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『短編』僕の優しいご主人。

メガネの僕はいつもご主人と一緒。
ここ3年間は寝る時以外いつもご主人の視界をくっきりする為に頑張っている。

多分どんな綺麗な靴よりもカッコいい服よりもご主人と一緒にいる。

ご主人は高校生で中学2年生の頃から一緒にいる。
いつも眼鏡拭きで僕を綺麗に拭いてくれて、大事にしてくれている。

僕はご主人のご両親よりもご主人を知っているんだ。
運動が苦手で、マラソンの時ははーはーっと死にそうになりながら校庭を走っている事。

高校生になって僕はいつも1人の女の子を見ている事。ご主人はこの人が好きなんだって。少しニヤニヤした事。

その子にご主人が告白した事。
僕はご主人の秘密は何でも知っていた。

その度に頑張れ。頑張れって応援していた。

そして、恋は成就した。
デートにはいつもついて行った。

最初は僕はなかなか彼女の顔を見れなかった。
ご主人はどうやら緊張で見れなかったみたいで、デートが終わり彼女とバイバイした後、「これじゃいけないな。」って反省とかしていた。

LINEも僕はどんなをやりとりしているのか知っていて、凄くたわいもない話から、イチャイチャする内容まで何でも見せられた。

ご主人。あまり見せないでおくれよ。
僕のレンズが赤くなるよ。

僕はそれを毎晩見せられていた。

そして、12回目のデートの時。
美味しいご飯を食べて、文房具店に買い物に行き、公園を散歩した後、ご主人と彼女様はベンチに座った。

ご主人と彼女さんの間には少しばかしの距離があり、ご主人が付き合って初めて彼女に言葉で「ずきだよ」って言った。

緊張で「ずき」って言ったご主人。
それを聞いて赤くなる彼女様。

耳にかかるフレームが痒くなる僕。

そして、ご主人はクッと彼女様に近づくとキスをした。

いきなり僕の右レンズは彼女様の眉間あたりにクッと押し付けられ僕は彼女様が怪我しない様に出来るだけ身を捩った。

その後、彼女様から離れた僕は彼女様の全体の顔を見ることができたのだが、恥ずかしそうに唇をキュッと噛み締めて僕を見ていた。

その後、ご主人と彼女様はふふって笑うとピッタリくっつきたわいも無い会話を始めた。

ご主人の体温がフレームを伝って来たのだが、凄く僕は暑かったのを覚えている。

そんな僕のご主人だったがある日、僕を朝眼鏡ケースから取り出す時誤って落としてしまい、僕の左のフレームが折れてしまった。

結構痛くて気を失ってしまったが、気がついた時には接着剤で治してくれて、テープでぐるぐる巻きに手当てしてくれていた。

その日はクラスでテープでぐるぐる巻きにされた僕を見た他の人達が買い換える事を勧めて来たがご主人は

「このメガネが好きなんだ」
って言ってくれた。

僕はご主人のこう言う所が好きである。

マラソンが苦手で勉強も中くらい。
クラスでは余り目立たないが、その分何百倍も優しい。

自慢のご主人だ。

しかし段々、ご主人と僕の間にズレが生じて来た。

僕のレンズではご主人の視力を合わせる事ができなくなり始めたのだ。

そして、黒板を見る時段々目を細くする回数が増え、僕のレンズではご主人を支えることが出来なくなった。

そして、ご主人のご両親は眼鏡を交換しないと受験勉強に差し支えが出てくると、この際コンタクトに変えるといいと勧めてきた。

ご主人の彼女様も眼鏡よりコンタクトの方が似合うよってご主人に勧めていた。

僕はご主人と離れるのは嫌だけれど、ご主人の足を引っ張るのはもっと嫌だと思った。

だから、ご主人が新しい眼鏡に変える事は仕方のない事で、僕はご主人が選ぶ運命なら従うつもりでいた。

ご主人に合わない僕。
左の折れたフレームに巻かれた少し黄ばんだテープ。

鏡を見るたびに少しだけ自信を失っていた。

そして、僕とご主人は眼鏡屋さんにいた。

ご主人は色んな眼鏡を眺めていた。
そこには最新の軽いフレームとか流行のデザインとかが並んでいた。

ご主人は近くの店員さんに話しかけ始め、僕を店員さんに渡して何やら交渉し始めた。

店員さんは僕を預かると僕を器具の沢山置いたベッドに寝かせて僕のネジを外し始めた。

そして、一瞬暗くなったかと思うとカチャカチャし始め、僕を水につけたり、強い風を浴びせたり綺麗にしてくれた。

そして、僕はご主人に返された。

ご主人は僕を定位置に掛けると鏡を見て、小さな声で「やっぱり、これだな」っと言ってニコニコしてくれた。

僕はご主人のこんな所が大好きだ。

ご主人はレンズを変えてくれて、痛々しかったフレームも交換してくれた。

生まれ変わった僕はまたご主人と色んな所に行ける。ウキウキした。

そんなこんなでご主人とはもう15年の付き合いになる。

彼女様はお嫁様になり、お子様を産んだ。

ご主人は仕事で時々怒られているが、僕はご主人の味方である。

僕はご主人が大好きである。

そんなご主人の見る世界を今日も僕は素晴らしい物になる様に祈って写している。

おしまい

-tano-

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