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「報道するだけでいいのか?」地方紙のネットワークを活かした、不登校の子どもたちを応援する新しいカタチ

「報道を通じて課題を世の中に伝え、寄付を募る。私が挑戦したのは、そんな新しいジャーナリズムです」

そう語るのは、西日本新聞社で教育分野の報道を続けてきた記者の四宮淳平さん。働きながら大学院に通い、不登校をめぐる課題を解決する方法を模索してきました。

大学院卒業後に取り組んだのは、不登校支援を行う認定NPO法人とコラボしたクラウドファンディング。朝刊発行部数43万部という西日本新聞のネットワークを活かして、不登校の子どもたちを取り巻く課題を伝え、寄付を募りました。そんな四宮さんに、これまでの経緯と教育への思いを聞きました。

記者として報道するだけでいいのか。教育のために何かしたいと大学院へ

—— 四宮さんはどんな経緯で教育分野の記者に?

もともと私は、教育分野の取材は担当していませんでした。2005年に西日本新聞へ入社してからは、行政や政治に関する記事を書いてきたんです。特に地域活性化について取材をする機会が多かったのですが、正直なところどこも似たり寄ったりなことをやっていて。行政主導の地域活性化策に疑問を感じていました。

地域活性化に必要なのは「こういうことをやった方がいいんじゃないか」とか「こんなことをしたい」という地域の方々の主体的な行動だと思ったんです。自分たちで解決策を考えて行動するのが、本来の地方自治ではないでしょうか。

地域活性化が難しくなってしまう理由を考えたとき、地域の方々から声が上がらないのは、教育に課題があるからではと思いました。画一的な一斉授業を受けてきた人たちが、自分から行動するのはハードルが高いですよね。自分たちで考えて何かをすることが、今の教育には欠けているのではないか。それで、教育に問題意識を持って、2016年頃から教育分野の取材をするようになったんです。

—— そんな経緯があったんですね。

記者としての経験のほかにも、きっかけがもうひとつあります。教育に問題意識を持ち始めたのが、ちょうど長男が小学校に入学した頃でもあって、授業参観に行ったんですよ。そうしたら、黒板の一番上に子どもたち全員の名札が貼ってあって。発言した数だけ、先生が子どもたちの名札を下にずらしていたんです。つまり、今日誰が何回発言したかが、一目瞭然なんですよ。

たくさん発言できる子にとったら誇らしいのかもしれないですが、何も発言できない子からするとずっと自分の名前が黒板の上に掲示されている状態になる。こんな仕組みははじめて見て、「どうしてここまで管理しているんだろう」と疑問を感じざるを得ませんでした。この出来事も重なって、教育を変えなきゃいけないと強く感じましたね。

—— その光景を想像すると胸が痛くなります。

教育分野にはいろんな課題があるものの、記者として記事を書く中で、私は特に不登校が大きな課題だと思うようになりました。本来受けられるはずの公教育の恩恵を受けられていないのが、不登校の子どもたちだと感じたからです。

それで、不登校をテーマにした記事もシリーズで報道してきました。過去に不登校になった方や支援者から話を聞く中で、問題の深刻さを実感しましたね。

ただ徐々に「報じるだけでいいのか?」と考えるようになったんです。本当に苦しんでいる子どもたちの力になれているのかな、と。報道してもなかなか目の前の現状は変わりません。「記者を続けるだけでは問題の根本的な解決につながらないのでは」と思うようになりました。それで、もっとできることがあるのではという思いで、2020年に大学院へ進学したんです。

報道を通じて、寄付を募る。新たなジャーナリズムに挑戦

—— 四宮さんは事業構想大学院大学で学ばれていましたね。

教育分野の取材をする中で、事業構想大学院大学のことも取材して、すごく面白い取り組みをしている大学院だと感動したんです。大学院が開設して3年目になる年に入学を決めました。私が選んだ研究テーマは「不登校」。

研究ではなかなか斬新な事業アイデアは思い浮かばず、大学院の先輩に相談しました。すると「四宮さんだからこそ、できることがある。それは報道することだ」と言ってもらったんです。この言葉をきっかけに、自分の強みに気づくことができました。

報道を通じて課題を世の中に伝え、共感してもらった方々から寄付をいただく。その寄付を不登校支援をしている方々に託し、課題解決につなげてもらう。報道という枠組みから一歩外に踏み出してみる。私が卒業時に提案したのは、そんな新しいジャーナリズムでした。

—— 四宮さんが教育事業のプレーヤーになる選択肢もあったと思うのですが、新聞社のリソースを活かすところに立ち戻ったのですね。

私も正直なところ、自分が教育者になった方がいいのではと思っていた時期もありました。でも、もし私が新聞社を辞めて教育者になったとしても、教育者としてのキャリアは1年目なわけです。学校に入って現場を変えていくのは、自分には難しいだろうなと思いました。私がフリースクールを経営したとしても、担当できる子どもの数はそれほど多くないのかな、と。

私はいま、教育にまつわることを取材して報道できる立場にいる。それに、新聞社で記事を15年以上書いてきたキャリアがあります。そう考えたとき、やっぱり私の強みは、新聞社にいることだとわかったんですよね。それを活かさない手はないと、大学院に行って痛感しました。大学院で出会った教授からも「新聞社の外に出たからこそ、自分のやってきたことを客観的に見れたのでは」と言ってもらいましたね。

不登校支援NPOとのクラウドファンディング。169名がサポーターに

—— 全国紙がクラウドファンディングサイトを運営するケースはいくつかあるものの、地方紙が、紙面でクラウドファンディングを呼びかけるのは、全国的に見ても珍しいと思います。社内では、どう企画を通していったのでしょう?

私が大学院に行ってまとめた事業構想計画を、新規事業に携わっている同僚に読んでもらいました。せっかく大学院に行ってまとめあげた企画なので、何もしないのは、もったいないなと。その同僚があれこれ協力してくれました。

最初は、西日本新聞社で財団を立ち上げて報道で寄付を集め、教育関係の団体に資金を分配することなども考えていました。でも、いきなり財団を立ち上げるのはハードルが高いという話が出て。

まずは不登校支援に取り組んでいる団体とコラボして、一度クラウドファンディングをやってみようという話になったんです。一度挑戦してみることで、報道がどれくらいの寄付を集められるかもわかるのではないか、と。

—— それで、クラウドファンディングに挑戦されることになったのですね。

2022年11月下旬から2023年1月下旬まで、福岡市で不登校支援をする認定NPO法人エデュケーションエーキューブとパートナーを組んで、クラウドファンディングに挑戦しました。

エデュケーションエーキューブに声をかけたのには、いくつか理由があります。まず、福岡県内で3拠点のフリースクールを運営していて、全国に100校フリースクールを作る目標を持っていたこと。他にも、困窮世帯向けの奨学金制度があって、経済的に困っている家庭の子どもたちも通える仕組みがあったこと。10年の活動実績があったことも、私たちの背中を押してくれました。

私たちからクラウドファンディングの話を持ちかけたのですが、「一緒にやりましょう」と返事をしてくださって嬉しかったですね。

公的な支援が少ないため、フリースクールの運営は簡単なことではありません。エデュケーションエーキューブでは月額計30万円以上を3教室の家賃に充てなければならず、大きな負担になっていました。それで、フリースクールの家賃を安定的に支払っていくために、150名のマンスリーサポーターを募るクラウドファンディングをすることに。

クラウドファンディングの運営会社の方からは「いきなりこの高い目標を達成するのは難しいのでは」と言われました。でも「私たちにはこれだけの人数が必要なんです」という話をして。私たち西日本新聞は、不登校についての報道やクラウドファンディングの発信を担いましたね。当時発信した記事には、クラファンサイトのQRコードを載せて寄付を募りました。とにかく発信する記事数をかなり増やしましたね。

結果は目標を上回る、169名がマンスリーサポーターになってくださり、ご支援をいただくことができました。私のことやエデュケーションエーキューブの代表のことを知っていて、記事を読んで寄付をしてくださる方が多かったですね。「クラウドファンディングのことがよくわからない」というお年寄りの方も、新聞を見てサポーターになってくださいました。ウェブだけでなく新聞で発信できた影響力は大きかったと思います。

—— 毎月寄付をしてくださるマンスリーサポーターを集めることは簡単なことではないですが、新聞社の持つ信頼や発信力が活きたのだろうなと思います。今回のプロジェクトに取り組んだことは、記者の仕事にどのように活きていますか?

最近、休眠預金を活用した不登校支援を始めた団体さんから、委員になってほしいと言われました。不登校支援に熱心な記者だということを、社外の方にも認知してもらったのはひとつあるなと思います。それと、短期間にこんなにたくさんの記事を出したのは初めてだったので、自分の限界値が上がったなと思います。

公教育の幅を拡げれば、不登校をめぐる課題は解決できる

—— 不登校支援に取り組むプレイヤーも地域で少しずつ生まれていますが、一方で全国的に不登校の子どもたちは増え続けています。不登校をめぐる課題を報道し続けてきた四宮さんは、この課題についてどのように考えられていますか?

私の中で答えははっきりしていて、公教育の幅を拡げればこの課題は解決すると思っています。公教育が学校だけに限定されている今の状況に問題があるのではないでしょうか。子どもが変化しているのだから、公教育の在り方も変化させればいい。

不登校の課題を解決するために、学校だけでなくフリースクールや家庭で受ける教育もすべて公教育とみなすことが必要だと思います。海外では、転校が自由にでき、何の気兼ねなく自宅学習も選べるという国がたくさんあります。学校だけに固執している日本のあり方を変えていく必要があるのではないでしょうか。

実は仕事をしながら大学院で学んでいたとき、私の子どもも不登校になりました。学校に行けない子どもの親になって痛感したのは、当事者になってみないとわからないことが、たくさんあるということ。

その最たるものが、不登校の子どもがいる家庭の見られ方でした。私が目の当たりにしたのは、「あそこの家庭は親が忙しくて子どもの世話をちゃんとできていない」「些細な出来事で子どもが傷つきすぎる」など学校側は家庭に問題があると見ている現実だったんです。学校と家庭との間で、大きな認識の違いがあると感じました。

不登校になった子どもたちは「自分はダメだ」と劣等感を抱えてしまうことがあります。でも、学校以外の選択肢が子どもたちの前に広がっていたら、子どもたちの感じ方が変わってくると思うんですよね。フリースクールやホームスクーリングが当たり前の選択肢のひとつになったら、挫折することなく別の選択肢を選べるようになると思うんです。

ひとりひとりの学びを大切にすること。それがどの記事にも込めているただひとつの思いです。こんな教育環境を私たちの世代で実現したいですね。

—— 教育現場で働くという形じゃなくても、学びを変えていくために働きかけていく選択肢があることを見せていただいたなと思います。四宮さん、本当にありがとうございました!

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