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『コロナ後の学びと生活を探究する』イベントレポート

2019年6月にスタートした学びを探究するメディア「Q」。1周年を迎え、コロナ禍を経て教育現場や家庭が体験したことを改めて見つめるオンラインイベントを開催しました。

“あたりまえ”だった通学も、朝の会も、授業も、放課後もなくなって3ヶ月。そんな中、最近語られる「ニューノーマル」という言葉に対する違和感について、「新しいノーマルはこれだということではなく、これからは自分のライフスタイルを好きなように作っていけばいい時代になるのだと思います」と語るのは、Q責任編集の炭谷俊樹。

今回のイベントのキーワードは「ノーノーマル」だとして、実際にそうした歩みをされてきたQコントリビュータのお2人、探研移動小学校の市川力さん、ハバタク株式会社 代表取締役の丑田俊輔さんをお招きし、【ホーム】【ストリート】【ライフ】の3つの切り口から、これからの時代の自分らしい選択について考えました。

市川力
一般社団法人みつかる+わかる 代表理事/探研移動小学校主宰・慶応義塾大学SFC研究所上席所員/歩き旅する探究人・まちのジェネレーター
2017年春まで東京コミュニティスクール(中野区)の校長&おっちゃんとして、小学生を対象に、先行き不透明な時代をたくましく、しなやかに生きる探究力を育むために、プロジェクトを通して学ぶ教育を実践・研究した。TCS卒業後、街場のおっちゃんジェネレーターとして大人と子どもがともに学び成長する場づくりを行っている。2020年に創設した「一般社団法人みつかる+わかる」においては、主に歩く探究学とジェネレーターの実践・普及について中心的役割を果たす。主な著書は、『英語を子どもに教えるな』(中公新書ラクレ)『探究する力』(知の探究社)『科学が教える、子育て成功への道(翻訳書)』(扶桑社)

丑田俊輔
ハバタク株式会社 代表取締役/プラットフォームサービス株式会社 取締役
多世代・多地域がつながり育つシェアオフィス「ちよだプラットフォームスクウェア」、日本IBM戦略コンサルティングチームを経て、2010年にハバタクを創業。新しい学びのクリエイティブ集団として、国内外の様々な領域を横断しながら「共創的な学び」を生み出す。グローバル教育の専門チーム「タクトピア」、皆で持ち寄って育む参加型コミュニティ「シェアビレッジ」、遊休施設を遊び場化する「ただのあそび場」、学びのビル「錦町ブンカイサン」、住民参加型の小学校建設「越える学校」等。秋田県五城目町在住。

炭谷俊樹
神戸情報大学院大学学長 ラーンネット・グローバルスクール代表/学びを探究するメディア「Q」責任編集
1960年神戸市生まれ。マッキンゼーにて10年間日本企業及び北欧企業のコンサルティングに携わる。新人コンサルタント採用・研修の責任者も担当。マッキンゼーの北欧事務所勤務時代に、デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、阪神・淡路大震災後の1996年、神戸で子どもの個性を活かす「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。1997年、大前研一氏とともに企業のビジネスリーダー育成事業を創業、2005年よりビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科教授(2010年より客員教授)。2010年に神戸情報大学院大学学長に就任。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。東京大学大学院理学系研究科修士(物理学専攻)。著書に『第3の教育』(角川書店)『ゼロからはじめる社会起業』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。


親子だけに閉じず、『拡張家族』で学びが深まる

最初のテーマ【ホーム】を担当するのは、「おっちゃん」こと市川力さん。3ヶ月続いた休校期間、教育に関して保護者の役割は増して負担も増えた一方で、親子の時間が増えて広がった可能性もあります。

「この状況になったとき、新型コロナウィルス感染拡大がよかったとは当然思いませんでしたが、違和感がなかったんですね。ついにこういう時代になったのかと。黎明期に東京コミュニティスクール(以下、TCS)で校長になったときもそう。自分がやりたい、やるべきだと強く思ったわけではなく、時代に自分が巻き込まれて、与えられた役割をしていたに過ぎないなと感じるんですよ」

いわゆる今までのノーマルに戻りつつある気配もある一方で、戻ることができないのも事実。ノーマルがない不安・心配を共有しながら生きていくとき、改めて「ホーム」とは何なのか考えたいと市川さんは語ります。

「TCSは民家からスタートし、畳の部屋で車座で語り合っていましたから、拡張家族の意識が強かったですね。父母とは違う、親戚か近所のおっちゃんのような存在としてそこにいたと思います。だからスクールフリーで、ホームのノーマルを変えるという形で、色んな家族と“おっちゃん”として出会ってきたと言えるかもしれません」

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現在、市川さんは主宰する探研移動小学校でフィールドウォーク「フシギ探偵団」のジェネレーターをしています。先日はオンラインで9家族に近所を歩きまわってもらい、親子がそれぞれ気になったものを持ち寄ってもらったのだそう。

「オンラインでのフシギ探偵団をして気づいたことは、子どもの好奇心を素直に開く場として開催したものの、想像以上に親のストレスや悩みを解消する場、親の気づきの場になったということです。ホームの中で『勉強させなきゃ』ではなくて、『近くのものを探しに行こう』となったら、子どもの視点を知ることができたと言っていました」

炭谷はそれに対し、これまで学校と家には壁があったと応じます。

「これまでは、両者で起きてることはそれぞれから見えなかったんですよね。リキさん(市川さん)は元々それを崩そうと活動されてきたと思いますが、オンライン授業になったこの期間、ラーンネットでも家庭と教室が繋がったと思っています。家でパソコンを前に授業を受けていると、時々親が乱入してきたり、後から『あんな声かけをするんですね』といった、近くで見ているからこそのフィードバックを受けたりするんですよ。学校が透明化されて、家庭と繋がってきましたよね」


「遊び」と「学び」は、もっと溶け合えばいい

次に【ストリート】を担当するのは、丑田俊輔さん。学校外への期待が増したこの3ヶ月、オンライン上の学びの場はその筆頭ですが、塾や、アフタースクールも同様に役割が見直されています。「学校外の場づくり」や「学校を極限まで地域にひらくとどうなるか?」といった秋田での実践を、丑田さんからご紹介いただきました。

「秋田県の五城目町で活動をしています。今いるのは、商店街の遊休不動産をまちの皆で改修し、誰もがただで遊びにこれる場所として、地域の贈与経済をベースに運営している『ただのあそび場』です。2010年にハバタクという教育の会社を創業して、海外に羽ばたいていく事業を中心に手掛けていたのですが、震災を経験してローカルな世界にも視点がいくようになり、2014年に妻の出身でもある秋田県に移住しました」

新しい学びのクリエイティブ集団として、国内外の様々な領域を横断しながら「共創的な学び」を生み出してきたハバタク。高校・大学生への海外研修、学びを通じた地域社会のデザインなどを進めてきましたが、五城目町での取り組みは、学びの世界がストリートに溢れ出し、もはや世間でイメージされる「学び」という枠から脱線気味になっているのだそう。

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例えば、五城目小学校の新校舎づくりを住民参加型で進めてきた「越える学校」。敷地内には地域図書室を併設した「生涯小学校エリア」が生まれ、地域の人々が何歳でも遊びに行ける場ができることで、大人も子どもも自然と学び合っていく、と丑田さんは語ります。

「遊びと学びが溶け合っていけばいいと思っているんです。例えば、五城目町で500年以上続く朝市で若者の出店や新たなチャレンジを応援する『ごじょうめ朝市plus』という日曜市があるのですが、そこでは小学生も出店して稼いでいたりする。学校や家庭以外の場所で、親や先生以外の大人に出会い関わり合うことも大事です。学びを手放した先の学びがあると思うんです」

2019年には、探究する学びの世界を一挙お披露目する「あそんでいたら、まなんでいた展」を東京で開催したハバタク。“遊びと学びが溶け合う”を実践している姿に、炭谷は「遊びが学びというのは、本当にその通り。遊びの中にどんな要素が入っていたら学びだと思いますか?」と問いかけます。

「遊び場にいる子どもたちを見ていると、そこに目的や理由ってないんですよね。純粋に楽しいからやっていたとか、上級生の遊びに巻き込まれて気づいたらという状態。スポーツ選手やアーティストは大人になっても「プレイヤー」って言われてるように、子どもも大人も遊び続けていられたらなと思います。」

「学校には目的や因果が常に存在しているけれど、何でもいいからまずやったらいいということですよね」「そうです、夢中になったらいい」といった2人の対話に市川さんも加わり始め、遊びと学びの関係性について縦横無尽に洞察が深まっていきました。


新しいノーマルではなく「自分に合ったライフスタイル」を探究する

最後の【ライフ】担当は、Q責任編集の炭谷俊樹。今まで当然とされてきた、毎日の通勤ラッシュ、定時通勤、通学。それらの前提が崩れた今こそ、“新しいノーマル“を探すのではなく、自分にあったライフスタイルを探究するチャンスだと炭谷は語ります。

「ここからは、大人である皆さんご自身の生き方も視野に入れて考えを深めていきたいと思います。育児や家庭をこえて、仕事やどこに住むかまで、広げて考えていきましょう。僕自身の経験をシェアしますと、色々ぶつかっては方向転換をくりかえしてきました。バブル真っ盛りの35年前に働き始めて、最初の3年間は毎朝通勤ラッシュで、会社に着いたときには体力半減。これはおかしいぞと、志願して大阪支社に転勤しました。とはいえ、その代償として今も毎週東京などに出張です」

おかしいと思いながら出張を続けていたのに、コロナ禍でZoomで何でもこなす日々に一転、「今までの出張は何だったのか」と感じていると炭谷は語ります。

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「いま大学院で、自分の身の回りにある課題を解決する手法を教えています。例えば音楽はウォークマンで聴くものだということに誰も疑問を抱かなかったのに、スティーブ・ジョブズがiPodを発明しました。現状に違和感を感じるならばそこに疑問を持つこと、新しいやり方を思い切って考えることが大切です」

いま感じている違和感や疑問があったらチャットでシェアして欲しいと続けると、会場からは「森の中で暮らしたい」「完璧主義から脱したい」「実家から離れて東京で働いているのはなぜ?」「意見が違うと存在否定になってしまうのはなぜ?」「せっかく新しい日常を作るチャンスなのに、以前に戻そうといった力が働くのはなぜ?」といった声が続々とあがり、ゲストも交えた活発な議論に発展。さらにこれからどうしていきたいのか、参加者全員で考える時間が設けられました。


これからは、一人ひとりのあり方自体が学びになる

最後に丑田さんからは、「一人ひとりのあり方(Being)が各地でつながっていけばいい、Learning by doingならぬ、Learning by being。あり方自体が学びになるといいと思いました。それは機械にはできない、人間の身体性にしかできない学びだと思います」という意見が。

「ノーノーマル」をキーワードに開催したイベントは、自分らしいこれからを考える時間になった模様。

学びを探究するメディア「Q」では、このイベントの内容を受けて、第二弾となるオンライントークイベント、第三弾となるサマーワークショップ@五城目 をこの夏に企画しています。サマーワークショップは、今回のトークイベントのスピーカーとリアルで会える、またとない機会です。
(文:桐田理恵、編集:田村真菜)



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