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ブレヒトの戯曲『第三帝国の恐怖と貧困』を読む。


都会には小劇場がたくさんあって、それぞれ特徴のある舞台が観客の目の前で演じられていることでしょう。しかし、私の住む地方都市では演劇を見る機会は極めて少ないのです。しかも、このブレヒトの『第三帝国の恐怖と貧困』が近い将来、私の町で上演されることはきっとないと思います。世界的に有名な戯曲を読むと、上映される機会の多い都会に住む人たちを、うらやましく思うこともあります。


ネットで調べてみると、数多くの小劇団がこの戯曲に挑戦しているようです。

第三帝国とはヒトラーが夢見た「夢の国」のこと。日本でも最近、自分たちの主張を押し付けた国づくりがあるようですが、そんな感じです。ブレヒトは1933年にドイツを離れました。ブレヒトは1928年に発表した『三文オペラ』で有名になった劇作家でしたが、彼の妻がユダヤ人だったために亡命したのです。

この作品には、二十四話の寸劇が収められています。全てが1933年のヒトラーの誕生から1938年までの間に書かれたものです。


この舞台は、世界中で同じ場面から始まります。それはこの第一話の「国民共同体」です。

この舞台では二人の親衛隊が、酒を飲んで千鳥足で街を警戒しています。お互い背中と背中を合わせ、銃を構えています。どこに敵がいるのか怖くてたまらないのです。

——第一の士官、硬直したように立ちどまって、耳をすます。どこかで窓があいたらしい。
第二の士官「なんだ?」
——第二の士官、ピストルの安全装置をはずす。一人の老人が寝巻姿で窓から乗り出し、小声で「エンマ、お前かい?」と呼ぶのが聞こえる。
第二の士官「奴らだ!」
かれは狂人のように激しく動きまわって、あらゆる方向にピストルをぶっぱなす。
第一の士官(叫ぶ)「助けてくれえ!」


特に恐怖を感じるのは、第十話の「スパイ」です。

子どもが盗み聞きしていることを疑った両親、子どもが雨の中、そっと家を出て行く……

妻「わたしたち何を話していたかしら?」
夫「なんの関係があるんだ? それとこれと?」
妻「あなただってご存じでしょう、そこらじゅうでぬすみ聞きをしてるってことは。」
夫 「それで?」
妻 「それでだって!だからあの子がしゃべって回ったりしたら。ご存じでしょう、あの子が「ヒットラー少年団」で教えこまれているってことは。なんでも報告しろって、はっきり命令されているんですよ。なにしろ変だわ、あんな風にそっと出て行くなんて。」
夫「馬鹿くさい。」
妻「お気づきにならなかったのね、いつ出て行ったか?」
(略)
男の子「どうしたの?」
妻「どこへ行っていたの、あんた?」
——男の子はチョコレートの入ったか紙袋を見せる。(略)
夫「あいつ、本当のこと言ってると思うか?」

この『第三帝国の恐怖と貧困』には戦争に向かうドイツの、恐怖と人々の貧困が描かれています。

日本でももっともっと、このような演劇を見る機会を増やしてもらいたいと思います。そしてもしこの『第三帝国の恐怖と貧困』が演じることが、何かの理由をつけて(それはどんな理由でも付けられるだろう!)演じることを禁じられてしまうようになったら、日本が、この恐怖と貧困の世界にまっしぐらに少し進んでいくことになるだろう。怖いなあと思います。

読むべき戯曲です。

「バカなことを言うな!そんな世の中にはならないよ!」と言うことが、実は一番怖いのです。




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