世界平和を達成する唯一の方法が、実現しない理由とは?

世界から戦争をなくし、世界平和を実現する方法はあるのでしょうか。

実はあります。

それは「世界政府」を創設することです。

これは決して夢物語の話ではなく、実際に多くの人が何度も議論が重ねてきた構想です。例えば、著名な科学者であるアルベルト・アインシュタインは1946年に世界政府を創設するよう国連総会に下記の手紙を送っています。

私が世界政府を擁護するのは、今まで人間が遭遇した最も恐るべき危険を除去する方法が他にはあリ得ないからである。人類の全体的破滅を避けようという目標は、他のいかなる目標にも優位しなければならない。 ーアルベルト・アインシュタイン

他にもウィントン・チャーチルやマハトマ・ガンディなども世界政府の創設を提唱しています。最近では、英国のブラウン元首相が世界政府を提案しました。

なぜ日本国内では戦争が起きないのか?

世界から戦争をなくす方法を考える際に有効なのは、日本国内で戦争が起きない理由を検討することです。なぜ、日本国内では戦争が起きないのでしょうか。

日本の歴史の教科書には「〇〇の戦い」という言葉が並んでいます。「日本の歴史は戦いの歴史である」と言っても過言ではない程、昔は日本国内で戦争が頻発していました。特に戦国時代は「戦国」という名称の通り、各地で戦争が多発しました。

しかし、日本国内では1877年の西南戦争を最後に戦争が起きていません。なぜ日本国内での戦争は無くなったのでしょうか。今では東京都と埼玉県の間で戦争が起きるとは到底想像できません。(そういう映画はありました)

「国内で戦争をなくし、平和を実現することができた」という成功経験をふまえれば、世界からも戦争をなくし、世界平和の実現ができるのではないでしょうか。

国内平和の3つの条件

国内ではなぜ戦争がおきないのでしょうか。平和のための三つの条件があります。「帰属意識」、「不平解消のメカニズム」、「圧倒的な力」です。

1. 帰属意識

まず「帰属意識」が重要な条件になります。日本人は「日本人」という強固なアイデンティティーを持っています。この国民的な帰属意識が国内の平和に役立っています

私たちは同じ言葉を話し、同じ習慣を持ち、同じ社会・政治哲学を抱き、同じ歴史を持っています。他国の国民よりも自国民同士は多くの共通点を持っており、他国民と自国民の違いを認めています。

ワールドカップで日本代表が勝利した時の高揚感は、日本という国への帰属意識から生まれます。他国との競争における自国の勝利を、あたかも自分自身のものとして体験することは、国家と自己を一体化することによって生じています。この帰属意識があるからこそ、日本という国に対する外部からの攻撃や内部からの分裂に対し、私たちは強い関心を持っているのです。

2. 不平解消のメカニズム

多数の人が多大な不平不満を感じている社会は、内乱や革命の危険を招くことになります。したがって、現代のほとんどの国では国民の不平を解消するメカニズムが社会に組み込まれています。国民の不平不満を、国会、選挙、メディア、司法などの平和的なチャンネルに誘導するよう社会が構築されているのです。

例えば、あなたが日本国内で強い不平不満を抱いているのであれば、選挙に出馬し政治家になれば、革命を起こさなくても自らの目的を達成することができます。

3. 圧倒的な力

国家は警察や軍隊という「圧倒的な力」を保持する組織です。一部の集団が国内で戦争を起こそうにも、国家が持つ圧倒的な力によって鎮静化されることは自明です。モーゲンソーは次のように述べています。

国内の平和維持に対する国家の貢献とは何であろうか。「国家」というのは社会の強制組織の別称にすぎない。つまり「国家」は、社会が秩序と平和の維持のために組織的暴力を独占できる条件を決定する法秩序の別称である。

「圧倒的な力」という条件は国内の平和を維持する上で極めて重要な要素です。しかし、注意が必要なのは、「圧倒的な力」だけでは平和を維持することはできません。歴史が示している通り、「圧倒的な力」を国家が保持していたとしても内乱やクーデターなどが起きたことは何度もあります。他の二つの条件も共に揃えていなければ、国家が国内の平和を維持することは出来ません。

世界政府に3つの条件は当てはまるのか?

日本国内で戦争が起きない理由を確認したところで、次は世界政府の可能性について検討してみましょう。上記の3つの条件は世界政府にどう当てはまるのでしょうか。結論から言うと、非常に難しいでしょう。

1. 帰属意識

「コスモポニタリズム(世界市民主義)」という考え方はあります。また、昨今は環境問題や感染症問題とい世界的な問題が発生しており、世界に対する意識は今まで以上に芽生えています。

しかし、もし世界政府が創設されたとして、世界政府に対する帰属意識は生まれるのでしょうか。もし仮に世界の大多数の人が世界連邦の創設を望んでいるとすれば、可能性はあります。しかし、実際は世界連邦の創設を望む人は決して多くないでしょう。

特に焦点になるのが「移民問題」です。世界政府が創設されることになれば「世界市民」になるので、人の移動は完全自由化されます。その結果、日本国内にも多数の移民が流入するでしょう。移民自体に問題がある訳ではありませんが、欧米諸国で見られるように社会的な摩擦が生じる可能性が高いと考えられます。そのような可能性がある中で、日本を含め世界全体が世界政府の創設を望み、世界政府に帰属意識を持つようになるでしょうか。残念ながら、現実的には困難であると答えざるを得ません。

2. 不平解消メカニズム

世界政府に「不平解消メカニズム」を組み込むことも決して簡単な話ではありません。例えば、世界政府には「立法府」が必要になります。日本の国会のように、世界市民から選出された代議員が立法府を担うことになるでしょう。この際、どのように世界市民の代表を選出するべきでしょうか。

日本の選挙制度のように、人口比による代表制は成り立たないでしょう。世界全体の半数以上がアジア人です。人口比の代表制は公平ですが、少数派である欧米諸国が人口比の代表制を了承することは考えづらく、世界政府の創設自体が困難になります。

また、もし立法府の創設が可能だったとしても、その議会を正常に運営することはできるのでしょうか。多様な価値観や政治哲学を持つ代議員による議会は、日本の国会以上に混乱するでしょう。最終的な結論を多数決で下すことも困難です。

3. 圧倒的な力

世界政府には圧倒的な力を持つ「警察」が必要になります。世界全体の秩序を維持するためには、世界中の軍隊を合わせたような圧倒的な力を持つ警察が必要になるでしょう。

しかし、誰しもそのような巨大な力を持つ組織の誕生を望みません。組織に対する信頼の問題や、予算と人材の問題もあります。国連にも「国連軍」が規定されていますが、過去70年以上、国連軍が正式に発足されたことはありません。(朝鮮戦争の際も「国連軍」という名の米軍でした。)圧倒的な力を持つ組織の創立は、世界の諸国民から理解を得ることが出来ないでしょう。

世界政府を樹立する方法とは?

仮に上記の3つの条件をクリアしたとして、世界政府を実際に樹立するにはどうすれば良いのでしょうか。

1. 世界征服

戦国時代を終結させることが出来たのは、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が戦争を重ね、日本を統一したからです。各国の歴史を見ると、強大な国家は、一つの国が他国を征服することで構成されてきました。つまり、世界政府を樹立するためには一つの強大な国が世界を征服することが一つの手段になります。

しかし、当然ですが決して正しい方法ではありません。まず、世界政府樹立は平和が目的であるにも関わらず、戦争を誘発することになります。次に、そのような世界政府は創立者の死とと共に、早々に瓦解します。例えば、漫画「キングダム」で注目されている中国の始皇帝は中華統一を成し遂げました。しかし、始皇帝の死去からわずか四年後に、内乱によって秦は滅んでいます。秦以外の国も、征服によって国家を統一した国のほとんどが創設後に間も無く崩壊しています。

2. 世界共同体

世界政府を樹立する前に「世界共同体」を組織するのも一つの方法です。上記の通り、国家の必要条件の一つは「帰属意識」です。世界政府樹立の前に、もう少し緩い形で共同体を組織し、帰属意識を向上させることで、世界政府の実現が見えてくるでしょう。

例えば、国連の専門機関は世界共同体を組織する上で有効です。新型コロナウイルスのパンデミックへのWHOの対応は、私たちが世界的な機関に所属していることを想起させました。WHOの名称が「世界」保健機関であり、「国連」保健機関ではないことも、国連加盟国以外の国々も保健分野では協力しましょう、という世界共同体的な意識の現れです。(以前の投稿で詳しく記載しています)

ただ、世界共同体を組織することが出来たとしても、世界政府へ移行するのは現実的に困難でしょう。例えば、EUは地域的世界政府だと言えますが、ブレグジットで証明されたよう、EUへの帰属意識よりも各国家への帰属意識の方が高いのが現状です。

世界政府の創設を目指すべきなのか?

グローバリゼーションにより、世界は小さくなりました。約170年前に黒船が横須賀に来航して以来、世界は大きく変わっています。人類史ではたった170年間という短い時間の中で、世界中の国々の関係性は信じられないほど深化しているのです。

世界の国々の関係性が深化する中で、世界平和達成への取り組みとして、第一次世界大戦後に国際連盟、第二次世界大戦後に国際連合が創設されました。しかし、残念ながら国際連盟と国際連合という世界的な組織が平和を実現することはできていません。

中国の台頭、米国の一国主義など、世界的なパワーバランスが不安定化する中で、第三次世界大戦という最悪のシナリオの可能性も徐々に見えてきています。今こそ新たな世界平和を達成する方法が議論・検討されるべきでしょう。

世界平和を達成する方法としての「世界政府創設」は現実的に解決し難い問題があり、すぐに実現できる状況ではありません。しかし、それが世界平和の達成を諦める理由にはなりません。世界政府の創設が困難であっても、他の手段を模索する。そして、最悪のシナリオを何としてでも回避する。それが今を生きる私たちに課せられた使命です。

あらゆる方法を議論・検討しながら、世界平和の達成に向けて、努力を重ねていくことが重要です。

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