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ツグワフクスマ

よしなしごと【気まぐれ選06】

 大阪駅から、いつものようにJR環状線に乗る。内回りである。
 少し年配の車掌さんのアナウンスが聞こえる。鼻にかかった、いかにものしゃべり方、さらに時々母音が抜ける(中川家の弟の物真似をイメージしてください)。
 「ツグワ、フクスマ、フクスマ・・」、思わずここは東北本線かっ!と心の中でつっこんでいる私。

 車掌さん独特の発声法(バスガイド含む)が、東北弁ぽく聞こえるのだ。お国訛りではなく、いわばお仕事訛り。
 一日に何度も同じ言葉をしゃべっていると、本人はちゃんと発音しているつもりでも、段々言葉は自然と楽な方に流れてくる。車掌さんも、一日に何度も何度も、「次は福島」と言っている。
 「ツギワ フクシマ=tugiwa fukushima」が、いつしか「ツグワ フクスマ=tugwa fuksma」に変化する。
 
 もちろん乗客の方も耳にタコくらい聞きなれているので、「ツグワ フクスマ」と言われようが、「次は福島」だとわかる。
 が、目をつむり、耳を白紙の状態にして謙虚に聞いてみると・・。

 「ツグワ ヌダ tugwa nuda・・」 (次は野田)
 「ツグワ ヌシャクジャ tugwa nushakja・・」 (次は西九条)
 「ツグワ バンタンチャ tugwa bantancha・・」 (次は弁天町)

 ここは本当に日本なのだろうか・・。乗りなれた環状線が、いつの間にかジャカルタあたりの線路に迷い込んでいるような、不思議な気分になる。
【よしなしごと0247・2007年9月10日 (月)掲載】

【よしなしごと】シリーズは『tanpoPost』に2004~2013年にかけて掲載したブログ記事です。エッセイ風のショートストーリー、パロディ、ニセ論文、小ネタ、などなど。思いつくままに書き散らした小文をランダムに【選】としてご紹介します。お付き合いいただければ幸いです。

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