論文メモ ツクヨミに関する一考察 : 三貴子の再考を通じて

藤目乃理子による論文。

問題設定

本論文では、『古事記』『日本書紀』に登場するアマテラス、ツクヨミ、スサノヲの三貴子をとりあげ、三貴子がどのように成立したのか、また、アマテラス、スサノヲに比べて活躍が少ないツクヨミという神が創作された意図はなにかを改めて考えてみたい。

要約

  • 『古事記』では三貴子はそれぞれの領域(アマテラスは高天原、ツクヨミは夜之食国、スサノヲは海原)の統治を任されたが、『日本書紀』ではアマテラスとツクヨミは天、スサノヲは根国に属する二対一の構造になっている。

  • 水林彪は、天照が支配する高天原には、「国」に対する優位性が『古事記』の思想に見出せないとした。このような「天」と「国」との対等性が『古事記』の記述における勢力の分散に繋がり、その対等性を語る必要が失われたために、『日本書紀』においては日月神を天、スサノヲを地とする二対一の構造となったのだろう。

  • 「天照大御神」という神名のみに注目すれば、天を照らす行為は、太陽に限らない。『万葉集』において「アマテル」や「テル」は月に用いられる例の方が数が多いため、月も天照らす神と認識されていた可能性がある。

  • 天石戸伝説では、天照が隠れたことで「夜」が続いたとされ、『日本書紀』では天照が籠ると昼夜の区別がつかなくなったと書かれている。そこに月神は表れていない。天岩戸の神話が成立した際には月神は意識されておらず、天照があくまで「天神」と理解されていたと考えられる。天石戸伝説は、ツクヨミが創作される前に、天神アマテラスと地神スサノヲという二神の物語が存在していたことを示すものだろう。

  • 天照が日神となったのは、皇位に就く者だけではなく、それを補佐する者が不可欠とされたためと推測する。つまり神に限定された世界から、国家基準の神話を創作する際に、天皇を補佐する者として、天神アマテラスから月が分離され、日と並んで天を治める月神ツクヨミが生み出されたのではないだろうか。

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