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【三越伊勢丹ホールディングス】日本一の百貨店、問われる百貨店の存在意義

まだ小さいころ、私は休日に祖父母に連れられて百貨店(デパート)に行くのが楽しみでした。今回の記事を書いていると、もう30年以上も前の懐かしい記憶が蘇ってきました。

三越伊勢丹ホールディングス(以下、三越伊勢丹)は、日本初の百貨店であり百貨店業界で売上日本一の会社です。その会社が長年問われ続けた百貨店の存在意義に答えを出す時が来ています。

1.三越伊勢丹って何をしている会社?

三越と伊勢丹、ほぼ百貨店専業の会社

三越伊勢丹は、日本で最初の百貨店である三越と、ファッションで有名な百貨店の伊勢丹が合併した会社です。2019年3月の時点では、日本に22店舗、海外に34店舗の百貨店をもつ、ほぼ百貨店専業の会社です。

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この点は、不動産業にも力を入れている同業のJフロントリテイリングとは対照的です。

(Jフロントリテイリングや、百貨店と不動産業の違いは、前回の記事で触れています。気になる方は記事の下にあるリンクから読んでみてください。)

2.三越伊勢丹ってどんな会社?

 2.1 どのくらい大きいの?

百貨店業界で売上日本一の会社

三越伊勢丹の2018年度の売上は1兆1968億円で、百貨店業界では第1位です。

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(各社の有価証券報告書から作成。Jフロントは総額売上高を使用)

店舗が会社を支えている

売上日本一の三越伊勢丹ですが、実は3店舗で全体の4割以上、約5200億円を売り上げています。国内外合わせて50店舗以上あるのに、たった3店舗が会社全体を支えている、そんな特徴のある会社なんです。

その3店舗とは、伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、三越銀座店です。全て東京にありますが、それぞれ違う特徴を持っています。

日本一の店舗、ファッションの伊勢丹新宿本店

伊勢丹新宿店は、なんと1店舗で年間2800億円以上の売上を誇り、売上金額、入店客数共に日本一の店舗です。

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(伊勢丹新宿本店の外観(左)、内観(中央、右)、アニュアルレポート2019より)

伊勢丹は、三越や大丸に比べると創業が遅かったのですが、そんな伊勢丹が日本一の店舗を作り上げたのには理由があります。

一つは、世界一の乗降者数(1日350万人)をもつ新宿に店を構えたこと。もう一つは、「ファッションの伊勢丹」としてのブランドの確立です。

1933年の新宿店開店以降、伊勢丹は従来の「総合百貨店」に対して、ファッション中心の「専門店型百貨店」として、「タータンチェック」を始めとする流行の発信、日本で最初の紳士専門館の開業と、日本のファッション界で常に時代の先駆けとなることを行ってきました。

こうして作り上げたブランドが、新宿という場所で花開き、世界の有名ブランドにも大きな影響力を持つ日本一の百貨店を作り上げました。

日本最初の百貨店、三越日本橋本店

次に、三越日本橋本店は、それまで呉服店だった三越が、1914年(大正13年)に日本初の「デパートメントストア宣言」を行ったことで、日本最初の百貨店となりました。

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(三越日本橋本店の外観(左)、内観(中央、右)、アニュアルレポート2019より)

2018年度の売上は約1400億円。日本橋本店の本館は、国の重要文化財にも指定されており、一流の商品と顧客に支えられた伝統ある店舗です。

外国人観光客が集う場所、三越銀座店

最後に三越銀座店は、日本一の繁華街、銀座を代表する百貨店です。売上は約910億円あり、そのうち約30%をインバウンド売上(*1)が占めています。

(*1) インバウンド売上:日本への外国人観光客への売上のこと。日本全国ベースで2012年以降2018年まで増加し続けており、その期間で4倍以上になりました。国別では中国がダントツで多く、韓国、台湾の順で続きます。

 2.2 どのくらい儲かっているの?

なんとか利益はでている、でも実は・・・

三越伊勢丹の2018年度の営業利益は292億円でした。金額の大きさでは2位、利益率では3位です。利益は出ているし、下のグラフを見ると利益率も他に比べて悪くないように見えます。

百貨店利益率推移1

(各社の有価証券報告書から作成。Jフロントは総額売上高を使用)

しかし、前回少し紹介したようにJフロントと三越伊勢丹は会計ルールが異なります。このため、きちんと比べるには、同じルールにしないと公平に比較できないんです。

そこで、せめて2017年と2018年だけ、できるだけ同じルールになるように調整してみました。

実は・・・2017年、2018年は利益がほとんど出ていない

下のグラフを見ると、三越伊勢丹は、2017年は営業利益が約20億円しかありません。(利益率は僅か0.17%)

一方、2018年は利益が約150億円あり、利益率も1.3%と一見回復しているように見えます。しかし、実はサウスゲート新宿の土地建物の売却ででた利益290億円が含まれています。

つまり、その売却がなければ、利益がマイナスだった、ということになります。

百貨店利益率推移2

(グラフ:有価証券報告書を基に作成)
※下に調整方法を書いています。少し専門用語を含むため興味ない方は読み飛ばしてください。

調整の方法:2017年と2018年だけ調整。売上高はIFRSベースの売上収益でなく、日本基準ベースの総売上高で統一しています。(Jフロント以外のIFRSベース売上収益情報がないため。)また、営業利益はIFRSベースに合わせ、減損、固定資産除売却損益、従業員関連費用などを営業利益に含めるようにしています。


 2.3 なぜ儲かっていないの?

会社としては百貨店業界で売上日本一、伊勢丹新宿店という日本一の店舗も持っているのに、なぜ三越伊勢丹はこれほど利益がでていないのでしょうか?

ここからは推測も含まれますが、私なりに理由を3点にまとめてみました。

理由1. 利益を出せない地方店舗

三越伊勢丹の業績を苦しめているのは、紹介した3店舗以外の、首都圏郊外の店舗や地方の店舗です。顧客はショッピングセンターや駅ビルにますます移っています。さらに、都市によっては中心が郊外の住宅地に移り、百貨店のある駅前そのものが寂れるというケースも聞きます。

2017年、2018年は利益の出ない店舗が増え、もう利益を出せないという意味の、「減損」となる店舗が2年で13店舗もでています。これが利益を減らしてます。

理由2. 頑張りすぎた成長投資のツケ

百貨店業界が縮小していく中、2010年以降三越伊勢丹は様々な成長のための活動を行ってきました。主力3店舗の改装に加え、美容・外食事業を始めたり、小型店の積極的な展開などを行ってきました。

しかし、美容事業はうまくいかず、小型店も利益を出せないため出店中止と、結局、利益の新しい柱にはなれませんでした。結果として、費用の負担だけが残ってしまったのでないかと思います。

理由3. 過去に減らせなかった従業員

三越伊勢丹は、会社全体の人件費が高いという課題があったようです。

このため、ようやく2017年に50歳以上の早期退職者の募集を行いました。応募者は追加の退職金をもらうことができ、2017年、2018年にこの臨時の費用が発生しています。

ただし、それでも募集予定していた人数の5分の1も集まらなかったようです。そのため、今後もまだまだ費用が発生するかもしれません。

ますます厳しい環境と、過去のツケの精算

このように、地方を中心としたさらなる環境悪化、そして成長投資の失敗や多すぎる従業員といった過去の出来事の精算が、利益減少の原因ではないでしょうか。

3.三越伊勢丹のまとめとこれから

三越伊勢丹は3店舗という柱が、大きな重しを支える会社

見てきたように、三越伊勢丹HDは売上日本一の百貨店で、日本有数の3店舗が柱として会社全体を支えています。

一方で、その柱の上には地方の店舗や投資の失敗、そして多くの従業員がまだ重く圧し掛かっているように見えます。

三越伊勢丹は現在、まずこの重しを軽くするため、店舗の閉店や資産の売却、人員の削減を進めています。その先に、次の柱の育成として、Eコマースへの取り組みもしているようですが、まだ道半ばのようです。

2020年は三越伊勢丹の転機の年かもしれない

そんな中、今回のコロナウイルス感染拡大で、柱となる3店舗を支える海外からの観光客は、大幅に減っています。すでに営業日も短縮しているうえ、3店舗とも東京にあるため、東京都の方針にも大きな影響を受けることになるでしょう。

もし今年、会社を支える柱にヒビが入ることがあれば、三越伊勢丹は何か大きな決断を求められると感じます。

百貨店業界は、脱・百貨店を掲げるJフロントリテイリング、百貨店の役割をまちづくりと再定義する高島屋など、それぞれの目指す先を歩みつつあります。数年後、2020年を振り返った時、「三越伊勢丹にとってあの年が大きな転機だった」、そういわれるのかもしれません。


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前回の記事、競合のJフロントリテイリングです。百貨店業と不動産業の違いについてもこちらで簡単に書いています。


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