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なぜあの人はここで働くのか?②

前回の続きです。

会社から「退職」することを決断した人たちに、決断の背景をヒアリングしまくった結果、1つの発見(仮説)がありました。

それは

「人がそこで働く理由」は複層的である。

というものです。

今回はこの仮説について詳しく紹介します。


「理由」と「条件」について

仮説を紹介する前に説明しておきたいことがあります。

それは「理由」と「条件」です。

なぜ自分はここで働くのか?」という問いを考えるときには「働く理由」と「働く条件」という2つの側面があり、両者を混同しがちなので整理しておきます。

例えば「賃貸物件を探している」という状況を考えてみましょう。

・家賃の安さ
・部屋の広さ
・駅からの近さ
・日当たりの良さ etc

これらの条件が全て満たされればそれに越したことはないけど、現実的にそんな物件を見つけるのは難しいので、普通は「譲れない条件」と「妥協できる条件」を分けて、できるだけ条件の良い物件を選ぶと思います。

でも、実際に物件に住んでみて初めてその良さや悪さが分かってくることってありますよね。例えば、お隣さんがすごく良い人で仲良くなったとか、近所に超お気に入りのカフェがあって通いたいとか、そういうのが「理由」です。「その物件に住む理由」は、最初にその物件を選んだ「条件」とは必ずしも一致しないということです。

働く場所を探すときも同様です。

・報酬の高さ
・通勤時間の短さ
・仕事内容の良さ
・福利厚生の良さ etc

これらの条件が全て満たされればそれに越したことはないけど、現実的にそんな仕事を見つけるのは難しいので、普通は「譲れない条件」と「妥協できる条件」を分けて、できるだけ条件の良い仕事を探すと思います。

でも、実際に働いてみて初めてその良さや悪さが分かってくることってありますよね。例えば、同僚や上司がすごく尊敬できるとか、新しいスキルや最先端の知識が身に付くからとか、そういうのが「理由」です。「そこで働く理由」は、最初にその仕事を選んだ「条件」とは必ずしも一致しないということです。

つまり「理由」と「条件」は一致するとは限らないので、分けて考えます。そして本仮説が扱うのは「理由」のほうです。

「人がそこで働く理由」は複層的である

改めて、今回発見した仮説を再掲します。

「人がそこで働く理由」は複層的である。

この仮説を図示するとこうなります👇

なお、あくまで今回私がヒアリングした人たちから導出した仮説であることは改めて強調しておきます。決して全ての人、全ての仕事に当てはまる普遍性のある仮説ではないと思っていますので。

ヒアリングで発見した仮説

今回、私がヒアリングした人たちにとって「そこで働く理由」として、最も根底にあったのが「理念や哲学、ビジョン」でした。次いで「事業や製品」、「」、「知識やスキル」と続き、「そこで働く理由」として最も弱かったのが「報酬や待遇」でした。

ピラミッドのように描いたのは、下の層が上の層を支える基盤になっていることを表現したかったからです。これは「下の層がしっかりしていれば、上の層が崩れても大丈夫」ということを意味します。「崩れても大丈夫」というのは「それが仕事を辞める理由にならない」ということです。

うーん。ちょっと観念的で分かりにくいですかね?🤔

「ここで働く理由」は段階的に失われていく

もうちょっと直接的でわかりやすい図にしてみました👇

ヒアリング発見した仮説(別バージョン)

この図は、会社の企業理念や哲学あるいは組織のビジョンに対し心から共感を抱いていれば、たとえ事業や製品がイマイチであったり、上司や同僚との人間関係がうまくいってなかったり、仕事を通じて習得できる知識やスキルが少なかったり、報酬や待遇がイマイチであっても、そこで働き続ける理由になり得るということです。

いやいやいや・・・ホンマか?🤔

と思いますよね笑

「理念や哲学、ビジョン」が理由になっている段階

そもそも企業理念やビジョンに腹落ちして共感している人は、自社の事業や製品がイマイチである状態を他人事として放置できないはずです。当事者意識をもって事業や製品をイケてるものになるよう動くし、組織がうまく回るように動くのではないでしょうか。企業理念やビジョンに心から共感するというのはそういうことだと思います。

松下幸之助さんや稲盛和夫さんなど、後に名経営者と呼ばれる人たちの創業時のエピソードを見るとこういった話がたくさんあります。

とはいえ、規模が大きくなった会社や組織に後から参画する人が、企業理念や哲学に共感できないことって避けられないと思います。報酬や待遇などの「条件」で仕事を決める人も多いですから。

そうなると、次に従業員をつなぎ留められるのは「事業や製品」です。

「事業や製品」が理由になっている段階

このビジネスをやれるのはこの会社しかない。だからここにいる」「この製品が好きで、この製品に携われるからここにいる」というように「事業や製品」が「そこで働く理由」になっている段階です。自分で事業や製品をゼロから生み出した人やそれに伴走していたメンバーは、その事業や製品に強い愛着が沸き「そこで働く理由」となるケースがあるのではないでしょうか。

残念ながら、自分が担当する事業や製品に愛着が持てないケースというのもままあります。企業規模や組織が大きいほど顕著で、たまたま新卒で配属された組織がその事業をやっていた、たまたま前任者からその製品の保守担当を引き取ったなど。

今回のヒアリングでも「自身が担当する事業や製品は好きですか?」という問いに対して

「いや、仕事として割り当てられたものをやっているだけなので、別に好きとか嫌いとかそういうのはないですね。自分の役割はきっちり果たしますけどね」

と回答した方が何人かいました。

そうなると、次に従業員をつなぎ留められるのは「」です。

「人」が理由になっている段階

この上司の元で働けば、成長できそうだ」「この同僚達、先輩達と一緒に仕事ができるのは純粋に楽しい」というように「一緒に働く人の資質や能力、人間性」が「そこで働く理由」になっている段階です。残念ながら、企業理念にはイマイチ共感できず、担当する事業や製品に愛着が沸かなくても「この人たちと一緒に働けるなら」というのが留まる理由になるということがあるのではないでしょうか。

でも、そういう職場ばかりあるとは限りません。どうしても尊敬できない上司にあたってしまう場合や、ソリの合わない先輩や後輩と働かざるを得ない状況はあります。「配属ガチャ」なんて言葉もありますが、どんな資質、どんな人間性の人たちと協働することになるか自分で選べないことも往々にしてあります。

そうなると、次に従業員をつなぎ留められるのは「知識、スキル」です。

「知識、スキル」が理由になっている段階

ここにいれば、最先端の業界知識が学べる」「この仕事をしていれば、ポータブルな(外でも通用する)スキルが身に付く」というように「自分の市場価値を高められる」ことが「そこで働く理由」になっている段階です。

この段階まで来ると「自分の市場価値」を高めることが目的になっているので、潜在的に転職予備軍と呼んでよいと思います。

配置換えやローテーション等で「新しい知識が学べなくなった」とか「既存スキルの応用しか求められなくなった」と判断されたら、転職される可能性が高いです。だって企業理念に共感がなく、事業や製品に愛着もなく、人間関係も表面的ということですから、市場価値を高められる場所に移るのは自然な行動と言えます。悲しいですが🤣

ただ、市場価値が高められる仕事というのは人気の仕事でもあるので、そこに入るのも狭き門だったりします。そのチャンスが来るのを待つ間、そこに留まる理由となっているのが「報酬や待遇」です。

「報酬、待遇」が理由になっている段階

この段階まで来ると、何かきっかけがあればいつでも転職する状態です。誰かに背中を押されるのを待っている状態とも言えます。もはや転職予備軍どころか転職準備軍って感じですね。

だって企業理念に共感がなく、事業や製品に愛着もなく、人間関係も表面的で、市場価値も高められないのですから、人生100年時代とか言われている今、そこに留まり続ける方がリスクだと考えるのは自然です。

それにもかかわらずそこに残る理由があるとすれば、それは「報酬や待遇」ではないでしょうか。

現状の「報酬」に明らかな不満がなく、リモートワーク制度や福利厚生などの「待遇」には満足しているみたいな場合だと、転職でよほどの勝ち筋(年収アップ、待遇アップ)が確約されない限りは様子見するのではないでしょうか。あるいは、家庭の事情で当面は安定した収入が必要とか、しばらくは勤務地が替わる事態は避けたいといったこともあり得ると思います。あるいは報酬が破格であれば、それ単体で留まる理由になると思いますが、そんなケースはなかなかないですよね(特に日本の企業だと)。

報酬や待遇は良くなったり悪くなったりするものなので、自分にとって報酬や待遇が悪化する方向に会社が舵を切れば、それはこの人たちにとって「背中を押される」形となります。この段階まで来た人が背中を押されたら、もはや退職を踏み止まらせる要因はないのではないでしょうか。

さいごに

以上、

退職を決断した人にヒアリングした結果、人がそこで働く理由は複層的である

という仮説の紹介でした。

これはあくまで今回私がヒアリングした範囲から導出した仮説です。企業の規模、社内制度、事業領域、カルチャーは組織によって千差万別であり、決して一般論ではないと思います。

例えば組織によっては「事業・製品」と「」の階層が逆だったり、「知識・スキル」と「報酬・待遇」の階層が逆だったりすることもあると思います。

メッセージとしては、
人がそこで働く理由」っていくつかあるけど、より下の層に位置するものを大事にした方がいいんじゃないかってことです。

この図でいうと「報酬や待遇」を頑張っても効果は限定的で、根本的に「人がそこで働く理由」にはならないということです。

自分の場合はこうだったな」とか「そこはこういう考え方もできるんじゃないか?」など、ご意見やコメントあれば是非お願いします!

おしまい。

おまけ

ちなみに私自身は今ココです。

「事業・製品」の段階なう

元々は全然関係ない組織で開発の仕事をしていたんですが、

ある時、「千と千尋の神隠し」の千尋ばりに

©Studio Ghibli

「私をここに異動させてください!」
「この事業・製品を私にやらせてください!」

と人事に直訴して今に至ってるので、現在の「事業・製品」に対する愛着は人一倍強い方だと思います。

●年前までは「企業理念や哲学」にも共感していたんですけどね🌞

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