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子どもたちの創造力を育む「デザイン思考」って?企業とコラボした探究学習を届ける「CURIO SCHOOL(キュリオスクール)」

野菜の販売数を増やすために、新しい販売方法や商品を考えてほしい——。ある企業から出されたこの問い。中学生たちは野菜嫌いの子どもを育てる保護者に注目。野菜と一緒にレシピ付きの絵本を販売するというアイデアを提案しました。

これは子どもたちの創造力を育む探究プログラムを届ける「CURIO SCHOOL(キュリオスクール)」が行った授業の一場面。企業と子どもたちをつなぎ、自ら考え価値を創造する人を育てる活動を続けています。そんなCURIO SCHOOLのプログラムで子どもたちが必ず学ぶのが、デザイン思考。

子どもたちの創造力を育むデザイン思考とは一体何なのでしょうか?そして、CURIO SCHOOLが届けるプログラム、見据える未来とは?代表の西山恵太さんに話を聞きました。

もっと早く「デザイン思考」と出会いたかった。起業の原点に

—— CURIO SCHOOLでは、子どもたちにデザイン思考をベースにした教育プログラムを届けています。そもそもデザイン思考とは何なのでしょうか。

デザイン思考は新しい商品やサービス、事業を生み出すための考え方です。特徴は2つあります。ひとつは、ユーザーひとりひとりの価値観や生活を深く観察して、ユーザーが本当に求めているものを考えること。もうひとつは、その願いを叶えられる試作品を実際につくって、アイデアの価値を確かめることです。仮説を立てて、検証するイメージですね。

デザイン思考のプロセスには「さぐる」「きづく」「ひらめく」「つくる」「ためす」の5ステップがあります。まず、いろんな情報を調べて現状を探り、本当の問題に気づく。そして、気づいた問題を解決するアイデアをひらめき、そのアイデアを形にし、本当にうまくいくか試してみる。

このプロセスを繰り返して、どんどん生み出したアイデアの質を高めていくのがデザイン思考です。企業の商品開発はもちろんのこと、最近ではまちづくりや教育分野にもデザイン思考が取り入れられることが増えてきました。

—— デザイン思考に着目する企業は増えてきていますが、子どもたちにデザイン思考が必要と思われるのは、どうしてでしょう?

デザイン思考では、あるユーザーに注目してその人の困りごとについて考えます。まさに思いやりですよね。思いやりを持ったり、相手について深く考える機会は、小さい頃から必要ではないでしょうか。

それと、学年が上がって高校生にもなると頭で考えることが得意になって、頭でっかちになってしまう傾向がある。だからこそ、小学校高学年や中学生の段階で、仮説を考えて実際にアイデアを形にするデザイン思考の本質を知っておく必要があると思います。

僕自身は、大学院生のときにデザイン思考と出会いました。スタンフォード大学で1年間、デザイン思考をベースにした商品開発プロジェクトに関わったんです。

そのプロジェクトでつくったのは、ダンボールでできたペーパーバイクでした。2チームに分かれて商品開発が始まり、僕ら日本人チームは設計図を書くことからスタート。一方で、デザイン思考を学んでいたフィンランド人チームはすぐに試作品をつくっていたんです。そこから何度も修正をしていくので、完成度も高かった。

その時に、「デザイン思考という思考法があるなら、もっと早くから知りたかった」と強く思いました。それで、日本に帰国してから、経営コンサルタントとして働きながら、デザイン思考が学べる小学生向けのワークショップを始めたんです。このワークショップが今のCURIO SCHOOLにつながっています。

プロとアイデアを形にできるプログラム

—— 実際に、CURIO SCHOOLでは子どもたちにどんなプログラムを届けているのですか?

ひとつは、学校に出向いて届ける探究学習プログラム「MONO-COTO PROGRAM」です。このプログラムでは、デザイン思考を学んで探究学習の進め方を掴んだ後、企業から出されたテーマの解決策を考え形にします。

企業のみなさんが中高生に「こういうことを考えてほしい」とテーマを提示されるので、子どもたちもすごく本気になるんですよね。中には、僕らが中高6年間の授業を担当している学校もあります。

これまでいろんな企業とコラボしてきました。例えば、二子玉川ライズ・ショッピングセンターさんとは「平日の来場者数を増やすには?」というテーマで、田園調布学園の中学生にプログラムを実施。子どもたちは先生や親にインタビューをして、ユーザーが求めていることやショッピングセンターの周りの状況を考えながら、デザイン思考をベースにアイデアを形にしていきました。

最終的には、スタッフの方々を学校に招いて、代表に選抜された生徒が自分たちのアイデアを発表。プロの目線からフィードバックをもらい、実際に子どもたちのアイデアが採用されました。この秋には子どもたちと二子玉川ライズさんがコラボした期間限定メニューが発売されています。

他にも、キヤノンマーケティングジャパン株式会社さんとコラボして、Vlogカメラ「PowerShot V10」をZ世代の若者に届けるためのマーケティングプランを考えたこともあります。中高生が考えたアイデアをその道のプロに審査してもらいましたね。

—— 子どもたちがアイデアを考えるだけでなく、現場のプロから意見をもらえるのがユニークですね。

MONO-COTO PROGRAMの他にも、全国の中高生が革新的なアイデアの創造にチャレンジする4泊5日のプログラム「MONO-COTO INNOVATION」を毎年開催しています。学校の枠を超えてチームになったメンバーとデザイン思考を使って、与えられたテーマのアイデアを形にするプログラムです。プログラムの中には、プロのデザイナーやエンジニアに直接話を聞ける時間もあります。

今年は全国から500名を超える応募があり、選考に通った中高生80名が集まりました。今回出されたテーマはふたつ。ひとつは、本屋の再定義です。電子書籍の普及など、本屋の置かれた状況は刻々と変化しています。子どもたちはこれまでになかったスタイルの本屋について考えました。

もうひとつのテーマは、駅での心地よい体験のデザイン。たくさんの人が利用している場所にもかかわらず、駅では歩きスマホなど危ない行動がよく見られます。いろんな立場の人が快適に駅を利用できるように、利用者が自然と自分の行動を変えたくなるアイデアを考えるというものです。

MONO-COTO INNOVATIONの最後には、プレゼンテーションをして優勝チームを決めています。まさに創造力の甲子園のような場ですね。今回は株式会社丸善ジュンク堂書店さんとJR東日本さんにご協力いただき、中高生のアイデアを審査してもらいました。

学校の先生からは「企業との繋がりをつくりたいけど、どうしたらよいかわからない」という声を聞きます。そうしたつなぎ役として、僕らの価値があると思っていますね。

子どもたちと企業がともに成長できる機会をつくる

—— いまは様々な探究学習プログラムがありますが、子どもたちと企業とを繋いでいる取り組みはあまり見かけないですね。

僕の言い方だと、淡水と海水が入り混じる汽水域をいかにつくるかがポイントだと思っているんです。汽水域は見た目はドロドロしているものの、栄養素は満点なんですよね。淡水が生徒や学校で、海水が企業や社会だとしたときに、汽水域は両者にとってメリットがあるんです。

企業のみなさんとのコラボは、汽水域として機能していると思います。生徒は社会がどんな場所かを覗けて、企業も子どもたちからたくさんのことを学ぶことができる。お互いが成長する機会をどうつくるかが大事なんです。

—— 参加する企業からは、どんな声をもらっていますか?

企業の方の反応はすごく良いです。「中高生が頑張っている姿を見れてよかった。刺激になった」という声や、「中高生の視点が面白い。彼らと共創して、実際サービスをつくってみたい」という声をもらったことも。

僕らは中高生が考えたアイデアを社会で実現させることは必須だとは考えていません。でも、その可能性が少しでもあるなら、中高生と企業を繋ぎながら社会実装に向けて一緒に動いていければと思っています。自分たちが考えたアイデアが実際に社会で形になっていくことは、子どもたちの大きな自信につながるので。

去年MONO-COTO INNOVATIONで優勝したチームの子どもたちとは、今も彼らのアイデアを実現させるために一緒に活動しています。

—— MONO-CONO INNOVATIONも見学させてもらいましたが、首都圏だけでなく地方からも子どもが参加していたり、若手スタッフが多かったのも印象的です。

僕らが関わった子どもたちの中には、もう社会人になっている子たちもいます。ある子からは「これまでの人生を振り返ってみると、CURIO SCHOOLでの経験が原点になっているなと思う。自分で手を動かして価値を生み出すことの難しさと楽しさがわかりました」という言葉をもらいました。そういう声を聞くと、僕らが続けていることは無駄じゃなかったのかなと。

プログラムを受けた子どもたちが社会人になって、あちこちで活躍してくれたら嬉しいですね。僕らが関わった子どもたちの中には起業した子もいます。これからはむしろ僕らのことを助けてほしいというか、こういう教育の機会を広げるために卒業生たちともコラボできるといいなと思いますね。

大人になった子どもたちが、創造力を発揮できる社会へ

—— 西山さんは社会人を経て2015年に起業されていますが、ここまでを振り返って思うことはありますか?

なかなか一筋縄にはいかないですよね(笑)最初は習い事としてデザイン思考を学ぶ小学生向けのプログラムを立ち上げていたのですが、何年間か経験を重ねるうちに、これじゃ無理だな、仮説が間違っていたなとわかってきたんです。

「小学校低学年からデザイン思考を学ぶといいだろうな」と思っていましたが、実際にやっていくとそんなことはない。小さいうちはもっと自由に遊べた方がいいし、中高生を対象にした方がいいなというのは、大きな気づきでしたね。

それで、これまでやってきたことを変えていかないといけなくなった。でも僕は、最初の事業にも思い入れがあったからこそ、切り替えには結構勇気が必要でした。

—— 起業のプロセス自体も、仮説を試しながら新しいものをつくっていくデザイン思考のような側面があったのかもしれませんね。そこで切り替えたからこそ、いまのプログラムにつながっているのですよね。

そうですね。僕らの得意としているデザイン思考は、小学校低学年だと抽象度が高すぎたものの、中高生とはすごく相性が良いことがわかったんです。中高生になるとデザイン思考を理解しつつ、実際に手を動かしながらアイデアを生み出していくことができるからです。

2015年に起業して、CURIO SCHOOLは僕を含めて10人の社員からなる組織に成長しました。MONO-COTO INNOVATIONの卒業生コミュニティには約1500名のメンバーが集っています。事業や商品開発のために、このコミュニティの子どもたちと企業が共創する機会も生まれていますね。

—— 最後に、これから挑戦したいことを教えてください。

プログラムを通して、自ら考え、価値を創造する人を社会に増やしていきたい。その気持ちはこれまでと変わりません。ただ、未来を見据えたときにそれだけじゃダメだな、と。

僕が最近気になっているのは、子どもたちが大人になったときのことです。今は、せっかく創造力が育まれた子どもたちが社会に出ても、なかなかその能力を活かせる企業が少ないのではないかと思っているんです。

子どもたちを受け入れる企業の環境が整っていないと、子どもたちが潰されちゃうんですよね。企業では企画書を見ただけでダメと判断されることも多いです。でも、実際に一度アイデアを形にしてみることを受け入れられる管理職が増えていけば、ひとりひとりの創造力がどんどん活かされる社会になっていくと思うんです。

イノベーション教育や起業支援などの機会も増えてきていますが、起業する子どもよりも就職する子どもの方が社会には多いですから。企業が変わらないと子どもたちの創造力は活かせない。だからこそ、企業をどう変えていくかが大事かな、これからはそこに力を入れていきたいなと思っています。

頭で考えるだけではなくて、実際にアイデアを形にするのがデザイン思考です。その価値を企業に伝えていくことが、僕らに求められていると思います。創造力を持った人を増やしていくのはもちろん、子どもたちの受け皿となる環境も変えていく。そんな両輪のアプローチができればと思っています。

—— 教育を変えるだけでなく、社会への接続を見据えているところが素晴らしいなと思います。ありがとうございました!

CURIOSCHOOLは、中高生を対象とした「中高生探究コンテスト2024」の応募を12月23日まで受け付けています。詳細は下記よりご覧ください。


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