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映画「湯を沸かすほどの熱い愛」|葬式は人生の通知表

NetFlixの見放題がもうちょっとで切れてしまうので満を持して視聴。
とってもとっても強い母の熱い愛が周囲を温める素敵な映画だった。
命というものに対してここまで誠実に描き切る作品はそうそうないと思う。
宮沢りえは最初から最後まで美しいし,オダギリジョーは最初から最後までオダギリジョーって感じの映画だった。
伏線っぽくない伏線と中盤のどんでん返しと衝撃的な最後,お手本みたいな脚本で大満足だった。

ざっくり所感

脚本が本当に丁寧に作れられている。見ていて感じるちょっとした違和感が徐々に明らかになっていく秘密によって一気に消えていく感覚がとてつもなく気持ちよかった。なぜ素性もよくわからない旦那の隠し子?をすぐ受け入れられるのか,などなど斜に構えた観方をする観客を脚本の威力でぶっとばしてくれるのが本当に爽快だった。

中盤のおっきい仕掛けが明かされるまで気づかなくても,分からなくてもちゃんと面白くて踏み込んだらもっと楽しめるのは高く評価される作品のそれだった。ところどころコミカルなシーンがあったりフフってなるところが混ぜてあるのも超いい。

死の扱い方がとっても好き

終盤の組体操のピラミッドを見せるシーン。夫からのあったかくてちょっと抜けてる優しさが画面を突き抜けてくる素晴らしいシーン,あのシーンの次は絶対葬式のシーンが来ると思っていたら,病室で最後の時間を過ごす母と娘のカットになっていた。ガンの痛みで消え入りそうな命の宮沢りえの姿はそれまでの感動的なカットとは打って変わって,痛々しく,そして死を感じた。だがそれがとっても良かった。死をしっかりごまかさずに描きっているところがたまらなく刺さった。

死んだけどみんな仲良く暮らせそうだしまぁハッピ~だね~なんて甘いことはなくて,病気に蝕まれて苦しみながら母は死んでいく。どれだけ感動的なシーンがあろうが人は死ぬし,それ自体は悲しいことに変わりはない.天国に行ったとか,見守っているとか言うけれど結局もう会えないことには変わりはなく,残された側は悲しみを受け止めるしか無いのだ。大切な誰かが死ぬということを無かった事にするのではなくて,しっかりと見つめ受け入れ,行きていくことが重要なのかもしれない。

そんな死に対する受け入れ方をしっかりと描くだけでなく,娘が親の死を受け入れてその上で人生をしっかり歩める様子を映しきっているその構造が本当に美しかった。母親も,観ている観客も娘がちゃんと人生を歩んでいくことを信じることができるから。

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