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『新しい学びのスタイルの実践者に聞いてみよう』イベントレポート

探究するメディア「Q」では、コロナ後の学びと生活を探究するイベントの第2弾として、多様な学びの実践者3人と話すトークイベントを開催。ホームスクーリングやハイブリッドスクーリングを実際にやってきたからこそわかる、体験談を伺いました。

松浦真
合同会社G-experience代表/秋田県五城目町議会議員
大阪府出身。2007年にNPO法人「子ども盆栽」を設立(2012年に「cobon」へ名称変更)し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立(GはGojome, Gold, Good, Great……を内包する字)。一貫して、既存の枠組みにとらわれず未来の理想の姿を社会に実装することに主眼を置き、未来の担い手としての子どもの可能性を起点とした事業を生み出し続けている。2020年4月より、秋田県五城目町議会議員。

赤井友美
子供教育創造機構理事/キンダリーインターナショナル共同創業者/株式会社4smiles 代表取締役
東京都生まれ。東京理科大学卒業後、(株)リクルート入社(現リクルートホールディングス)に新卒入社し、約12年間でIT部門、広報、人事などを経験。その途中、中学生向けキャリア教育プログラムを新規事業として起案・立ち上げを経験し、教育の世界に足を踏み入れる。その後、教育系NPO法人設立準備に参画し、初代理事に就任。2度の出産をきっかけに人材育成にますます興味が移り、2012年に一般社団法人子供教育創造機構を設立。翌年リクルートを退職し、東京都中央区に民間学童施設「キンダリーインターナショナル」を仲間と共に設立。2013年、株式会社4smilesを創業。

田村真菜
学びを探究するメディアQ編集チーフ/社会的包摂キャンペナー
1988年東京生まれ。国際基督教大学(ICU)卒。12歳まで義務教育・集団教育を受けずにホームスクーリングで学ぶ。ニュース編集者やNPO立ち上げを経て、2011年より社会起業家育成を行うNPO法人ETIC.に参画。2015年に独立し、貧困の連鎖解消、若者の就労支援、10代妊娠、母子世帯の生活支援など、”誰も取り残さない”社会をつくるソーシャルプロジェクトの4キャンペーンに関わる。著書に、私小説「家出ファミリー」(晶文社・2017年)。1児の母。

学校だけでなく自宅や旅で学ぶ、ハイブリッドスクーリング

1人目のゲストは、秋田県五城目町で2人の小学生を育てる松浦真さん。お子さん達は、地元の公立小学校に在籍しながら、自宅での生活や旅を通して学ぶハイブリッドスクーリングを実践しています。

お子さんが小学校に入学してから迎えた授業参観の日。こんな出来事があったそうです。

「絵を描く授業だったんですが、全員が空を水色か青で描いて、全員が地面を緑か黄緑色で描くように指導されていたんです。息子の絵には補助線が引かれて、地面はここから描きなさいって言われていた。先生は良かれと思ってやっていたと思うんですけど、そうやって凸凹を矯正されてしまう学び方では、子ども達の能力は伸びないなと感じました」

そこから、凸凹を矯正しないような学び方はないかと模索し続けて辿り着いたハイブリッドスクーリング。そもそもハイブリッドスクーリングとは、どんな学び方なのでしょうか?日常生活の様子も詳しくお話してくださいました。

「1年のうち約40日は学校に行き、それ以外の日は旅をしたり家で学んだりしています。学校へ行かない日は、朝7時から7時半に起きて、それぞれ自分の担任の先生にお休みしますと電話をする。朝ご飯を食べて、8時半からオンラインの朝の会に参加して、その後はそれぞれが好きなことを学ぶ。息子は数学検定を受けようとしているのでその勉強をしたり、娘はピタゴラスイッチが好きなので家で作ったりしています」

「昼食をつくるのは家族全員で当番制。子どもだと1時間半位かかるけど、できるのを待って家族みんなで食べます。その後はまた16時までは何か好きなことをしています。学びなのか趣味なのか探究なのか区別がつかないですね。夕食づくりも当番制で、自分の好きなものをつくったり、栄養バランスがいい学校給食の献立を真似したり。夜9時半〜10時に寝て、1日が終わります」

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大切なのは、学校のサービスに子どもを合わせないようにすること、と語る松浦さん。既存の枠に当てはめて考えてしまうと子どもは窮屈だし、大人も正解を求めてしまうので、できる限り子どもに合わせるようにと考えているのだそう。炭谷からは、自己決定の重要さについて共感するという意見が。

「親から言われてその通りにやるんじゃなくて、自分で選ぶというのは子どもにとっても大事。自分の時間をどう使うか自分で決めていくことは、大人になっても生きてくると思うんですよね。探究の鍵とも言えると思います」

12歳までホームスクーリングで学んで、満足度は85点

続いてのゲストは、12歳まで学校に行かずにホームスクーリングで学んできた当事者である田村さん。経験者としてのお話を伺いました。

校閲者である父親の仕事の影響もあり、家には2万冊以上の本が揃っていた田村さんの幼少期。幼い頃から国語や算数を学び始め、小学校1年生になる頃には小6レベルの学習を終えていたと言います。同級生との学習進度の違いもあって始まったのがホームスクーリングでした。

「両親は、学校へ行くことを無理に促さなかったですね。行かないことを怒ることもありませんでした。私が学校に行かなくても、それを先生に謝ってるのは見たことがないんですよね。親が謝ってると子ども心に気にしちゃっていたと思うので、それは良かったんじゃないかなと思います」

また、妹さんへの関わりからもご両親の教育方針が伺えます。

「子どもそれぞれの得意不得意を平均化せず、ムリに苦手を克服させないようにしていました。例えば、私は家事手伝いがあまり好きではない子どもだったんですけど、『将来お金を稼げばハウスキーパーさんを雇えるんだから、勉強を頑張って将来稼いだら』と母親から言われていた。妹は勉強が得意でなく家事はわりとできる子だったので、それと逆のことを言われていました。なので、それぞれ得意なことに全力を注いでいいんだなという風に受けとっていました」

家には本以外にも自学できるような学習教材や新聞など、知的好奇心を満たすものが多く置いてあったと言います。特徴的なのは、自由に使っていい畑があったこと。そこで植物や動物にも興味を持ったそうです。

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自身の幼少期の学びを振り返ると、満足度は85点くらいだと語る田村さん。その理由を伺いました。

「親以外に、専門家との接点が欲しかったなという思いがあります。望みすぎかもしれませんが、得意なところをもっと伸ばす教育を受けてみたかったですね。例えば、小学校高学年の時には、新しい数学の公式を自分で探すことにハマっていたんです。ただ専門的すぎたのか、考えたことを親に伝えてもディスカッションにはならなくて、そこに物足りなさを感じていました。親が得意な分野以外はなかなか伸ばせない点は、ホームスクーリングの改善点かもしれません。私自身は、拡張家族的に他の家族も巻き込みながら上手く実現できないかなと考えています」

子どもに合う学校にスイッチし、今の小学校は5校目

最後のゲストは、お子さんに合う環境を一番に考えて、あちこち学校を移ったという経験を持つ、赤井さんと12歳の息子さん。親子で実体験を話してくれました。

「基本的には、子ども自身が居心地が良いと思う場所や学び方を選ぶことが大事だと思っています。小学校に入学する前には、海外も含めていろいろな学校があることを子どもに説明しましたね。子どもが自分で選んだ学校であっても、先生との相性が良くなかったり雰囲気が合わなかったりして、『変えたい』と言ってくることがある。その都度、合う学校を選び直すことを繰り返しています。今、息子が通っているのは5校目の小学校です」

学校を変えることに対して、『少しくらい合わなくても我慢することも大切だ』という考え方も世の中にはあります。それに対して、赤井さんのポリシーはとても明確なものでした。

「私自身10年以上教育に携わってきた経験からも、子どもにやりたくないことをやらせることによって、本人の自主性が削がれていくと感じています。そうなってしまうと、その芽を戻すのにとても時間がかかる。それだったら、親の手間が多少かかったとしても、子どもがのびのび過ごせるようであれば結果的にそれでいいと思うんですね。これからの世の中を考えると、我慢するよりも何かで飛び出た方がいいと思っています」

とりあえず高校には行ってほしいと短いスパンで考えるのではなく、「その子がどういう人生を送れるといいのか?」「親子でどういう生き方をしたいのか?」そんな問いについて考えることの方が大切だと赤井さんは言います。お子さんには、「20歳の時に何してる?」「30歳の時には何ができていた方が嬉しい?」とよく話をするそうです。

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12歳の息子さんは、「既に知っている友達がいたり、楽しそうな学校が理想的」と話します。熱中していることはプログラミングやゲームで、今は大会に向けて練習をしているのだそう。

母親である赤井さんは、「ゲームで生きていくかは別だとしても、やりたいことはちゃんとやり切るというのは大事だと思っています。やってみてダメだったらまた考える、ということを自分でやらないと、自己決定はなかなかできないですし、学校生活だけしてるとそんな場面に出会えなかったりもします」と話します。

さらに、大人達が転職をする時の考え方と重ねてこう続けます。

「学校を選ぶのは、大人が居心地よく気持ちよく仕事ができる会社を探すのと同じように、子どもが居心地よく気持ちよく学べるところを探すような感じです。多くの人は会社で上司が全員変わってしまったら転職を考えますよね。それと同じで、校長先生が変わって方針が変わったことでそこにいることが辛くなった時に、歯を食いしばってそこにいろと言うのは違う。居続けることで鬱になってしまう人もいたりしますし、持続可能じゃないなと思います」

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ゲストの3人のトークを聞いて、炭谷は新しい時代の学び方についてこう話します。

「学校がいいとか家庭がいいとかそういうことではなくて、一人一人のお子さんの得意なことを伸ばせる人がどこにいるか、と言うことだと思います。そういう人がいれば、そこが学校であっても家であっても近所であってもネット上であっても、お子さんに合った方法で学ぶことはできるんですよね。時代的には『学校を選ぶ』という考え方はすごく追い風になってると思います」

今回のお話で共通していたのは、どこで学ぶかという形式ではなく、どのように子どもに合った学び方を実現していくかという話であったと感じます。選択肢が増えてきている今、少しずついい時代へと変化しているのかもしれません。

(文:建石尚子、編集:田村真菜)



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