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読書感想文のまとめ

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#ヘルマン・ヘッセ

ヘルマン・ヘッセの短編集『メルヒェン』より『詩人』を読む。

私の祖父母が生まれたのは九州山脈の奥、川に沿って、国道がS字を描きながら奥に伸びていました。 村のバス停からまた細い道を右に左に折り重ねながら登り、ようやく小さな集落にたどり着きます。 谷の向こうの山はまるで屏風のようです。 夜になると、谷向こうの山の中腹に家々の明かりが灯ります。 明かりは人が住んでいる証拠です。 あたりは真っ暗ですが、明かりが五つ、六つ見えます。 目を上に向けると、同じような光が見えます。 谷向こうの家があんな高いところまであるのかと思いましたが、

ヘルマン・ヘッセ研究会(編・訳)『ヘッセからの手紙・混沌を生き抜くために』を読む。

世の東西を問わず、書簡集はいろいろありますが、この『ヘッセからの手紙・混沌を生き抜くために』はとても重い充実した書簡集です。 例えば太宰治にも書簡集がありますが、金の無心など生活感たっぷりの内容です。それに比べてこの書簡集は第一次世界大戦の前から第二次世界大戦の後まで、ドイツ人(スイス在住)であるヘルマン・ヘッセが書いているものなので、文学と戦争との関係が、人々の苦しみがひしひしと伝わってくるものになっています。 ヘルマン・ヘッセが考えたドイツ気質とはどんなものだったので

ヘルマン・ヘッセ(著)『デミアン』を読む。

ヘルマン・ヘッセの小説は日本では『車輪の下』が有名ですが、これは日本だけの現象だそうで、世界ではこの『デミアン』を読む人がたくさんいるのです。第一次世界大戦後の若者たちに長く読み継がれている小説です。 ヘルマン・ヘッセは学生時代に自殺を企てるほど悩みます。何に対して悩んだのかは『車輪の下』に詳しく書かれていますが、私自身、学生時代(中学、高校時代)にそんなに深く考えたことがなかったので、ヘッセの悩みそのものさえ、はっきりとつかめないままです。 ただ、この『デミアン』の最初

ヘルマン・ヘッセ(著)『車輪の下』を読む。

ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』はもうずいぶん長い間、積読の状態になっていた。 『車輪の下』というタイトルから受ける印象はどこか牧歌的だなあと、私は勝手に解釈していた。このような感じを受けているのは私だけなのかもしれないと思うと、恥ずかしいが、皆さんはどうなのだろう。なぜそう思ってしまうのか。それはこのタイトルの『車輪の下』を幌馬車の下の暗がりと勝手に思い込んでいたからだ。 この本は、そんなほのぼのとした小説ではない。いや、前半は主人公の少年は、野で遊び、川で魚を釣ったりし