『父と母』
水曜の夜中から息子が高熱を出した。
最高で39.9度。
私と4歳の息子は、1つの布団で仲良く蹴飛ばされたり身体の下に手を入れられたりしながら毎日寝ているのだが、水曜の夜中3時頃、妙に身体がぷるぷると震えながら眠れずに目を開けていた息子が横にいた。
母の勘なのか。
いつもは目覚めない時間に目が覚め、息子に声を掛け熱を測った。
前日までに前触れもなかったのだが、その時点で既に39.9度だった。
冷蔵庫保管してあった座薬を挿し、水分を摂らせ布団を掛け寝るまで見守ったが、母性本能の危機管理能力とは本当に備えられていると思う。
息子がまだ新生児の頃は産後直後の身体でも授乳の為に必ず2~3時間おきには目が覚めたし、風邪を引くなという前兆は嫌でも理解できた。
ただ、今回は全く症状がない状態での発熱だったので判断できなかったが……
母になり本当に子供という存在は自分の命より大変だという事に気付き、なにより自分の母の偉大さにも気付いたつもりだ。
自分が子供の時には、こんな事をしてくれた。
じゃあ、自分は息子にこうしてあげよう。という目標も持てていると思う。
でも、やっぱり自分の母には勝てない。
勝てないのだ。
私の父は一言で言うと娘に甘い。
私の母は一言で言うと明るい。
そして、ふたりとも現実的な人間だ。
3姉妹の次女に産まれた私。
1つ上の姉と5歳下の妹。
その中でも私は、周りに気を遣い大人しく遠慮をする子供だったらしい。
保育所に通っている年齢の頃、姉が店の中でおやつが欲しいと駄々をこね泣いていた時1つだけ好きなおやつを買いなさいと言った母。
私にもなにか欲しいものがないかと聞いた時、私は『いらない。』と言った。
母は平等じゃないから、なにか買いなさいと強制させた。
何を買ったかは覚えていないが、母が言うには姉より安くて小さなおやつを買ったらしい。
でも、私はその時の気持ちだけはハッキリ覚えている。
『特に何も食べたくなかった』
これが答えだ。
大人になった時にこのエピソードを聞かされた時、母にこれを伝えると驚いていた。
気を遣っていたのかと思ったと。
高校卒業後、姉は保育士になる為に道内の専門学校へ行き、妹は看護師になる為に関東の看護学校へ進学した。
姉と妹は遅くとも中学時代から将来なりたい職業が決まっていたが、私は漠然とした夢しか持っていなかった。
小学校時代の夢はローカルタレント。
中学時代は芸人。
高校時代は音楽に関わる職業。もしくは演劇に関わる仕事。
3つとも現実的ではない夢だった。
この全部の夢を母はことごとく反対した。父は少し応援していたらしいけど。
・ローカルタレントになったって、将来不安だ。
・芸人になって売れる保証なんてない。
・タレントも芸人も音楽に関わる仕事も、選ばれし人間しか就職出来ない可能性があるからダメ。
今考えると真っ当なことを言われていると理解できるが、私はその当時荒んでいた。
何故私の夢に対しては非協力的なんだと。
でも、私は荒んではいたが強く反抗しなかった。
それは、寝たふりをして両親の話を聞き耳を立てて聞いてしまっていたからだ。
『姉と妹の進学費用で家計が火の車だから、申し訳ないけど諦めてもらうしかない。』
私は布団を被って泣いた。
泣いて泣いて泣きまくった。
自分でお金を貯めてからでも遅くないじゃないか。
自分で勉強して、オーディション受けて合格したらいいんじゃないか。
進学に関しては、父と母に迷惑を掛けないようにしようと誓ったのだ。
高校受験の時、3姉妹のうち私の合格発表の時だけ母は泣いたそうだ。
中学校の時の学力テストの数学で0点を取ったから。
高校に行きたくないと言っており、受験勉強をせず友達とカラオケ三昧していたからだ。
そして、姉は頭がよく、妹は推薦入試だったので私しか不安材料がなかったと母は後々泣き笑い語った。
母の話だと父も、私の高校受験や高卒の就職先が決まった時に泣いていたらしい。
私は知らず知らずのうちに親不孝者になってしまっていたらしかった。
でも、そんな自分を最後まで捨てずに育ててくれた両親には感謝しているし、いい意味ですぐ諦めさせてくれたと思っている。
・テストは赤点を取らなきゃ(最悪卒業出来れば)大丈夫。追試だけは受けろ。
・学校や職場でイジメの様な事があった時、無理するより行かなくたって生きていけるので休んだらいい。最悪学校は辞めてもいい。仕事だけは我慢して3年続けなさい。
・学業が出来ないなら部活はするな。
・なにかひとつ得意な事を見つけて、一生伸ばして行きなさい。
等、自分で進む道を選ばせてくれるような選択を与えてくれる両親の子供の育て方は、息子にも同じ様な事を伝えていきたいと思っている。
先程、息子の熱がやっと37.0度まで落ち着いた。
今現在、夜の6時半から9時まで寝ていた息子は私の隣で目をパッチリさせて起きてテレビを見ている。
さぁ。この子の将来を豊かにするにはどうしたら良いか。
親としての腕の見せ所かな。
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