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『短編』チョコレートコスモス(後編)

"やー。knownさん。今日は雲一つない青空だよ。いつもはカーテンは閉めているんだけど、今日はナースさんに許可を貰って30分だけ空けてもらったんだ。空が青くてかき氷のブルーハワイを食べたくなって食べたんだ。"

"こんにちはunknownさん。こっちは一日中土砂降りでしたよ。私は今、バイトが終わってガリガリ君を食べながらホームで電車を待ってます。"

私はそう返信するとシャクシャクと食べ、体を通る冷たさで疲れを癒していた。後、少しで夏だ。体にまとわりつくシャツの気持ち悪さともお別れだと、少し浮き足だっていた。

夏休みになれば、誰とも会わなくて済む。
いくら一人を選んだとはいえ、食堂で一人で食べるご飯は寂しさがある。夏の計画で話が弾む学生の声の隙間を歩くのにも少し気を使う。
そんな自分の選んだ選択の重石を下ろせる長い夏休みは楽しみで仕方なかった。

"そう言えば、夏休みは何をするんだい?"

私は彼からのメッセージに私は何と返せば良いか分からずスマホの閉じるボタンを押した。

何と答えるか。
友達がいないから一人で過ごすと素直に言うべきか、それとも友達と海に行くとかカッコいい嘘を吐くかで悩んだ。正直選択したとは言え、友達がいない寂しさは私の心の奥底で目を覚まそうとしていた。いろいろ自分で言い聞かせて無理やり目を覚さない様に睡眠剤を与えていたが、もう、オーバードースで心がガタついていた。

"いないよ。友達。そんな夏を楽しむ友達なんていない。私が自分を守るために全部白くしたつもりなのに、実は真っ黒だったんだ。"

私は、涙で滲むボタンを拭う様にスワイプしながら送った。

そして、私は電車に乗り暗くなるトンネルを抜け家路についた。

帰ってスマホを確認するとメッセージが入っていた。

"君の決断なら胸を張ればいいよ。でも、無理をしているならそれは選択だ。選択はいつだって変えれるよ。"

"でも、選択を変えるって今まで私は1人を貫いて来たのよ。そのせいでいろんな人に冷たい態度をとった事もあったし、今更仲良くしましょうなんて虫の良い話だわ。"

"その程度の人はその程度の人だよ。別に沢山友人いらないじゃないか。knownさんを分かってくれる人1人で十分だよ。でもこれは僕の考えだけどね。とりあえず、少しだけ心の扉開けてみるといいよ。"

"うん。分かった。頑張ってみる。"

"うん。無理しないようにね。"

私はそのメッセージを見て少し背中を押してくれた会った事のないunknownに感謝した。

しかし、氷で固まった私の体は心では分かっていても何かと理由をつけて行動に移せないでいた。いつも通り食堂で1人でご飯を食べていると、目の前で手作りのお弁当を広げて食べ出した女性が現れた。

私はハンバーグ定食を食べながらその子を観察していると目が合った。私は勇気を出してニコリと笑い会釈すると、女性はペコリと頭を下げお弁当を食べ出した。

私は食べ終わりキャリアセンターにあったボランティア広告を見ていると、女性がキラキラした目で私に近づいてきて「児童施設の指人形興味ありますか?」っと言ってきた。

「キャリアセンターにあったから見てるだけですよ。でも、この取り組み凄くいいと思います。」

私は率直な感想を言うと、彼女の柑橘系の匂いが分かる範囲まで近づいてきた。

「えー。これ私がしているんですが、先輩達が皆卒業して私1人になったんです。良かったらでいいんですが、手伝って頂けませんか?」

彼女は私の前で手を合わせて神でも拝むように手をすり合わせ出した。

私は彼女の迫力に圧倒されコクリと返事をした。

そして彼女はありがとうっと言うとスマホを取り出し番号を交換した。

そして、時計を見た彼女は授業の時間があるらしく、名残惜しそうに小さく手を振り駆け足で去っていった。

嵐の様にやってきた彼女は私のスマホに跡を残し去って行った。

"unknownさん。私今日番号交換したよ。児童養護施設で指人形をする事になったの。"

私はunknownさんにすぐに報告したくて、メッセージを送った。

"良かったね。指人形か。小児科で年に2回学生さんがしてるのを見たことあるよ。良かったら撮影したのを送ってよ"

"へー。そうなんだ。難しいのかな?練習してちゃんとできたら送るよ。夏休みに練習して、8月に発表だから頑張るね。"

"うん。指人形楽しみにしてるよ。"

私はスマホを閉じると夏休みの話で持ちきりのキャンパスの真ん中を歩き次の講義へと向かった。空にはデカデカとした真っ白の入道雲が浮かんでいた。

それから、夏休みに入り、私達は指人形の練習を始めた。2人しか居ないのでフォーメーションの確認とかセリフとかを決めながら充実した毎日を送った。

「ねー。指人形の発表終わったら打ち上げでご飯食べに行かない?」

急な誘いでビックリしてると

「嫌だった?」
っと聞いてきたので私は首を横に振り

「私大学で友達全部切って1人だったから急な誘いにびっくりして。でも、行きたい。その為なら頑張れる。」

「友達いないのは私も一緒よ。先輩達がいた時はご飯とか行ってたけど、卒業してからは作ろうとも思わなかったわ。でも私達はもう友達よ。絶対に成功させようね。」

私達は日が暮れても一つの事を成功させる為に頑張った。

"unknownさん。今日友達って言って貰ったわ。この人なら信じても良いって思ったの。嬉しいわ。unknownさんにすぐ報告しようって思って。"

"knownさん。良かったじゃないか。僕も嬉しいよ。夏休み楽しんでるね!"

"今までの夏休みで1番楽しいわ。全部unknownさんのおかげね。ありがとう。"

"そんな事ないよ。"

"unknownさんところでだけど、名前は何て言うの?"

"それは、指人形の発表会が終わったらいうよ。その時君の名前も教えてね。"

"分かったわ。約束よ"

そして、私達はバイトの時間以外は指人形の練習に開けくれ発表当日になった。

物語は金ピカの石の中に閉じ込められて眠る女の子を出す為に毎日少しづつ削る少年のお話だった。女の子は石の中では歳をとらないが彼は毎日、毎日削りやっと彼女が出てきた頃にはお爺さんになっていた。女の子はそんな石の中で毎日削る少年に恋をしており、出れたその場でお爺さんに告白した。お爺さんは近くに咲いているチョコレートの匂いがするチョコレートコスモスを手渡すと彼女の前から姿を消した。

チョコレートコスモスの花言葉は『恋の終わり』『恋の思い出』『移り変わらぬ気持ち』

お爺さんの複雑な気持ちが込められたチョコレートコスモスの甘い匂いに女の子はお爺さんとはまた違う方向へと歩き出した。


私達の指人形の発表が終わると大きな拍手が起こった。私達はお辞儀を済ませると片付けを終わらせて施設を後にした。

「誘ってくれてありがとうね。私誘われなかったらきっと意味のない夏休み過ごしてたわ。」

「その話は居酒屋でしましょ。それよりスマホで発表撮ってたけど、どうするの?別にカメラセットしてたのに。」

「これは、私を変えてくれた人に送るの。」

「え?好きな人いたの?」

「んー。好きな人よりもっと大事かも。」

「それも、居酒屋で聞くわ。」

私達は居酒屋へ向かった。

"unknownさん指人形の動画送るわ。因みに最後に出てきた2人の内の右の青のTシャツが私だから。"

私は動画と一緒に送った。

それから、unknownさんからの返事は無かった。
1週間待っても返事はなく1ヶ月たっても返事はなかった。

私は何か日に日に不安は膨らむばかりだった。
そして、ある日何事もない様に彼からメッセージが届いた。

"やー。返事が送れてすまなかった。手術を受けていたんだ。動画見たよ。凄くよかった。それにknownさんは僕の想像以上に美人だったよ。ビックリした"

私はすぐに返信した。

"手術ってどう言う事?"

"まー。良くなるためのさ。成功したよ。"

"そうなんだ。良かったね。でも、心配したんだから、そう言うのはちゃんと言って欲しい。"

"それは悪かったよ。"

"病院は何処にあるの?良かったらお見舞いに行きたいのだけど。"

"来てくれるのかい?嬉しいね。県立病院にいるよ。"

"分かったわ。なら、明後日のお昼頃に行くね。"

"待ってるよ。602号室にいるから。その時に名前を教えるよ。"

私は彼にまず何を伝えようか。
どんな話をしようか。
どう、感謝を伝えるか。
何をあげたらいいか。
彼の事を考えていた。

そして、当日。
私はいつもより少し気合いを入れてメイクし、いつも履かないワンピースを来て電車に乗った。

そして、病院の前に着いた。
私は病院に入り、彼に会えるドキドキを抑えながらエレベーターの6階のボタンを押した。

六階に付き受付から斜め右の部屋。
私はノックし入った。

部屋をみると、人の気配がない。
綺麗に畳まれたシーツが殺風景さを物語っていた。

私はメッセージで602号である事を確認して外の表札を確認した。

間違いない。602号室だ。

私は病室を一つ一つ回った。
しかし、私と同じくらいの男の子は居なかった。

私は受付の看護婦さんに聞いた。
602の方は何処にいますか?

すると看護婦さんは気を使う様声色を変え答えた。

昨日の夜に病状が悪化し亡くなりました。

私は目の前が真っ白になった。
グルグルと回る視界に気持ち悪くなりその場に倒れた。

私は看護婦に起こされ602の病室に寝かされた。

彼が死んだ?
2日前に手術成功したって言ってた。

私は体を起こし周りを見渡した。

すると棚にチョコレート色の花が花瓶に生けられていた。

私はチョコレートコスモスに近くと花瓶の下に一枚の紙が挟まっていた。

紙を見ると、ヨレヨレの線でこう書かれていた。

「君がどうやら僕は好きみたいだ。
だから君には幸せになって欲しい。

チョコレートコスモスの花言葉は今の僕にはぴったりだ。青。」

私は紙を握り

「青って名前だったんだ。私は白って名前だよ。似た名前だったんだね。」

私はその場に座り込み甘い匂いがする部屋で座り込んでいた。

そして、私は青が過ごした部屋の空気を思いっきり吸い込み部屋を後にした。

青空にはまっすぐ伸びた飛行機雲が走っていた。
私は青に包まれながらチョコレートコスモスと一緒に歩き出した。


それから、一年が過ぎた。
青のチョコレートコスモスから出てきた種を植え新しく出てきた子達に水をあげていた。

いつか青に話せる時が来たら、私の話を一杯聞かせてあげよう。私は青のお陰で少し変われた。会えた時はまずお礼を言おう。

ありがとうって。


おしまい。


-tano-



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