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【小説】秘すれば友

 行楽日和に誘い出され、一組の中年夫婦が片側一車線の国道を乗用車で走っている。車内に流れる音楽は彼らの青春時代、九十年代の流行歌である。
 見通しの悪い左カーブを通過すると、助手席に座る妻の香織が口を開いた。
「ねえ、今の場所・・・」
「そうだね。耳を疑う事故だった。忘れることはないよ」
「運転していたのは別の人でしょ? 友達だったのかなあ?」
「たぶんね。どんな人だったか知らないけど」
 香織は車窓の遠くに目をやった。色づく紅葉は燃え盛るように生きている。
「かっこよかったなあ。吉田君が円形脱毛症になった時」
「あれには僕も救われた。佐久間ほどかっこいい男を他に知らないし、今でも僕のヒーローだ」
「本当に彼女いなかったのかなあ?」
「ギターが恋人だったからね」
 夫婦にとって佐久間は、高校三年時のクラスメイトである。
 しみじみと思い出話を始めたが、夫の哲也には守り通さねばならない秘密があった。例え妻であっても、二十年近くの時を経ても、それを漏らすわけにはいかなかった。真の友情として。


 高校三年の夏休み明け、吉田という内気な男子生徒がストレス性の円形脱毛症になった。短髪だったこともあり、右側頭部のそれは良く目立った。

「おっ、励んでるなあ受験勉強」
「まじで激しい。眩しいほどに」
「なあ、俺たちのことも励ましてくれよ」
 なにかと吉田にちょっかいを出して、遠回しにハゲと嘲る者たちがいた。大抵の生徒たちは不愉快に感じていたが、人間関係における悪しき均衡を保つ為に、誰も制する声を上げることはなかった。目に余るほどではないと、皆が軽く考えていた。とりわけ難関大学を目指す者たちは、そんなことに気を煩わしている場合ではないと、極めて自己本位になっていた。

 しばらくして、吉田は学校に来なくなった。二日三日四日と、その日数は伸び、毎朝クラス内に気まずい空気が流れた。
 或る男子生徒が「お前のせいだろ」と強い口調で言った時、醜い小競り合いが起こった。

 吉田の不登校がちょうど一週間になった朝、小競り合いをした二人が坊主頭で現れた。そして、教壇の上に堂々と並んで立ち、反省の弁をやたらと大きな声で述べた。何事かと隣の教室からも生徒が廊下に集まり、頭を下げた二人に拍手を送ったが―――
 後に英雄となる佐久間は、不愉快そうに腕組みをしていた。

 翌日、共犯たる他の数人も刈り上げてきた。素直な反省がかっこいいという風潮になった。
 すると、なぜか関係のない生徒もバリカンを入れた。受験勉強のストレスが下地になり、思考停止の陽気な悪乗りは歓迎された。「お前もハゲ」が仲間を示す合言葉のようになった。派生したのは強い同調圧力である。クラスの男子生徒は全員、坊主頭になるべきだと。もう一度吉田を迎え入れる為に。

 二十二人の男子生徒のうち、七人は同調圧力に屈しなかったが、多数派の坊主頭たちは数名の女子生徒と協力して、あれこれ吉田に働き掛けた。
 そして、彼らが正しいことを証明するように―――

 九月下旬、凡そ二週間ぶりに登校した吉田は、事態を丸く収める坊主頭だった。
「いや、全然気にしてない。風邪をこじらせちゃっただけだよ。こちらこそ本当にごめん」
 そう言わざるを得ない状況がクラス内にあった。坊主頭たちは笑い合い、軽く抱き合った。一見すると、微笑ましい青春の一ページである。それに馴染まない少数派は、協調性のない薄情者として隅に追いやられた。


 数日後の休み時間、坊主頭の三人が前方の席で顔を伏せていた哲也にちょっかいを出した。文化系らしい長めの髪を引っ張るなどして。
「お前の家、美容院なんじゃねえの?」
「もしかして自分で切った?」
「そりゃまずい。いい床屋を紹介してやるよ」
 彼らの一人は、吉田が不登校になる原因を作った主犯格であり、もともと自分より弱そうな者をからかう癖がある。
 哲也は二重瞼の目を瞬き、困ったように笑った。取り囲んだ三人はしつこかった。自分たちが正しく、お前は間違っていると言わんばかりに。発言はエスカレートした。
「下手くそだなお前の親」
「そんなだっせえ頭してたら潰れちまうぞ」
 すると、後方の窓際で机を叩く音がした。どん!―――
 握り拳によるそれは、教室全体を一瞬突き上げるような衝撃だった。集まった視線の先で佐久間が立ち上がり、長い前髪をかきあげた。様になる凛々しい顔立ちであり、高校生のくせに男の色気がある。彼はつかつかと前に進み、教壇に上がると振り向いた。
「偉そうで悪いんだけど、今日は言いたいことを言わせてもらう」
 その場はぴりっと静まった。
「みんなが求める同じって何だ? 同じ学校、同じクラス、同じ制服・・・もう十分だろ? 俺もこうやって学ランを着てるけど、誰一人同じじゃねえよ。そもそもこの世の中に、同じものは何一つない。あるとしたら、人間が作った機械の中だけだ。システムだけだ。誰かが言ってたよな? 機械の部品みたいに働きたくないって。だけどそれ、矛盾してるよ。同じを強要して、すでに自分が機械みたいになってるよ。不自然だろ? 俺たちは人間だ。男とか女とか区別する前に。みんな違っていていいだろう。ハゲる奴もいれば太る奴もいる。病気にだってなる。それを誰も代わってやることは出来ないし、同じになれない。どんなに気が合う奴でも。だから違いを認めること。痛みに寄り添うこと。俺はそういう気持ちが大事だと思う」
 聴衆の中で、涙をぽろりとこぼしたのは吉田である。
「黙ってて悪かったな。面倒だと思った俺にも非がある。いつの間にか感覚が麻痺して・・・だから今、自分に向けた言葉。それをみんなにも言ったんだ」
 佐久間は教室全体を見渡すと、少し恥ずかしそうに笑った。
「誰か気を悪くしてたら謝る。だけどまあ、許してくれ。俺な、将来絶対にハゲるんだよ。親父もじいちゃんもつるっぱげでさ。今ぐらいいいだろ? 坊主は勘弁してくれよ」
「異議なし!」
 その声の主は、次の授業を担当する若い男性教諭であり、前方の出入り口から顔を出した。すると、女子生徒を中心に賛同の声が上がった。吉田にからんでいた三人は、バツの悪い顔で目配せを交わして、小さく拍手を送った。

 翌日の昼休み、佐久間は教室にいなかった。英雄不在である。
「どこ行ったのかな?」
「彼女のとこ?」
「誰それ? 聞いたことないよ」
 活発な女子生徒たちは、各々の弁当を食べながら彼の噂話をしていた。別のクラスからも数人、賑々しくその輪に加わっていた。

 それ以降も、佐久間はアイドルのように扱われることを嫌い、昼の長い休み時間に教室を出た。大抵その姿は、脱いだ学ランを肩に引っ掛けるようにしていた。もともと群れるタイプではなかった為、誰にも行き先を告げず、午前の授業が終わった途端にいなくなった。

 
 十月中旬の或る日、哲也は紺色の巾着袋を手にこっそり佐久間の後を追った。玄関で下足に履き替え、向かった先はさらさらと木漏れ日の差す中庭だった。
 佐久間は一人で木製のベンチに腰を掛け、ぶら下げていた白いビニール袋を開いた。出てきたのはコンビニの幕の内弁当である。
「一緒にいいかな?」
 後ろから話し掛けたその声色は、少し緊張を帯びていた。
「おお、珍しいな。いいぞ。ここは静かで」
 仲の良い関係とは言えなかったが、佐久間は歓迎の笑みを浮かべ、ベンチの真ん中から端に寄った。
「教室はうるさいよね」
「なんだ? また余計なことを言って来る奴がいるのか?」
「もうないよ。ありがとう。本当に助かった」
 佐久間は腰を落とした哲也の頭、柔らかい風を絡ませたような髪形に目をやった。
「お前、お洒落だよな。毎朝セットするの大変だろ?」
「好きだから大変じゃないよ」
「家が美容院なんだってな」
「そう。僕も美容師になる」
「偉いな。親の仕事を継ぐって」
「母子家庭だから、育ててくれた母親を尊敬してる」
「いいね。うちは父子家庭」
「へえ、知らなかった」
 そして、二人が食べ始めた弁当は対照的だった。哲也のそれは自家製であり、母性をたっぷり詰め込んだような温かみがあった。
「いいな。手作り弁当」
「最近は僕が作るんだよ」
「え? それは凄い。しかも美味そうだな」
「母親は手一杯だから。少しでも助けようと思って。別に嫌じゃないよ。料理は好きなんだ」
「そうか。じゃあ俺の嫁になってくれ」
「ノーセンキュー」
 哲也が欧米人風に肩をすくめると、佐久間は声を立てて笑った。
「でも弁当ならいいよ。佐久間の分も作ってくるよ」
「いや、それは迷惑になるな」
「大丈夫。何かお礼をしようと思ってたし。どうせ妹の分も作るんだ。二人分でも三人分でも変わらないよ。だから母親にも作ったりする」
「そんなことされたら、感動のあまりお母さん泣くだろ」
「最初は泣いたね。大袈裟に」
「大袈裟じゃないって。誰でも泣く」
「それなら明日、泣いてくれると期待してる」
「そう来たかあ」
 佐久間が白々しく頭を抱えたあと、二人は長年の友人のように笑い合った。

 そして、なんとなく通じ合っていることがあった。根っから意地の悪い者たちに、怪しい関係を疑われかねないと。

 その為、二人は翌日の昼休みも別々に教室を出た。哲也は二人分に見られないように、黒い手提げ袋を一つだけ持っていた。
 とはいえ、見つかったら仕方がないという姿勢だった。澄み渡った空の下で落ち合った後も、あえて目立たない場所などに移動しなかった。
「どちちがいい?」
 先にそれを訊いたのは佐久間だった。緑茶と烏龍茶、彼はペットボトルのお茶を買ってあった。哲也は緑茶を選ぶと、赤と茶の別々の巾着袋を片手に一つずつ掴んで差し出した。
「どっちにする?」
 見て分かる大きさの違いはなかった。
「赤・・・いや、茶色で」
「その心は?」
「直感的に赤だと思ったが、どちらでも感動する準備は出来てるからね」
「なるほど。ちなみに残念なお知らせとして・・・中身は同じなんだ」
「いや、同じじゃないぞ。この世にあるものは」
「そうだったね。違いがあるから素晴らしい」
 佐久間は受け取った茶色い方を膝の上に乗せると、小さく手を合わせてから袋の口、そして二段弁当の上部の蓋を開けた。
「おお、秋らしい」
 とうもろこし、にんじん、ブロッコリーと、色合いに季節感があった。肉巻きの野菜はエリンギだった。
「今日は気合を入れたんだ。下のご飯も自信作」
 おかずの上段を持ち上げると、下段には栗ご飯がびっしり詰まっていた。
「いやあ、あっぱれ」
「食べてみてよ」
 佐久間はもう一度手を合わせた。「いただきます」と食べ始め、一口ずつ味わうように箸を運んだ。一品ずつ丁寧な感想を述べた。本当に感動している様子で、目にうっすらと涙を浮かべた。
 哲也は少し照れ臭そうに、謙遜の言葉を並べたが―――
「もしよかったら、明日以降も作って来るよ」
 佐久間は秋空を仰ぎ、どう答えるか考えた。
「手抜きになるけどね」
「じゃあお金を払わせてくれ」
「いいよお金なんて。喜んでくれれば僕も作り甲斐がある。それに・・・こんなことで良ければ。本当に感謝してる。あの時の佐久間、どんな芸能人よりもかっこよかった。前から学園祭でギターを弾くし、かっこいいと思ってたけど、予想以上だね。色々見習いたいよ」
「今度遊びに行こう。手ごろな価格でお前に似合いそうな服のブランド知ってるんだ」
「いいね買い物。でも勉強は? 大学に行くんだよね?」
「勉強なんて日頃の積み重ねだよ。慌ててやることはない」
「かっこよすぎる」
 哲也がそう言って吹き出すと、佐久間は釣られて笑いながら前髪をかきあげた。


 それ以降、二人は共に下校して寄り道したり、学ランのまま足を延ばして街に繰り出したり、時に羽目を外して遊んだ。積極的にああしようこうしようと提案する佐久間が多めにお金を払った。
 哲也は買ったばかりの冬服を着て、クラスメイトで唯一人誘われたライブに足を運んだ。雨の降る中、十一月中旬の週末だった。大学生のロックバンドに佐久間が助っ人として出演した。衣装は黒いTシャツという浮ついた様子のない男臭いバンドだった。ボーカルが英語圏育ちで、演目は洋楽のカバー曲ばかりだった。

「昨日は凄く良かったよ。レベルが高かった」
「雨の日にごめんな。だけど一度観てもらえて良かった。春に解散なんだ。中心メンバーが大学四年で、地元を離れるからね」
「僕の隣、セクシー系のお姉さん二人で・・・」
「さては隣ばかり見てたな?」
「それが残念なことに、ちらっと横目で見る勇気しかなかった」
「お前のいいところだな」
「アンコールの前に話し声が聞こえてきて、ギターが特に上手いって褒めてたよ。他のメンバーより年下なのにね。僕もそう見えなかった」
「有難う。これからも音楽は続けていこうと思う」

 
 だが、教室内ではあまり話をしなかった。
 佐久間は何かと注目の的にされる雰囲気を鬱陶しがり、次第に授業の合間の短い休み時間も教室を離れがちになった。そのミステリアスな行動も彼の話題性を高めた。哲也はいちいち行動を共にせず、彼がどこで時間を潰しているのか知らなかった。

 それでも、周囲に最近仲が良いと認識されるようになり、二人で弁当を食べている様子を幾人かに見られた。「よう」とか「おう」などと、短く挨拶を交わす程度だった為、どちらの弁当も哲也の手作りだとバレることはなく、二人もそれを内密にし続けた。
 天気の悪い日は校舎の静かな最上階、屋上へと続く階段に座って食べた。

 娯楽の少ない受験生は、身近な英雄譚に飽きもせず―――
 哲也は英雄の友人として、彼のことを聞き出そうとする女子生徒たちに度々話し掛けられた。要は、体よく出しに使われたわけだが、決して嫌な顔をせず、物腰柔らかく対応する為、女子が女子を呼び、次第に異性の友人が自然と出来始めた。
 その一人が香織であり、彼女は初めから哲也自身に惹かれていた。

「あの子たち酷いよね。佐久間君のことを知りたいだけ」
「いや全然。僕も佐久間のファンだから。見習うところが沢山ある」
「なんでそんな風に言えるの? 優しいね」
「優しくなれない時もあるけど、いつか好きになった人には、常に優しくありたいと思ってる」
「好きな人、今はいないの?」
「そうだなあ・・・でも、まずは言葉じゃなく、行動で示していきたいよね。僕を知ってもらわないと。どんな人でも、いきなり好きって言われたら困っちゃうでしょ?」
 後の夫婦は当時から相思相愛だったが、恋人として交際を始めたのは卒業後である。


「お前、香織ちゃんのこと好きだろ?」
 陽だまりのベンチに座り、佐久間がそう切り出した日の弁当は、どちらも白地に赤紐のサンタクロースを思わせる巾着袋に入っていた。例年よりも暖かい日が続く中、クリスマスは凡そ一週間後に迫っていた。
「香織ちゃん? 馴れ馴れしいね」
「中学が一緒でさ、一時仲が良かったんだよ」
 哲也がふいに顔を曇らせると、佐久間は寂しそうに微笑んだ。
「もしかして、付き合ってたとか?」
「いやあ・・・心配するな。それはない。恋愛対象じゃないんだ」
「やっぱり佐久間は、理想が凄く高そうだよね」
 佐久間は首を小さく横に振り、瞼を閉じかけると、冬枯れた枝の隙間から遠い春を見て―――
「もう止めにしないか? 日が当たってても流石に寒い」
「そうだね。今度から弁当はロッカーに入れておくよ。食べ終わったら僕のロッカーに戻してくれればいい」
 すると、佐久間の吐いた息が震えた。寒さのせいではなかった。
「優しいな。本当に嬉しかったよ。だけどな、正直に言うと・・・嬉しかった分だけ辛かった」
 哲也は一瞬顔を伏せたが、これまでと変わらない友人として、少し気まずい視線を交わした。
「そうなんだ。今ようやく気付いた」
「お前の恋は、叶うといいな。これまでのこと、心から感謝してる。夢のような時間、勘違いさせてくれて有難う。誰かに勘違いされてたらごめん。お前のことを思えば、もっと早く言うべきだったけど、女が嫌いなくせに女々しいな。俺はかっこよくなんかないんだよ。・・・気持ち悪いか?」
 哲也は首を横に振った。
「本当にごめん」
「なんで謝るの? 僕だって楽しかった。友達少ないし、ああいうライブに行ったことなかったし、全部が最高の思い出だよ。弁当だって、本当に好きで作ってた。いつも褒めてくれて嬉しかった。高校三年間色々あったけど、佐久間は一番の友達。誰よりもかっこいいし、気持ち悪くなんかない。人間同じじゃないんだから」
「有難う。だけどもう・・・辛くなるから難しい」
「それでも、友達だった事実を否定しないでほしい」
 佐久間はゆっくり頷いた。
「僕はこのことを誰にも言わない」
「お前になら、バラされてもいいよ」
「絶対に言わない。僕からは言わないよ。友達だった証として」
「証か・・・」
 そう呟いた佐久間の頬に一筋の涙がすっと流れ落ち、彼は自分の胸元に手をやった。それ以上こぼれ出る思いを留めるように。


 夫婦の高校時代の思い出話は延々と続き、乗用車は錦繍の山々に抱かれたつづら折りの道を走っている。
「そういえばね、佐久間君に彼女はいなかったかもしれないけど、好きな人はいたと思うの」
「なんで?」
「卒業式の日に第二ボタンがなくなってたもの。誰がもらったのか、女子の間でちょっとした騒ぎになってね。あゆみちゃんっていたでしょ? あの子がもう卒業だしってことで、本人に訊いたの。そうしたら、ボタンはどこかで落としたって」
「佐久間らしいね」
「私はまだ持ってるよ。哲也からもらった第二ボタン」
「へえ、とっくになくしたと思ってた」
「付き合い初めたきっかけだから。私達を繋いでくれた証。お互いの思いをあのボタンで留めた気がする」
「証か・・・」
 彼もまた、佐久間からもらった第二ボタンをなくしていなかった。


「最後のわがままを聞いてくれ。このボタンはお前にもらってほしい」


 そのことは胸の内に堅く秘め、墓場まで持っていく心づもりである。
「佐久間との友情は、今でもここにあるんだよ」
 哲也がハンドルから一瞬離した左手は、かつての第二ボタンの場所を指し示した。

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