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リアリズムとリベラリズムの違いとは? 国際関係の理論

今回は「国際関係」の理論について投稿します。「理論なんて机上の空論だ」と思う人も多いかもしれません。たしかに物理学や科学と違い、国際関係論に「完璧な理論」は存在しません。しかし理論を知れば、今までの国際関係のニュースの見方がガラッと変わります。

理論を学ぶのは、プロのシェフがキッチンに何種類かの包丁を揃えておくようなものです。別にどの包丁を使っても切れますが、素材に合った包丁を使った方が美味しい料理が作れます。

同様に多くの理論を学べば、必要に応じて使い分けて国際政治を理解することができます。

国際関係論とは?

そもそも国際関係論とは何でしょうか?以前も投稿しましたが、国際関係論は「戦争を防ぎ、平和を実現」するための学問です。

第一次世界大戦が契機になり、学問として確立されました。

戦争を防ぎ、平和を実現するためには?

では、「戦争を防ぎ、平和を実現」するにはどうすれば良いのでしょうか。大きく分けて次の二つの考え方があります。

1.「戦争の原因」とは何か?
2. 「平和の条件」とは何か?

一つ目の「戦争の原因」を模索したグループが「リアリズム」です。そして、二つ目の「平和の条件」を模索したグループが「リベラリズム」です。

「リアリズムVSリベラリズム」の構図ではありません。両者は「対立関係」ではなく、「補完関係」です。「戦争を防ぎ、平和を実現する」という共通の目標に対し、違う角度から考えています。したがって、どちらも正しく、どちらも完璧ではありません。

国際関係論の前提

次に詳しく各理論を見ていきますが、「前提」があります。現在の国際社会が「アナーキー(無政府状態)」です。国際社会には日本政府のような、世界政府はありません。各理論は基本的に「アナーキー」を前提としています。(世界政府創設が実現しない理由は以前の投稿をご覧ください。)

リアリズム(現実主義)

リアリズムは「戦争の原因」を模索したグループです。なぜ「戦争」は起きるのでしょうか。リアリズムの大家であるハンス・モーゲンソーは「国際政治とは、他のあらゆる政治と同様に、権力闘争である」と喝破しています。そして、国際政治を理解する上では、次が重要だと述べています。

「政治的リアリズムが国際政治という風景をとおって行く場合に道案内の助けとなるおもな道標は、力(パワー)によって定義される利益(インタレスト)の概念である。」

モーゲンソーいわく、各国は国益を追求するためパワーを増大します。そして、パワーの増大は「権力闘争」に至ります。(詳しくは以前の投稿をご覧ください。)そして、戦争が起こります。

・例えば?

リアリズムは「米中対立」を理解するのに役立ちます。なぜ、米国と中国は対立するのでしょうか。この質問は、日頃のニュース報道を見ていても分かりません。対立の根本的な原因を理解するためには、リアリズムの理論が役立ちます。

・戦争を防ぎ、平和を実現するためには?

では、リアリズムの観点から当初の目的を達成するには、どうすれば良いのでしょうか。それは各国の力(パワー)を均衡させることです。これを「バランス・オブ・パワー」と呼びます。(バランス・オブ・パワーとは?

リベラリズム

リベラリズムは「平和の条件」を模索したグループです。まず、定義の整理が必要です。「リベラリズム」という言葉ほど、誤解を生みやすい言葉はないでしょう。あまりに多く意味を有しています。広辞苑は「リベラリズム」を「自由主義」とし、次のように定義しています。

(liberalism)近代資本主義の成立とともに、17〜18世紀に現れた思想および運動。封建制・専制政治に反対し、経済上では企業の自由を始め、すべての経済活動に対する国家の干渉を排し、政治上は政府の交替を含む自由な議会制度を主張。個人の思想・言論の自由、信教の自由を擁護するものであり、イギリス・フランス・アメリカにおける革命の原動力となった。

しかし、広辞苑の定義と国際関係論の中での定義は違います。国際関係論のリベラリズムは「平和の条件は『国家間の協調』である」という考え方です。

・例えば?

「国際法」や「国際機関」の存在が良い例です。また、「G20サミット」など多国間での協調体制も含みます。なぜ各国は「G20サミット」に出席するのでしょうか。自国の国益の追求の一環だと指摘することも可能です。しかし、それ以上に多国間の協調体制が重視されているのです。

・戦争を防ぎ、平和を実現するためには?

人間は歴史を通じ、幾度となく血を流し合ってきました。一方、徐々に平和を構築する方法も確立してきました。少なくとも16世紀や17世紀に比べ、世界全体で戦争の数は遥かに少なくなりました。そこには「国際法」や「国際機関」といったリベラリズムの実現が根底に存在します。

ネオリアリズム

国際関係の理論は、「リアリズム」と「リベラリズム」だけではありません。他の理論も簡単に記載します。まず、「ネオリアリズム(新現実主義)」です。ネオリアリズムは「構造的現実主義」とも言い、国際社会の「構造」に着目しています。ネオリアリズムが登場する前まで、人間の「性悪説」や「性善説」の議論が注目されていました。しかし、ネオリアリズムのパイオニアであるケネス・ウォルツは国際政治の分析を「人間・国家・国際システム」の3つに分けて分析し、人間の本性ではなく、構造的な問題に焦点を当てました。

・攻撃的リアリズム・防衛的リアリズム

ネオリアリズムは「攻撃的」と「防衛的」の二つに大別されます。攻撃的リアリズムの大著はミアシャイマーの「大国政治の悲劇」です。(以前、投稿しました。)

ネオリベラリズム

次に「ネオリベラリズム」です。「相互依存論」や「国際レジーム論」が有名です。国際政治のおける経済や国際機関の影響を指摘しています。政府の介入を最小限に抑える「新自由主義」とは違います。詳しくは過去の投稿をご覧ください。

コンストラクティヴィズム

国際関係論に衝撃を与えたのは「冷戦の終結」です。リアリズムもリベラリズムも「冷戦の終結」を予測できませんでした。なぜ予測できなかったのでしょうか。それが「コンストラクティヴィズム(構成主義)」の始まりです。

コンストラクティヴィズムは「アイデンティティ」を重視しています。ジョセフ・ナイはアイデンティティを重視するコンストラクティヴィズムを次のように説明しています。

「人々がどのように行動するかを、われわれは単純に想定することはできない。彼らがだれであり、何を望んでおり、自らの行動を理解するために世界をどのように認識しているのかを、われわれは知る必要がある。これらを知るためには、それらを内包する社会的・文化的文脈を理解しなければならない。」

例えば、コンストラクティヴィズムは「日韓関係」を理解するのに役立ちます。日韓関係はリアリズム的にもリベラリズム的にも、良好関係を築き協力し合った方が合理的です。しかし、そう簡単なことではありません。日韓関係の説明にはアイデンティティや社会的文脈を理解する必要があります。

英国学派

英国学派に代表される論客はヘドリー・ブルです。ブルは「国際社会論:アナーキカル・ソサイエティ」を執筆し、アナーキー(無政府状態)でも社会が成り立つと主張しました。(詳しくは以前の投稿をご覧ください)

マルキシズム

意外に思われる人もいるかもしれませんが、「マルキシズム(マルクス主義)」も国際関係論の一つです。マルキシズムは「国家」ではなく「階級」を主要なアクターとして捉え、経済に比重を置いています。そして、資本家が自己利益のために国際政治を動かしていると主張します。冷戦の終結により、マルキシズムは下火になりました。しかし、考え方は今でも残っています。例えば、マルキシズムから生まれた「従属論(ディペンデンシー・セオリー」です。従属論によると、先進国が発展途上国を経済的に搾取しており、発展途上国はいつまでも経済的に成長できません。いわゆる「南北問題」の説明として使われます。

フェミニズム

フェミニズムも国際関係論に含まれます。フェミニズムによると、現在の国際秩序は男性的な特徴を持っています。ウェストファリア体制は「自立」や「競争」など男性的な思考が基礎にあります。さらに、今までの国際関係論の中でも女性が登場しておらず、理論に偏りがあると指摘します。たしかに、歴史の中で政治家や政治学者の多くを女性が占めていたら、違った結果が訪れたかもしれません。

ポストコロニアリズム

リアリズムやリベラリズムのルーツは、欧米です。国際関係論を学ぶには、まず17世紀のヨーロッパから始まります。この欧米中心主義の理論や歴史を批判し、旧植民地の問題などを包括した理論が「ポストコロニアリズム」です。例えば、冷戦期間が「長い平和」と呼ばれる時があります。しかし、欧米諸国以外では紛争が頻発していました。冷戦を長い平和と位置付けるのは、欧米中心主義の観点です。

また、「地中海」と「インド洋」を比較してみましょう。地中海の歴史は戦争の歴史です。他方で、インド洋は17世紀まで比較的平和が保たれていました。なぜ地中海では戦争が起き、インド洋では平和を維持できたのでしょうか。国際関係論の理論を構築するためには、ヨーロッパ以外の歴史も探究する必要があるのではないか。それが「ポストコロニアリズム」です。

国際関係論の理論について

ざっと簡単に各理論についてまとめました。ただ、国際関係論には他にも理論があります。また、コンストラクティビズムや英国学派は幅広い考え方を包括しています。記載したのは氷山の一角です。(詳しくは専門書をお読みください。)

国際関係論の理論に「完璧な理論」は存在しません。それぞれの理論が補完関係にあり、様々な「世界の見方」を提供するツールです。例えば、冷戦を説明するにはネオリアリズムが良いでしょう。戦後の日本政治を説明するには、コンストラクティヴィズムが使えます。WTO改革の問題はネオリベラリズムが適しており、アフリカ政治にはポストコロニアリズが必要です。多くの理論を知ることで、必要に応じて使い分けることができます。

前述しましたが、理論を学ぶことは、プロのシェフがキッチンに何種類かの包丁を揃えておくようなものです。別にどの包丁を使っても切れますが、素材に合った包丁を使った方が美味しい料理が作れます。

機会があれば、今後さらに各理論について詳しく書いていきたいと思います。

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