国立大学値上げ問題 -大学経営- 篇
1.本当に国立大学は「もう限界」なのか?
「お願いだから国立大学に進学してください」と高校3年生だった息子に懇願し続けたこの1年。志望大学の前期日程で大きい討伐を受け、それでも志望校を変えずに後期日程が終了した段階で、
「嗚呼ッ、もはや私学に進学し年間140万円をドブに捨てるわけではないのだけれども、なんだかなぁ、、、」
な心持ちで支払うことを覚悟した3月。にわかに朗報が舞い込み、無事に志望していた国立大学に合格したとの報を受けたとき、
「これで父の飲み代は確保できたでっ!」
と喜びに打ち震えたものでした。ところが、今月に入ってこんなニュースが。
さすが日本経済新聞、というべきか、見出しから釘を刺してくれています。読売新聞なんかは、もっとセンセーショナル。
もうね。当事者の子供を持つ親としては「おいっ!」と突っ込みたくなる気持ちです。
そもそも大学経営は、もはや本当に限界なのでしょうか?
2.「値上げするから叩く」わけじゃない
これからこの国立大学授業料値上げ問題を叩こうと思っています。ぜんぜん、世界の中心からではなく、この世界の片隅で。でも基本スタンスとしては、値段が上がる、とても悪いこと、だから叩く、みたいなね、なんか消費者を煽るマスコミのようなデフレマインドで言ってるわけではありません。
ちょうど一年半前。ぼくがコメンテーターを務める福岡のと或る番組で、ブラックサンダーが発売以来初の値上げに踏み切る、ということでコーナーが組まれたんですね。
なんと1個30円から35円に、16.7%もの値上げです。ミスリード、とまでは言いませんが、統計をリードしていくというのは恐ろしいものです。16.7%、もはや2割弱と言えるかもしれません。
「林田さん、どう思いますか?世間は物価高に苦しんでいますが、、、」
と振られたときに想定されるコメントは幾つかあります。番組Dの制作意図に寄り添って
「いやぁ、ほんと苦しいですよね」
と乗っかるプランA。一番、無難ですよね。まぁ、少なくとも間違ってはいない。実際にブラックサンダーを始めとした多くの品目で値上げが為されるわけですから。お茶の間も乗りやすいでしょう。
でもね、これって値上げした企業が悪くなっちゃいますよね?
四半世紀続いたデフレの期間、値上げすることもできずに、それでも語るも涙、聞くも涙の企業努力で業績を拡大してきた企業が、インフレになり、原料・資材価格が高騰して涙ながらに5円値上げしたら叩かれる、ってのはちょっと不公平な気がします。
プランBは
「いやいや、言うても5円ですよね?」
とD(あ、ディレクターのことです)もしくは、この取材をしてきた記者に反発するものです。
これは感じ悪いですよね。
ああ、この人は稼いでるから5円なんてどうでもいいんだ、と思われかねない。ぼくは個人的にはレジ袋税が導入されて、レジ袋に一枚5円取られる恨みを小泉進次郎にぶつけつつ、絶対に許さないと決め込んでいる小さな男なのです。
そこでプランCを発動させることにしました。
それはインフレについて説明することです。
1年半前って、デフレから脱却しそう、なくらいでまだ消費者物価指数自体はデフレの範囲内だったんですよね。消費者はその中で、ポンっと値上げが起きつつあって「?」となっている。まさにDの意図はそうした消費者の声を拾い上げていこう、と言うことだったと思うんです(だから、番組意図的には全然、ズレていない)。
でも、企業は先に原料価格の高騰を喰らって苦しんでいる。
それは何故か?と言うことを解説せねばならない、と思ったんです。
インフレの原因としては、今もあまり状況が変わっていませんが、以下のことが挙げられます。
①コロナ禍における給付金の影響
これはもう記憶に新しいと思いますが、コロナ禍で経済をストップさせたときに、膨大な補助金、給付金、助成金を政府が出しましたよね。これは日本だけじゃないんです。世界中で税金で補填しながら経済をストップさせたんですね。
経済学的にいえば、純然たる経済活動の中で、いわゆる信用創造によってマネーが増えていく緩やかなインフレは良いインフレといってよいでしょう。
でも今回は、経済をストップしている中で世界中の国家がお金をバーンとばら撒きましたからね。単純にマネーサプライ(資金供給)が増えると、これはインフレ要因となるわけです。
②ロシア・ウクライナ戦争長期化の影響
次に挙げられるのはウクライナ情勢です。
あまり認知されていなかったのですが、ロシアは戦争前の時点で天然ガスはシェア率17%で世界第2位、原油はシェア率12%で世界第3位、石炭はシェア率5%で世界第6位の資源エネルギー大国です。
西側諸国は、この資源エネルギー大国であるロシアに経済制裁をするためにロシアからのエネルギー輸入を禁止したのですから、これはもうあらゆる資源価格の高騰に繋がります。ちなみに、アメリカのインフレの引き金となったのは、この対ロシア禁輸措置が大きな要因と言えるでしょう。
かつてナポレオンが大陸を席巻した後に、次はイギリスだ!と息巻いてイギリスに対して貿易停止令を出したらヨーロッパ中が困った、というのに似ています。
また、ウクライナもこれは穀倉地帯なんですね。
アフリカを中心に、ですが、穀物(小麦、トウモロコシ)と鉄鋼を基点として、ひまわり油などの油脂などアフリカ諸国の輸入の8割はウクライナから賄っていたものが一気にストップしたので、世界的にサプライチェーンが狂ってしまいました。
③日米の金利差
最後のインフレ要因は日米の金利差です。これはもう、最近はバンバン喧伝されていますから耳にしたことがある方も多いでしょう。
簡単にいうと、アメリカはインフレを抑え込むために金利をずっと上昇させてきました。日本はマイナス金利だったのを、ようやくゼロに戻したので、その差はどんどん開いていきます。
直近で見ると、アメリカは5.5%なのに対して日本は0.1%です。
要は1兆円持っている企業、ファンド、ないしは人がですね、日本で運用したら0.1%の金利を得られるということですね。1兆円の0.1%は10億円です。ところが、このお金をアメリカに持っていったら5.5%の金利を得ることができる。1兆円の5.5%は550億円ですね。
こりゃあもう、日本なんかにお金を置いとけないぜ、とみんなアメリカに資金を移していく。アメリカに資金を移す際に円を売ってドルを買わなければならないので、どんどん円安になります。
エネルギーや資材、原料の多くを輸入に頼っている日本は、円安になると価格は高騰することになります。これがインフレの大きな要因となるわけです。
コメンテーターという仕事もなかなか、テレビで見ているだけでは楽な仕事に思われているかもしれませんが、この三つを、ぼくに与えられた時間、60秒で解説しなければならないので、それはもう大変です。途端に早口になります。
最終的には、上の三つに軽く触れた上で、こうまとめました。
「皆さん、もうね。デフレの時代は終わってインフレの時代がやってきたんですよ。商品の値上げ、据え置きで一喜一憂するのはやめましょう」
1年半前の福岡のスタジオは「え!?なに?そのコメント」みたいな空気になり、スベった感じになったことは想像するに容易でしょう。
3.君たちはずっと値上げしてきたよね?
随分と話が逸れてしまいましたが、とにかくインフレ時代の到来を経て、単に値上げが悪いと思っているわけではないことが言いたかったのです。
では本題に戻りまして、大学の学費の変遷を見ていきましょう。
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