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「データ立国論」を読んだ

慶應義塾大学教授 宮田裕章先生が書かれた新書「データ立国論」を最近読みました。

この本は、データ社会によってこれからどのように変わるのか?またどう変えていくのが良いと著者は考えているのか?等について書かれています。

タイトルは「立国論」ですが、個人としてもこれからを生きていく上でとても大事なことが記されている本であると僕は感じましたので、紹介させていただきます。(※引用部分は一部編集してあります。)


データ共鳴社会とは

これから私たちはデータを活用することで、多元的価値主導型のライフスタイルへ転換し、生きることを「再発明」できるかもしれません。人生で何を大切にし、このような価値に貢献するかを主体的に選択する社会の実現が目の前に迫っています。私はこの、データによって可視化された多元的価値によって人々が響き合いながらともに構成する社会のことを「データ共鳴社会」と呼んでいます

従来の資本主義社会のおける価値は主に「貨幣」でした。もちろん貨幣以外にも、例えば「信用」や「貢献」のように様々な価値があるかと思いますが、価値を可視化するのが難しいという問題がありました。しかしデータ社会ではいままでは数値化できなかった価値を可視化することで多元的な価値を創出し、貨幣とは異なる枠組みにおいても社会が動くようになるということです。後ほど取り上げる「社会信用スコア」はその一例ですね。


データの力で「最大“多様”の最大幸福」を実現

これまでの社会では「最大多数の最大幸福」を実現すること――より多くの人が幸福を感じられる単一のパッケージを考え、提供するべきとされてきました。しかし、個別対応を可能とするデータ社会では、「最大“多様”の最大幸福」――多様な価値を可能な限り把握し、一人ひとりに寄り添うサービスを提供することが重要な考え方になります。

これまでの資本主義社会では最大多数の「平均的な人たち」を想定して、そこに向けたパッケージをつくって提供することが合理的とされてきました。「大量生産・大量消費」はその典型ですね。

しかしデータを活用すれば、これまでよりも低コストで消費者一人ひとりのニーズや状況を詳しく把握することができます。それにより「個別最適」が実現し、多様な価値に寄り添えるようになるということです。後ほど取り上げるネットフリックスはその一例ですね。

この「最大“多様”の最大幸福」については、デジタル庁の方針を検討する際に著者がプレゼンを行ったとのことです。詳しくは宮田先生のnoteをご覧ください。


社会信用スコアの導入

「社会信用スコア」とは、ある個人を取り巻くさまざまな状況とインターネットでの行動履歴とを突き合わせ、AIを駆使して個人の信用度合いをスコア化するシステムです。決済システムの利用履歴・ネットショッピングの利用状況、公共料金の支払の遅延の有無、ネット上での言動などに基づき信用スコアを算出し、融資などの審査を行うのが一例です。

これまで金融機関の信用評価は、職業・年収・金銭の貸借実績などで評価するのが普通でした。しかし様々なデータにより個人の信用度合いを数値化する「社会信用スコア」の活用により、融資における評価を行っている企業が現れているようです。

データがますます活用される社会においては、「社会信用スコア」は金融機関以外にもどんどん広がっていくでしょう。たとえば「環境への配慮」や「ボランティアでの取組」などの社会への貢献が、誰にでも分かる形で評価される時代になっていくのかもしれないですね。


ネットフリックスの「ニッチだが濃い」作品

従来のクリエーションは天才的な作り手によるものか、あるいは外れの少ない「ヒットの王道」パッケージに沿って大衆受けするコンテンツを量産するやり方が一般的でした。ところがネットフリックスは、個々人の嗜好をデータで徹底的かつ細やかに拾い上げ、その一人ひとりに響くコンテンツを制作し、チョイスしてもらえるようにするという戦略を取りました。ニッチなコンテンツであっても個別にレコメンデーションできれば、ビジネスとして成立するのです。

ネットフリックスのような映像産業だけでなく、spotifyなどの音楽産業やamazonなどの小売業にいたるまで、ネット上の様々なサービスにレコメンド機能が備えられています。データ活用により従来は切り捨てられていたニッチな市場が成立するようになり、「個別最適化」の方向へ進んでいるということです。

ここ最近ビジネスモデルは大きく変わってきていると僕自身も感じますし、産業にもよりますが「低価格・大量生産」はこれからますます厳しくなっていくのかもしれないですね。


Better Co-Being(生きるをつなげる。生きるが輝く)

「データでつながる社会」ではwell-being(よき生:身体的・精神的・社会的に満たされている状態)のもう一歩先の世界観が必要です。「自分一人が幸せならOK」ではなく、「こうすれば幸せだよね」という社会善的な価値観が重要になるので、well-beingが共存する必要があるからです。この共存し共鳴するwell-beingのことを「Better Co-Being(生きるをつなげる。生きるが輝く)」と定義しています。この視点で生み出された価値こそが「共有価値」なのです。

データ活用により「個別最適」が図られるだけでは、社会において分断が広がっていく可能性があると思います。だからこそ「共有価値」により、人とのつながりを大切にする意識が必要になると僕なりに理解しています。

データは基本的には皆で共有するべきものであると僕は考えています。もちろん国や企業、個人それぞれが秘密として所有すべきものもあるとは思いますが、国や一部の企業が独占するような状態ではデータが悪用される危険性もあります。

宮田先生が示されている社会像はとても素晴らしいと僕自身感じますし、データ共鳴社会の実現に向けて小さな行動であっても起こしていけたらいいなあと思っています。


おわりに

この記事だけではこの本の良さが伝わりきれないとは思いますが、興味のある方はぜひお読みいただければと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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