3話:任務
#創作大賞2023 #小説 #連載小説 #ヴァンパイア #ファンタジー
↑ 第1話はこちら(第1話の先頭に全話の目次があります)
「お呼びですか? 部長」
「おお、来たか黒田、柏木。まあ、座ってくれ」
すらっと背が高くて髪は白髪交じり。ビシッと着込んだスーツも良く似合っているナイスミドル。それが杉原部長だ。部長に促されてデスクを挟んだ対面に座ると、引き出しから資料の入ったファイルを取り出して私たちの前に差し出す。
「これは?」
「まあ、見てみろ」
「……」
キャップがそれを受け取って開くと、そこには女子高生らしき少女の写真が何枚か挟まっていた。
「女子高生?」
「名前は渋沢美月。都内の高校に通う一年生だ」
「渋沢……」
いや、まさかね。彼に妹がいるなんて聞いてないし、ましてやこんな大きな子供がいるはずがない。でもやはりその名前は引っかかった。
「彼女は……一斗と何か関係が?」
「両親は海外赴任中と言うことになっていて、保護者は『渋沢一斗』となっているらしい」
「!!」
渋沢一斗……私がここに来る少し前、彼とはルーマニアで付き合っていた。彼は遺伝子工学の専門家で、日本の研究機関である『先端生命科学研究所』から組織に派遣されてきていたのだ。二年ほど付き合ったものの、彼が日本に戻るタイミングで別れてしまった。私も仕事が楽しかったし、日本に付いていくという選択肢もその時は思い浮かばなかったから……でも、あの時彼を引き止めていれば、あんなことにはならなかったかも知れない。そう、彼は一年前にある研究成果と共に失踪したのよ。その研究成果が何なのかまでは私たちも知らされていないけれど、どうやらヴァンパイアに関するとても重要な研究内容だったらしい。誘拐の線もあり、『闇の支配者』の動きも見られたので私が日本に派遣されたんだけど、結局何の手掛かりも見付けられずに現在に至っている。
「この子はヴァンパイアなんですか?」
「そこまでは分からない。しかし、その写真、何か気が付かないか?」
「何かって……良く撮れてるけど……」
いや、良く写りすぎと言うべきか。どの写真も彼女はカメラ目線で、ピースをしたりウィンクをしたり。少しそばかすの目立つまだ幼い雰囲気の顔に、赤いメッシュの入った髪が印象的だった。
「その写真は百メートルほど離れて望遠で撮っているんだ。もちろん、気付かれない様に物陰や車の中からな」
それって盗撮なのでは……と思いつつ、しかし違和感の正体に気が付いた。それだけ離れて隠し撮りしているにもかかわらず、彼女はカメラに気が付いていたと言うことね。『光の探求者』には属していないみたいだし『闇の支配者』に属する者だとすると、一体何が目的なの? 野良のヴァンパイアと言う可能性もあるけど、ここ日本にいるヴァンパイアや眷属は殆どが闇側の者たちで、しかもかなり下っ端だ。
「我々としても彼女の存在を無視することはできない。そこで、柏木くんには潜入捜査をしてもらいたい」
署長の説明では既に彼女の通う高校に、生物学の臨時講師として申請済だそうだ。
「彼女がヴァンパイアだった場合は?」
「闇側の者だった場合はいつも通りだ。そうでない場合は渋沢博士との関係を聞き出し、その後の判断は君に任せる」
「はっ! その任務、拝命致します」
部屋に戻ってからはキャップと今後の方針を打ち合わせ。相手は日中普通に通学していることからヴァンパイアである可能性は低いけれど、最近はヴァンパイアでも対策を取れば陽の光の下で出歩ける。仮にそうだったとしても、高校に通っている意味までは分からないけれど……高校が何か特別な学校と言う訳でもなさそうだし、誰か狙っている相手もでもいるのか、はたまた単なる気まぐれか。闇側の組織の者なら周囲に仲間がいるかも知れないので、そちらも注意しなければならない。
「ルーマニアでこんなケースは?」
「ないわね。光側のヴァンパイアの中には人のことを知るために大学に通っている者もいたけれど、女子高生はいなかったわ。私みたいな混血は普通に通っていたけれど」
「しかしかなり離れたカメラでさえ認識するほどの能力がある。何があるか分からないから銃は携帯しておけよ。対ヴァンパイア弾でいいだろう」
「オーケー」
対ヴァンパイア弾。正式には.357-ab弾で、対ヴァンパイア用に開発された.357マグナム弾の形をした特殊弾。abは「アストラルボディー」の略だそうで、人とヴァンパイアの決定的な違いであるアストラル体に直接作用する弾。この小さい弾の中に特殊な液体とそこに高温をぶつけてプラズマを発生させるためのマイコン諸々が入ってるらしいけど……よくもまあ、そんな複雑なものをこんな小さい中に入れ込んだものだわ。日本人の『物を小さく作る』能力や手先の器用さには感心しかない。そしてこの弾を作った日本人は堂坂博士……例の武器オタクの彼だ。彼も一斗と同時期にルーマニアの組織本部に来ていたけれど、最近はどうしているのかしら。一斗とも親しかったみたいだけど……私が日本に来てからは連絡が取れてないから、一斗同様彼も消息不明の様なものね。
キャップとの打ち合わせを終えて諸々の手続きを済まし帰宅準備をしていると、スマホのお知らせ音がなる。
「ピロロン♪」
──誰かしら?
最近は両親とぐらいしかメッセージのやり取りがない寂しいスマホだけど、画面を確認すると違う相手だった。そして表示された名前は『堂坂 虎ノ介』。そう、ついさっき思い出していた対ヴァンパイア弾の産みの親、堂坂博士だ。