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5年間絶縁だった友人と会った話

ふと中学生の時の記憶が蘇った。
景色は…庭園。多分、文京区にある六義園だ。

抹茶を飲んでいる。お茶屋の赤い長椅子に座りながら、景色を見ながら友人と歴史の話をしている記憶だ。

彼との出会いは中学校だった。お互い席が近く、気づいたら共通の趣味の歴史の話をして仲良くなっていた。

六義園に二人で行ったり、彼の家にお邪魔してゲームをしたり仲良くさせていただいていた。

僕たちが共通していたことは、お互いあまり友達が多くなく感情表現が苦手だったことだ。似たもの同士だったからこそ仲良くなれたのかもしれない。

私立だった僕たちはそのまま、高校へ進学した。
高1のクラスも同じだったが、僕は1度目の人生のターニングポイントの真っ最中であり自分の事ばかりで、周りのことを何も考える事が出来ない状況だった。

そんな僕の状況もあり、彼とは次第に疎遠になってしまっていた。高2になるとクラスが変わり、高1よりも交流をとる事がさらに減ってしまった。

用事があり、彼のクラスに行った。
久しぶりに彼に話しかけた。

彼からの返事は

「お前は友達じゃない」

当時の僕は理解不能で、何をコイツは言っているんだ?とはてなが何個も出てしまった。
僕たちはあれ以来、更に距離を取ることになり、結局話すこともなくお互い卒業してしまった。

高校卒業後、誰から聞いたのか忘れてしまったが、彼は大学で歴史学を専攻したと聞いたことを憶えている。

僕も大学に進学した。大学では友人や素敵な縁に恵まれて、今まで分からなかったことが、分かるようになってくることが増えてきた。

大学4年生の冬頃、ふと彼のことを思い出した。

彼は…どうしてあんな言葉を僕に伝えたのだろうか。

分からない。分からないけれど、憶測だけれど、僕に都合の良い存在の様に扱われた気がして、それが故に出た発言だったのかなと…。

ただ、当時の僕は自分のことで頭がいっぱいで余裕とはかけ離れた状態だった。
それは何も悪いことじゃないし、仕方のないことだと思う。そう、仕方のないこと。

たまたま、お互いのタイミングが合わなかっただけ。
そう、仕方ないことだったんだなと…。
自分に言い聞かせるように、自分を納得させるように、そんな言葉を脳内で巡らせていた。

彼は..今どうしているのだろうか、何をしているんだろうか。

気になってきてしまった。

だが、連絡を取ろうにもLINEも電話番号もメールアドレスも何も持っていなかった。

居ても立っても居られなくなり、母に彼のことを聞いた。母は彼の母親のメールアドレスと電話番号を持っていた。

僕の打ったメールを母経由で送ってもらうが、もう既にメールアドレスは使われていなかった。
いきなり僕が電話をしては不信感を与えてしまうので、母に電話をしてもらうことを頼んだ。

電話も既に使われてないかもしれない。
仮に電話に出ても5年以上話していない友人からなんて不信感しか抱かないだろう。切られるかもしれない。断られるかもしれない。

そんな不安に苛まれる僕を余所に、母は淡々と電話を掛けていた。プルルルと音が鳴る。

はい。と声が出た。彼の母親の声だ。当時と変わっていない声だった。

僕の母親が簡単に経緯を説明し、僕と電話を変わる。

彼の母親によると彼は特に何も変わっていないという。
そして丁度、正月に家族で集まった際に僕の話をしていたという。なんだろう…凄く嬉しかった。こんなに都合の良いことあるのだろうかと不思議な気持ちになりながら、大事なことを伝えた。

「彼ともう一度僕は会いたいです。会って話したいです。彼にとって僕は友達じゃないかもしれないけど、彼は僕のことをどう思っているから分からないけれど、少なくとも僕は彼と会って話したいです。その旨をお伝えしていただけたらと、思います。」

LINEを彼の母親に教え、彼にLINEを渡してくれる様に頼んだ。

数時間後に彼が僕のことをLINEで追加していることが分かった。居ても立っても居られなくなった僕はスタンプを送りつけた。

彼と急遽、5年ぶりに会うことが決まった。

久しぶりに会う彼にどんな顔でなんて声を掛けよう。
迷う悩む、分からない。

車から降りて、彼が来るのを待つ。特に喉も乾いていないのに、自販機でコーヒーを買ってちびちびと飲んでいた。

歩いている人を見て、彼か?いや違うか。という行為を何度もしていた。短い数分がとても長く感じる。落ち着かない。

1人ゆっくりと歩いてくる男性がこちらに向かってきた。少し距離があったが、彼だとわかった。

彼も緊張していたのだろうか。
少し顔がこわばっている。ゆっくりと、「久しぶり」と言ってきた。

僕は色々考えていたが、当時と同じようにおちゃらけて
「よう!お前が友達じゃないって言ったのは、こうなる展開を考えて言ったのか!してやられたわ!く〜〜〜!よく、ドラマチックな展開にしてくれたなぁ〜〜〜。ドライブ行こうぜ!乗れよ!連れてきたいところあるんだ。」

彼はあの頃と変わらないニヤけた顔で助手席に乗った。

エンジン音と共に僕たちの青春がまた、動き出した気がした。


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