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春日部のラーメン店のこと

これぞ名店


これ、なんだかわかります?


ラーメンです。
ラーメンだと言うことは大抵の方にはおわかりかと思います。

わたくしはですね、

「決して春日部を素通りしません。」

千葉県から埼玉県にかけて走ります、東武アーバンパークライン、一昔前は野田線と言いました。
この野田線の春日部駅、よく通過するんです。
ですが必ずわたくしある目的があって途中下車します、春日部駅で。

それは何故かと申しますとですね、実は7番線8番線のホームに…なんと素敵なラーメン屋さんがあるからであります。

ラーメンの名店「東武ラーメン」はですね、昔からある立食いのラーメン屋さんなんですよ。
ピンクエプロンのお母さんが2人、いつもせっせと厨房で働いていらっしゃいます。
で、お客さんは厨房の窓の外に設営されてある、ちょうどL字型を成したカウンターで食べます。
黙々と食べます。
さっと食べてさっと電車に乗る。
なんと言いましても駅のホームのど真ん中でございますから、ワイワイガヤガヤというような、水飲んでいつまでも喋り散らかしているような、そんな雰囲気ではございません。

窓からあったかいラーメンが出てくる。
割り箸を割る。
コショウは、わたくしの場合ほんの少しだけ。

まずは、シナチクをコリコリ。
その次はスープ。
ここでワカメ、それからナルトも。
麺がちぢれ麺でスープを持ってくるんですよ、そんでもってチャーシューがしっかりとしてて旨いんです。
もはや駅の構内のクォリティではございません。

出汁がうんと美味しくって、そして優しくって、今の季節だと北風に吹かれながらコートの襟なんか立てて、あるいはマフラーなんて巻きながら、白い湯気なんか心地良くって、もうこれはですねえ、キングオブラーメンと呼んだっていい。わたくしは心からそう思います。


東武線からの眺めもまた、いい


郊外の、あるいは地方都市とでも呼びましょうか、夜の風景。これがまたいい。

わたくしは今東武線の各駅停車で千葉県の柏に向かっております。
快速ではございません、各駅停車。
柏で千代田線直通の常磐線に乗り換えて、わたくしの自宅である下北沢というところまで帰ります。

無駄な灯りのない、この地方都市の夜の風景、家から遠く離れた見知らぬ街で日が暮れると、子供の頃は急に不安に、家が恋しくなったものでした。
駆け足で、駆け足で、自然と家の灯りを目指して駆け出したものでございます。

お母さんのラーメン

わたくしの子供の頃はでございますね、あちらこちらのご家庭でも我が家でも、母親がラーメンを作ってくれました。
サッポロ一番、チャルメラ、うまかっちゃん。
昭和の食卓に登場した数々のインスタントラーメンがございます。
麺類ばかり食べると頭が悪くなるからって、あれは誰が言い出したんでしょうか、たまにしか食べれませんでしたね。

具がたっぷりと入っていて栄養バランスの取れたラーメン、ですが子供というのはどうしたって大人のように早くラーメンが食べられない、つまりズズッと音を立ててすするという、この吸引力がまだ身に付いていないんでしょう、いつまでもモグモグモグモグ、誰もが集団登校の集合時間に遅れたりなんかしたものでございます。

わたくし実際に耳にしたことがございますよ、「朝ご飯がラーメンだったので遅刻しました。」ってクラスの担任の先生に報告している同級生を。
それぐらいラーメンというのは、美味しいんですが同時に手強い存在でございました。

カレーライスは早いんです、食べるのが。
スプーンで掬って、ぐちゃぐちゃに混ぜる。
順番に口の中に流し込んでりゃ知らない間に食べ終わっちゃう。
ところがラーメンは、まずスープが熱いですから、熱いスープを啜れる子供もなかなかいないんじゃないでしょうか、ふぅふぅしながら食べるんですが、ヘタをするとスープが冷める頃にはラーメンが伸びてる、どうしてもタイムリミットがございます。そうなると食べていて楽しくなくなってきて、だんだん飽きて、そのうえ早く食べちゃいなさいって叱られるんですね。
おまけに苦手な野菜が乗っかってる時もあります。
難所だらけでございましたよ。
カレーだったらどんなに楽だろうと、いつも思ったものです。
それでもラーメンの持つ魔力の存在は、しっかりと子供達の心の中に根付いていたのですから、なんと言いますか、ラーメンって大したものですね。さすがはソウルフードに成り上がるだけの底力を持っているということでございましょう。あるいはたまにしか食べられないということも、ラーメンを神格化させる要因だったのかも知れません。

はじめて食べた夜のカップヌードル

ある出来事がございました。
夜中の、でございますね、夜中のラーメン。
ラーメンというのは、夜中になると魔法がかかります。ご存知の方も、勿論いらっしゃいますね、沢山。

わたくしの父親は車に乗って遠出をするのが好きでございました。
わたくしは幼き頃より車酔いをしましたから、連れてかれるのが嫌で嫌でたまらなかったんです。
しかしある夜、車中泊をしておりました、あれはどこかの高速道路の途中にあるパーキングエリアだったですかね、夜中に父親に連れられて、眠い目を擦って日清カップヌードルの自販機の前まで行きました。
昭和の頃はあったんです、カップヌードルの自販機。給湯口でお湯を入れまして、その右側には割箸やフォークもちゃんと格納してありました。

夜の明かりが神秘的と言いますか、わたくしはまだ幼い子供でしたので初めての夜更かしだったではないでしょうか、無性にワクワクしましたのを覚えております。そして頭が悪くなるからとたまにしか食べてはいけない、その筆頭であるカップヌードルをですね、父親がこっそり食べさせてくれたんですよ。
それが美味しかったこと美味しかったこと。

夜風が気持ち良くって、初めて見る深夜の世界。
あれは何と表現すれば良いですかねえ、わたくしは田舎育ちでございますので、夜といえば外は真っ暗なんです。車のヘッドライトとわずかばかりの街頭だけの世界でございます。
それがこの日初めて見た世界は、眩しいぐらいの灯りと人の賑わい。
興奮しました。

プラスチックの小さなフォークでもって、夜風に吹かれながら父親と二人でカップヌードル。
何か後ろめたいことをしているような、悪徳ゆえの快感でございますよ、そんな美しい思い出がございます。

春日部へ行こう

風に吹かれながらラーメンを啜る。
こういうのがいいんですね。
ラーメンを美味しくさせる条件の中には、色々とございましょうが、シチュエーションというのも大きな割合を占めるんじゃないでしょうか。
そして、ひと手間かけた美味しいラーメンを、見て楽しむ。食べて楽しむ。そして懐かしんで楽しむ。

記憶に残るラーメン、それが春日部にはございます。

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