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ママ、僕は何を見せられているのでしょうか。『ボーはおそれている』

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日常のささいなことでも不安になる怖がりの男ボーはある日、さっきまで電話で話してた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう"いつもの日常"ではなかった。これは現実か? それとも妄想、悪夢なのか? 次々に奇妙で予想外の出来事が起こる里帰りの道のりは、いつしかボーと世界を徹底的にのみこむ壮大な物語へと変貌していく。

Happinet Phantom Studioより引用

感想

 何と言っても長い、長すぎる!3時間にわたる狂気の世界は3時間の上映時間をより長く感じさせる。そして、正直なところあまり面白くはない。むしろかなり見るのにしんどい作品であることは間違いない。目まぐるしく展開される出来事に意味があるのか否かが非常に曖昧でひたすらに視覚から情報をブチ込み続ける3時間になる。さらに、物語性も結末も正直あってないようなものに感じた。
 ホアキン・フェニックス演じるボーはじめ登場人物全員が不可解かつ狂気性を帯びておりアリ・アスター監督お得意の観客を厭な気分にさせる作風には流石と言ったところ。
 最近ではオシャレ路線の作品が目立つA24だが、今作では不快で監督の作家性が濃い作品になっているので個人的にはA24”らしい”作品となっている。

稀代のマザコン映画監督!?

 この作品は精神疾患の息子が母親の葬儀に向かうというのが大まかな内容である。その道中に母親との思い出が回想されるのだが、それらはある種のトラウマ的な側面を孕んでいるように思える。
 過去のアリ・アスター監督作品を見てみると母親へのコンプレックスや確執のようなものが今作だけではないということがわかる。『ヘレディタリー/継承』では祖母、母が息子をカルト教団の悪魔降霊の依り代として扱うホラー映画であり、『ミッドサマー』では母親が自分以外の家族と心中したことにトラウマを抱える主人公がカルト村での滞在を通じて自身を解放していくという作品になっている。
 これらに共通する特徴から、母親に対する異常なコンプレックスというものがアリ・アスターの監督としての作家性と言えるのではないか。
 また、『ミッドサマー』以降になるとセクシャルな描写がかなり大っぴらに描かれており、もちろん今作でもそのようなシーンだけでなく巨大な男性器のモンスターが現れる(見ていない方は何を言っているのか分からないかもしれないがそのままの意味である)。これらの特徴から男根に対する性のメタファーやエディプスコンプレックスのようなフロイト的な思想も彼の作品から見て取れると考える。

まとめ

 私はアリ・アスター監督の作品はあまり好きではない。それは私が求めるJホラー的恐怖とは違う方向性の監督だからである。鑑賞後に厭な気分にさせる彼の作品にはポジティブな意見は出せないが、映画としてのクオリティは非常に高いという点は間違いない。今作だけでなく過去作品においても架空の設定であろうとかなり丁寧に練られており、展開を示唆させるネタを出したりと演出にもかなり気を配られているという印象を受ける。
 しかし、今作『ボーはおそれている』はその上映時間の長さだけでなく、過去作品とはかなり毛色が異なっているため、好き嫌いが分かれるのではないだろうか。かなり内省的な印象を受けたので、あえていうなら『汚い君たちはどう生きるか』というべきか。

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