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『灰のもと、色を探して。』第19話:四人
むいているとは、思ったことがない。
まだ払暁から少し経ったほどで、外は快晴である。ところどころに穴の空いた天井から、強めの明かりが差しこんでいた。
街からやや距離のある、まだ踏破されていない遺跡にミリアはいた。
見通しがよく、入り口から近いところを拠点とし、ミリアはそこに即席の椅子と机を作っていた。作るといっても、都合のよさそうな石や木切れを探しては、寄せたり乗せたりする程度だ。机は
『灰のもと、色を探して。』第18話:再創世
もがいている。
気づくのが遅れるほど、ヒューから返ってくる力は弱かった。
慌てて、アッシュは顔を離した。唇の余韻に、心が波立つ。
息を忘れていたらしい。途端に、荒々しい呼吸の音が、躰の内側から聞こえる。
ヒューの顔を、ようやく見る。その表情から、憑き物が落ちている、とアッシュは思った。それは精神に巣食っていた魔だけではなく、躰にまとわりついていたものも、剥がれるように取れていた。
『灰のもと、色を探して。』第17話:奥の手
暗がりが、濃くなってきていた。
短いとも思えば、長時間を打ち合っている気もしてくる。
多くいた魔物は、一掃できていた。あとはゾヴを残すのみだが、当然に圧倒的な強さだった。
斃され、消えた魔物たちの跡には、大剣、斧槍、棍棒など、さまざまな武器が転がっている。それらを拾っては、ゾヴへの攻撃で壊していた。
いかに、ミリアの持つ斧が強靭に作られているかがわかる。それでも、刃こぼれを見せは
『灰のもと、色を探して。』第16話:アッシュとヒュー
螺旋状に、下っていた。
階段の段差は低く、幅は広い。そして、円周がとてつもなく長い。
扉を壊し、アッシュはヒューをすり抜けて中に入っていた。逃げようと思ったわけではない。戦うなら、囲まれるおそれのある広場より、狭い場所のほうが有利だと思ったからだ。
等間隔に松明が設置され、地下にもかかわらず明るい。しかし、まるで同じところを巡っているのだと考えてしまうほど、階段の幅や造形はすべて一様
『灰のもと、色を探して。』第15話:覚醒
いくらか、躰に熱が沁みている。
アッシュの魔法により、攻撃を受けても、損傷には至っていなかった。ただ、少しずつその熱が失われていく感覚がある。時間の経過か、損傷の累積か。いずれにせよ、敵からの攻撃を防いでくれることが、とてもありがたかった。
掴もうとしてくる手を弾き、足を払う。その鳩尾に、斧の柄で打ちこんだ。声をあげることもなく、魔物は動かなくなる。
時間はかかる。これは、そういう戦
『灰のもと、色を探して。』第14話:決戦
雪と灰は似ている。
徐々に、冬は終わろうとしていた。それでも、雪が降ると手がひどくかじかんだのを、ミリアは思い出す。
ミリアは手を開き、降りゆく灰の感触を確かめる。雪ではない。ただ、寒空から届いているからか、冷ややかさを指先に感じた。
ひと月ぶりの灰の国は、一段と寒くて暗い。しかし、その大気に抵抗するかのように、手は熱を保ち、躰の芯も固まってはいなかった。心がそうさせているのだろう。
『灰のもと、色を探して。』第13話:決断
月は、やや翳っている。
窓から入りこむわずかな光を見て、アッシュは思った。
灰の国から帰着後、まずはスミスに報告を入れることになっている。日暮れに伴って戻るため、常にそれは夜に行われていた。
道行く間に見つけた動植物の観察記録や、魔物との戦闘結果、そして、新たに身につけた魔法の詳細。
しかし、ここまで暗鬱な夜は、はじめてだった。
「認められん」
スミスは、先ほどから発言を変
『灰のもと、色を探して。』第12話:ギマライ
祈ることが、生きることだった。
日々、神を模したと言われる像を父は愛おしそうに見つめ、生命の感謝を述べる。母もできる限り父に寄り添い、結果、ギマライも祈りに同席することが多かった。
祈るとはいえ、父から出る言葉は願望や希望ではなく、謝恩と決意だったように思える。
今日も素晴らしい一日をありがとうございます。日々の繋がりを意識し、欲に溺れず、人を愛し愛されるように生きます。そんなような
『灰のもと、色を探して。』第11話:焚火
灰は、いつにも増して、強めに降っている。
ヒューが言うには、この地方は特に積もるのだそうだ。最初はうっとうしいと感じた灰も、今では慣れて、気にならなくなっている。姉は、髪に絡むのがどうしても許せないらしい。
どちらにせよ、今日で終わりなのだとアッシュは思った。灰の空は、今日で最後。明日からは、自分たちの世界と同じく、太陽と月の巡りが空に浮かぶ。
昨日、造物主の石庭には到着していた。日
『灰のもと、色を探して。』第10話:焚火
明と熱。
火を熾す理由は、大別するとそんなところだ。暗がりをなくすためか、暖を取るためか。徐々に勢いの強まる火を見ながら、ヒューは思った。今回は、熱のためである。
「いつ見ても、うまいなあ」
のんびりと、アッシュが言った。火口を作り、発火させる一連の流れを、先ほどから近くで見られていた。
「好きなんですよね、この一連の作業が」
「ヒューがそうやって着々と焚き火を進めてくの、俺も好き
『灰のもと、色を探して。』第9話:少女二人
やわらかさとあたたかさを、背中から感じる。
来た時に比べれば、いくぶん空は暗がりを見せていた。
「寝ていいからね、ヒュー?」
「はい。ありがとうございます。重くないですか?」
「まったく。やわらかくて気持ちいいくらいよ」
彼女の眼は、閉じているようだった。いかにも眠そうな声が、耳裏から届く。もとの世界の自分だったら、いかに女の子で軽いとはいえ、背負った状態で悠長に歩くことなどできな
『灰のもと、色を探して。』第8話:三人の旅路
空は変わらず、灰色だった。
天気などないのだ、と言うかのように、降灰の強さにも変化はない。時間としては朝だとしても、やはり暗いとミリアは思った。
昨日と同じ場所にいた。ヒューと、話をしていたところだ。
視線を戻して周囲にむける。弟が、勢いよく顔を四方八方に振っていた。
「姉ちゃん、ヒューがいない」
緊迫した声だった。確かに、見渡す限り灰と廃墟しかない。
「どうしよう、昨日の獣
『灰のもと、色を探して。』第7話:帰還
眼を開くと、灰色の空が見えた。輪郭の定まらない頭で、ミリアはまず少女のことを考えた。無事なのだろうか。
「アッシュさん、ミリアさんが起きました」
こちらを、覗いてくる顔がある。少女だった。肩まで届きそうな金色の髪に、透き通った、大きな青い瞳。年齢は弟と同じくらいだろうか。ミリアたちの住む街には、ちょっといない種類の美貌だ。
少し暗くなっていた。結構な時間、眠ってしまっていたのかもしれな
『灰のもと、色を探して。』第6話:遭遇
少し、ゆっくりしすぎた。
灰をすくい、皿にかけて火を消す。消えたあたたかさに、すぐさま恋しさを覚えてしまう。
空を見あげる。雲の色合いからして、今は昼をいくらか過ぎたところだろうと思った。夜まではまだ猶予があるが、そこまで悠長にしてもいられない。
顔が冷えていき、ヒューは次第に現状の悪さを認識していく。本日の寝床が、まだ確保できていなかった。早く旅を再開できるよう、慌てて用具を袋へ詰
『灰のもと、色を探して。』第5話:起動
騒々しさで、ミリアは眼を覚ました。横を見ると、弟はもういなかった。どうやら、かなり眠っていたらしい。
慌てて着替え、階段をおりる。予想するまでもなく、騒ぎの中心は工房からだった。弟の声が混じっているのに、ミリアはさらなる不安を覚える。
辿りつくと、弟がスミスに取り押さえられていた。その先に会員がひとりいて、あとはその周りを囲むようにしている。
「アッシュ」
堪らず叫ぶと、会員たちが
『灰のもと、色を探して。』第4話:弟
撫でてもらうには、いいことをしなければならない。
何度かお願いはしてみても、母はただ撫でることはしなかった。手伝いを頑張ったり、言いつけをしっかり守ったりすると、母はひんやりとした手をアッシュの頭に乗せ、くすぐったくなるような優しさで、ゆっくりと動かした。
少し恥ずかしくて、とても嬉しかった。言葉で褒めてもらうより、撫でられることが大好きだった。足らない、と文句を垂れても、母は時間を延ば