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第4回 短歌読書会――穂村弘『短歌という爆弾』小学館文庫.


0 導火線――最高の爆弾作りをめざして p.7

必要なのは、今ここにいる自分の想いや感覚、夢や絶望を、最高のやり方で五七五七七の定型に込めること。それだけで短歌は世界の扉を破るための爆弾になる可能性がある。

穂村弘(2021)『短歌という爆弾』小学館文庫, pp.10-11.

本書の構成:
【導火線】短歌に興味を持ってもらう(「心に火をつける p.11」)。
【製造法】「自分の想いをかたちにするための具体的なレッスン p.11」を行う。
【設置法】自分の短歌について発表する場を説明する。
【構造図】短歌の魅力、魅力ある短歌の中身についての分析をする。

1 製造法――「想い」を形にするためのレッスン 

ディスカッション 謎の同人誌『猫又』の歌を読む p.14

このコーナーでは、同人誌『猫又』に寄せられた初心者の作品を素材にして、穂村弘と東直子のふたりの歌人が、さまざまな角度から「想い」を言葉に乗せるためのアドバイスをする。(中略)今回の作品テーマは「帽子」である。(後略)

穂村弘(2021)『短歌という爆弾』小学館文庫, pp.14-15

なぜこの歌が選ばれたのか

唯一、穂村さん(以下、敬称略)と東さん(以下、敬称略)の両方が選んだ歌がコレ。この歌のどこが良かったのか気になる。(コト)

やりなおす楽しさ語れり帽子から犬の毛のぞく女の明日よ (ねむねむ)

穂村弘(2021)『短歌という爆弾』小学館文庫, p.36

✒️本文中で語られていること
《やりなおす楽しさ語れり》:帽子から溢れている《犬の毛のぞく女》の感情
《明日よ》の《よ》:溢れている「私」の感情
《語れり》の《れり》:一種の突き放し
「『帽子』からはみ出たもの」:感情のはみ出し自体、比喩として感情のはみ出し

✒️コト
「やりなおす楽しさ語れり/ 帽子から犬の毛のぞく女の明日よ」
→前半は実際的に見て、後半は俯瞰的に見ている。
最初は目の前の彼女の話を聞いているが、段々と彼女は心変わりしていないだろうかなどと想像しだしている点で視点がずれていっているといえる。

✒️ひな
「帽子から犬の毛のぞく」
→これがあることで、どのくらい女の感情がはみ出ているのかが分かる。
→「私」にとって「女」がどう見えたかがよく伝わってくる。

なぜこの表現が適切なのか

《帽子屋が帽子のゆめをみる》っていうのがよく分からない。
《落葉》を使っているという点で切なさがあるのは分かるけど、《帽子屋が帽子のゆめをみる》にネガティブな印象があるというのが想像つかない。(ひな)

帽子屋が帽子のゆめをみるように銀杏落葉がふたりを包む (穂村 弘)

穂村弘(2021)『短歌という爆弾』小学館文庫, p.28

✒️本文中で語られていること
夢だからいつの間にか覚めるという前提がある。
今銀杏落葉に包まれた親密な二人がいるけれど、それは帽子屋が見ている夢のような儚いものかもしれないという感覚。
「《帽子屋》というのも、そんなはかなさを帯びた言葉」

✒️コト
《帽子屋》:かつてほど栄えていない職業
《ゆめ》:消えていくもの、掴めないもの、覚めるもの
上の単語2つが合わさると、儚いイメージになる。ネガティブとかではない。

✒️ひな
《帽子屋が帽子のゆめをみる》だけを聞くと、帽子が夢に出てくるほど帽子が好きなんだなと思っちゃう。
帽子屋が帽子を作るのが夢だとして、でも、それが夢でしか実現できない(思ったとおりに作れない)のだとしたら儚い。
現実では自分が「帽子」と思っていない帽子を作っている可能性がある(ただの生きるための糧)。
そもそも、《帽子屋が帽子のゆめをみる》という言葉が出てこないので、そこがすごい。

情景が脳裏に浮かぶ歌

虫が死ぬと干からびるので、「かわいてた」がリアル。
カタカナやひらがなだけから漢字混じりになっており、子ども時代からその時代の回想へと移っていっている。(コト)

オニヤンマしっぽがおれてかわいてたむぎわらぼうしの香り遠のく (大内恵美)

穂村弘(2021)『短歌という爆弾』小学館文庫, p.17

✒️本文中で語られていること
ノスタルジックな感じがする。
細かいクローズアップの描写。
→細かさが逆に子ども時代の記憶。
死骸をしゃがんでじっと見ていると、熱中症になったように《むぎわらぼうしの香り》がふっと《遠のく》。
《遠》っていう文字を使わずに、ノスタルジックさを出せればなお良かった。

✒️ひな
「オニヤンマ死んでた」と普通なら言うはずなのに、「かわいてた」といっており、この回りくどさが詩的。
《遠》を使わないとすれば、掠れる?徐々に消え去る感じが出せる気がする。

✒️コト
《遠》を使わないとすれば、掴めず?思い出せそうで思い出せない感じ。
記憶は鮮明だけど、香りだけ分からない、みたいな。

✒️ひな
掴んでいる感じはする。
掴んではいるけど、段々薄まっているから《遠》のく。

✒️コト
もはや、パリパリ?
死骸の乾燥状態と麦わら帽子の香りの香ばしさを掛けてみた。

✒️ひな
「オニヤンマしっぽがおれてかわいてたむぎわらぼうし」今頭になく?
ちょっと直接的かもしれないが……。
記憶が薄れていっている感じを麦わら帽子の香りに喩えているはず。

✒️コト
忘るる、は直接的だけど響きとしては悪くないかも。

まとめ&感想

今回取り上げた3首とも、一捻りある。
現実のことを話していたかと思えばどんどん空想していったり、
そもそも夢の話だったり、
子ども時代の回想だったり。
単純に現実のことを詠わない。
《遠のく》を東が嫌ったように、直接表現は短歌では避けるべきなのかもしれない。(コト)

帽子というテーマが、上記のようなことを人々にさせている可能性がある。
身近なものではあるものの、常に着けるものではない。
また、頭を隠す、何かから守るといった意味を持っている。
服と違っていろいろな視点で捉えることができるからこそ、直接表現ではない表現になるのかもしれない。(ひな)

おまけ:「帽子」の歌

コトが詠んでみた

(改変前)白帽の締め付け逃れても日光追いかけてくる燦々と

幼い頃、帽子のゴムの締め付けが嫌で、懸命に逃れようとよく帽子を取ったが、待ち受けていたのは真夏の直射日光だった。
逃げ場がないと悟った幼少期の私の茫然とした感じを表現しようと思った。(コト)

最後、五文字じゃなくて、七文字にしたら?
追いかけてくる感じはすでに前半で伝わっているし、字足らずにしなくても。
太陽は意思を持って追いかけているわけではないので「何も意思なく」とか?
七文字じゃなければ「私の気持ち知らず」がいいかな(ひな)

(改変後)白帽の締め付け逃れても日光追いかけてくる ひとの気知らず

ひなが詠んでみた

(改変前)上からの視線が熱くじりじりと 帽子のつばで 赤い顔隠す

帽子の思い出がなく笑
すごい日光が強いと帽子のつばで顔を隠したくなるのと、恥ずかしくて顔を隠すというのを掛けられるかなという下心で詠んでみた。(ひな)

身長差カップルの話かと思った。
これだと日光が強くて顔を隠したい、という気持ちは伝わってこないかも。恥ずかしい、の方が前面に出過ぎているかな。
《視線》が良くないのかな。(コト)

自分が何を表現したいのか曖昧なまま詠んだし、日光でも恋愛でもどっちに捉えられてもいいと思ったから良くなかったのかも。
部分的な詳細が強く、全体が見えてこないな。(ひな)

「後頭部じりじり熱く」に書き換えるとか?(コト)

(改変後)真上から熱い矢印射し込んで 帽子のつばで 顔暗くする

次回

・メールレッスンからスタート
・2は0みたいな感じで要約だけする予定です。


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