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子どもの「やってみたい!」から探究心をどう伸ばす?イベントレポート

世の中の変化に伴って教育への価値観が多様化している今、「探究力」への注目が高まっています。子どもが自ら問いを立て、自分の答えを見つけていく力を育むために、周りにいる大人ができることは何でしょうか。

7月3日に探究コネクト主催で行われたトークイベント「子どもの『やってみたい!』から探究心をどう伸ばす?」では、NPOカタリバ代表の今村久美さんが聞き手となり、マザークエスト代表であり教育ジャーナリストの中曽根陽子さんと、子どもの探究力の育み方についてお話いただきました。

子育てに正解はないが、大切な方向性はある

今村:中曽根さんはこれまでに中学受験関連の本をたくさん出されていますよね。今回の新著『成功する子はやりたいことを見つけている』を書こうと思われたきっかけを教えていただけますか?

中曽根:私は教育ジャーナリストとして、約20年かけて国内外の学校や塾などの教育現場を見てきました。その中で、社会で求められていることと学校教育や保護者が求めていることにギャップがあると感じてきました。

私の子どもは中学受験を経験していて、「偏差値の高い学校に行くことが良いこと」という価値観から逃れられない方とも出会ってきました。裕福な家庭で育ってる人が幸せかというとそうではなく、子育てに悩んでいる方もいます。

子育てに正解はありませんが、色んな方のお話を聞く中で、大切な方向性はあるなと気づいたんです。私が子育てについての本を書けるとは思っていませんでしたが、これまでの経験をお伝えすることはできるかもしれないと本を書きました。

今村:そういう経緯があったんですね。住んでいる地域によっては、中学受験と言われてもピンとこない方もいるかもしれません。お子さんの中学受験では、どのような取り組みをされたのでしょうか?

中曽根:本人は塾に行くことを楽しんでいましたね。学校がつらい場所だったこともあったようで、塾が居場所にもなっていたようです。ただ、一度塾に入ってしまうと、受験の雰囲気に飲み込まれてしまう感じはありました。

今村:中学受験に関しては、「小学生のときから塾に行ってストレスをかける必要はあるの?」と思ってしまうこともありますが、中には学校の授業だと物足りなくて勉強をもっとやりたい子や、スクールカーストから抜けられるサードプレイスとして塾に行く子もいるようですね。

中曽根:最近は中学入試の多様化が進んでいて、プレゼンテーションやプログラミングの能力が問われたり、グループに分かれて話し合ったり発表したりするPBL型入試を導入している学校もあります。必ずしも、小学校3,4年生の早い段階から受験のための塾に行かせる必要はなくなってきていると思います。

「受験に関する後悔」で1番多いのは、親子関係

今村:中学受験に向けて勉強するお子さんと一生懸命向き合っているお母さん達と話をしていると、受験は生半可な気持ちではできないものだと伝わってきます。本人との合意の上で臨んでいるとは言え、探究型の人気校に行くためには探究型とは程遠い受験生活を送らないといけないわけですよね。

かわいそうだとは思いつつ、やらせないといけないことも出てくると思います。そんなとき、親としては「自分は教育虐待をしているのではないか?」と思うことがあるかもしれません。中曽根さんご自身は、そういった点で苦労されたことはありますか?

中曽根:もちろんあります。娘が受験勉強を始めた当時は、私自身も受験のことはそこまでわかりませんでした。塾の学習内容の難易度は高く、テストの点数で順位が出ます。そうすると、親としてはつい子どもの出来ていないところに目がいってしまうわけです。また、娘は学校生活と塾の両立にストレスを感じることもありました。でも「ここまで来たのに塾をやめさせるなんて、本当にこの子のためだろうか」と考えることもあり、ジレンマを感じていました。

中学受験に疑問を持つ保護者は私以外にもいるだろうと思って、受験が終わった後に、当時、後悔しない中学受験をテーマにした掲示板をネット上につくりました。そこで、自分より少し先に子育てを始めた方の話を聞くことが出来たり、専門家の方に意見をもらったりできるようにしました。

今村:子育ての話は親同士でも意外とタブー感があって、「そんなにやらせてるの?」と思われるのも、「そんなにサボってるの?」と思われるのも、どっちも怖い(笑)特に受験となると、話題にしづらいテーマだと思います。

中曽根:そうなんですよね。皆さんなかなか本音は出しづらいと思います。だから、ちょっと関係性が薄い先輩ママに話を聞くくらいがちょうど良いと思っています。

今村:受験に関する後悔としては、どのような声が多くありましたか?

中曽根:やはり親子関係のことが一番多かったですね。特に印象的だったのは、中学受験で第一志望校に落ちてしまい、滑り止めの学校に進学した子のエピソードです。「第一志望校の結果が出たとき、お母さんは何も言わなかったけれど、顔がすごく怒っていた」と子どもは言うわけです。その子は最終的に東大大学院まで行きましたが、中学受験以降、母親との溝は埋まらなかったそうです。お母さんとしては、そんな関係性を望んでいたわけではないと思います。

今村:スクールカウンセラーをしている私の知人は、子どもの悩みで一番多いのは「学力の高い学校に行けず、親を喜ばせられなかった」という内容だと言っていました。でもそのことを親に直接言うことはできないようです。

そんな話を聞くと涙が出てきます。どの学校に行こうと、親は子どもを愛しているはずなのに、それが違ったメッセージとして伝わってしまったんだと思います。

中曽根:「親に喜んでもらいたい」と思って、子どもは色んなことをするんです。先日出版した本には、『焦らない、決めつけない、コントロールしない』の3つが大切だと書きました。次の世代の人にはそういう子育てをして欲しいなと思っています。

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偏差値以外にも注目。探究型の入試は増えている

今村:ちょうど参加者の方から質問が届いているので紹介します。「受験勉強は、探究学習と相反するような感じがします。探究心を育みつつ受験するために、心がけた方がいいことはありますか?」という内容です。こちらはいかがでしょうか?

中曽根:学校で探究的な学びをしてるなら、受験もそうして欲しいなと私としては思っています。この部分は、受験業界の構造的な問題もあるんですよね。

一つ言えるのは、「偏差値の高い学校だけが良い学校ではない」ということです。偏差値に関係なく、面白い教育をしている学校はたくさんあります。教育理念に共感できるかどうかにも目を向けてみると良いと思います。

また、大学受験に関して言うと、今は一般入試が減ってきていて半分はAO入試です。学習指導要領の改訂に伴って、大学受験の内容も変化してきています。答えは問題文の中にあったり、答えを導くためのプロセスを問う問題もあります。それが高校、中学に降りて来れば、受験が変わると思います。

今村:学習指導要領が変わると、高校や中学の学習内容が変わるはずなんですよね。そこから受験が変わっていくと考えると、今は過渡期なのかなと思います。学校としても、指導的な教育をどう手放していけるかも重要な点かもしれないですね。

余白の時間からも、子どもの好きなことは見つかる

今村:続いて、「探究心を育むために、家庭で出来ることは何でしょうか?」という質問が来ています。これは私の関心にもすごく近いなと思います。

「学ぶ楽しさを知ってほしい」とは思いますが、YouTubeやゲームに興味がいきがちなんですよね。子どもに「やりたいことはゲーム!」と言われてしまったり。でも、取り上げるのもちょっと違うなと思います。

中曽根:頭ごなしに注意したり取り上げたりしてしまうと、やはり上手くはいかないと思います。YouTubeやゲームは、大人でもつい夢中になってしまいますよね。

「私もついやりすぎちゃうから一回やめてみよう」とか、「一緒にちょっとYou tubeじゃないことをしよう」と提案してみるのも良いと思います。時間をコントロールする方法を教えていくチャンスでもあります。

今村:これからはオンラインで仕事をしていく時代でもありますしね。デジタル上での人との繋がり方を学ぶ機会にもなっていると思います。

ただ、子どもの興味を探そうと思って、親としてはついたくさんの習い事や塾に通わせてしまうんですよね。夢中になれることはゆっくり探していけば良いとも思いますが、バランスが難しいなと思います。

中曽根:子どもの探究心を育むためには、普段行かないようなところに出かけるのも良いと思います。色んなものを見たり体験したりしてみる。また、何もしない余白の時間も大事にして欲しいなと思いますその中で子どもがやり始めることは、好きなことなんです。そこを見逃さないで、一緒に調べたり問いかけたりすると良いと思います。

私はこれを「ネタだし」と言っているのですが、まずは子どもが何に興味があるのかに注目することです。

今村:中曽根さんの新著には「すべては丈夫な脳を育てることから始める」と書かれていますね。それについて、詳しく教えていただけますか?

中曽根:生まれた直後はまだ未熟な脳で、成長につれて3つの機能である「からだの脳」「あたまの脳」「こころの脳」がこの順番に育っていきます。早期教育として漢字や計算を教えたりすると、「からだの脳」より先に「あたまの脳」が育ってしまうことになります。

そうすると、周りの子どもと比べてよく出来ているように見えても、将来、上手くいかないことがあったり、ストレスを感じたりしたときにガタガタと全体が崩れてしまいます。「からだの脳」を育てるために大切なのは、幼少期によく遊びよく寝ること、そして規則正しい生活を送ることです。

先生は、保護者とともに子育てをしていく仲間

今村:最後の質問ですが、「社会の方向性と学校の方向性にギャップがあるなと感じます。親としてどう対応していけば良いでしょうか?」という内容です。

中曽根:以前、ある先生に「どうしたら学校は変わるんですか?」と聞いたことがあります。その方は「保護者の声で変わる」と仰っていました。保護者から探究的な学びや個別学習をしてほしいという声が多く集まったら、学校はそれに応えようとします

保護者は意見を言うことに躊躇するかもしれませんが、学校は「これを変えると保護者からのクレームにならないか?」と思って変えられないこともあるようです。お互いが忖度している部分はあるかもしれません。

また、先生が個人として探究的な学びを実践したいと思っても、学校の方針によってはやりづらいこともあります。そういう先生を応援してほしいなと思います。自分の子どもが通っている学校の先生がそうではなかったら、文句を言うのではなくて良い関係を築きながら伝えていってください。子どもに対しては、家庭の中で探究的な学びをしていけば良いんです。

今村:先生にありがとうの気持ちを伝えることも大切だなと思います。クレームは届きやすいけれど、感謝の気持ちはなかなか届かないものです。先生とは一緒に子どもを育てていく仲間のような関係を築けると良いですよね

中曽根:そうですね。私は、子育てこそ探究だと思っています。私自身も、子育てをすることで自分が成長させられました。子どもからフィードバックをもらったり、自分なりに学んだりしていけば良いと思います。皆さんも、ぜひ子育てを探究してください。

中曽根陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト マザークエスト代表  
小学館を出産のため退職後、「お母さんと子ども達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの本をプロデュース。紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行うかたわら、母親自身が新しい時代をデザインする力を育てる学びの場「マザークエスト」を主宰している。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。
6月17日 に新著『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)を出版した。

今村久美(いまむら・くみ)
NPOカタリバ代表理事。2001年に「意欲と創造性をすべての10代へ」をミッションにNPOカタリバを設立。キャリア学習プログラム「カタリ場」を高校生に届ける取り組みを開始する。東日本大震災以降、学びの場と居場所を子どもたちに提供。コロナ禍では、PCとWi-Fiを無料で貸与したうえで学習支援も行う「キッカケプログラム」開始。その他にも、社会の変化に応じた教育活動を多数行っている。

対談の録画は下記のFacebookから視聴できます!

子どもの「やってみたい!」から探究心をどう伸ばす? スピーカー:今村久美 中曽根陽子 2021.07.03 sat 13:00-14:30 開始時間になりましたら開場します。 しばらくお待ちください。

Posted by 探究メディア『 Q 』 on Friday, July 2, 2021

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