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魅惑のあんバター。太いため、隠し食う。

中途半端な時間を潰すのが苦手だ。
そしてそれに反して、気づけばすぐに扱いづらいぶつ切りの時間を生み出してしまう。

何か予定があると小心者なので必要以上に早めに位置についてしまう。
そして欲張りなので、一度の外出にさまざまな予定を詰め込んでしまう。

その結果、用と用の間に30分、45分ほどの微妙な時間の切れ端を量産しては消費方法に頭を悩ますのである。


今日もまた予定の1時間ほど前に目的地に着いてしまった。

できる限りお金を使いたくないので、まずはウインドウショッピングに向かうのだが、お目当てのものを見たあとはもうなんだか士気が下がってしまう。

ヨドバシカメラなどの駅前巨大店舗に潜入しても、15分もすればスマホ勧誘マン達をすり抜けて出口に向かっている。

人混みというか、空気のよどんだ場所が嫌いというのもあるのかもしれない。


結局残り30分ほどになってしまったが、カフェに行こうと小川珈琲へ。
結局行くのであればウインドウせずに行けば良いものをこうなってしまうのである。ゆっくりするほどの時間もない。

あまり時間もないし、珈琲だけのつもりだったが、どうも「あんバター」が私にウインクしてくる。上のアイスが手招きしてくる。デニッシュ地ぽいトーストが「あなたしかいない」と囁いてくる。

気づけばスマートに電子マネーで支払いを終え、席にあんバターが運ばれていた。運ばれてきたその時、隣の結婚相談所経由で今日初めて会いました的な男女がそれを一瞥した。そして、口角が少し上がるのを感じた。

やはり太い人はコーヒーでは終わらないのだなと思ったのだろう。
いいさ、少し緊張がほぐれるのであれば。私が去し後、「隣の人見ました?やっぱり食べるんですねぇ」と笑い合うがいい。

ラーメンなどを爆食することにそれほど恥じらいはないが、スイーツ系はなぜか一段恥ずかしさが増す。

それはスイーツは別腹というか、おまけ的な意味合いがあるからだろう。
太い人は本腹だけでなく、別腹までしっかり満たさないと気が済まないのかという一種の検証的な意味合いを孕んでいる。

そして間違いなく2腹満たしてこそ満足できる私がいる。


店内の全視線が私のあんバターに注がれているような心地がして、緊張する。できる限り喜びを悟られないようにフォークをすすめる。

ゆっくり味わいたい気持ちと早く目の前から消したいという気持ちが共存しているが、やはりどっしりと構えることはできず、そそくさと完食する。

ただ、店内の全視線が私のあんバターに注がれていた場合、「もう食べたのか」と笑われるのではないか。

そして、どうやったて溶け出したアイスが皿には残る。
これから来店するお客にも「あぁ、やはりあいつはアイスがのった系を食べたのね」と突き止められる。

先に片付けようとすると「ほぉ、やはりちょっと恥ずかしいんだ。なら食べなきゃいいのに」と顎髭を撫でながら言われるだろう。

太い人は常に八方塞がり。塞がれてもなお、食べることをやめようとはしない。

食べるのをやめるのではなく、羞恥心を捨てる。
そちらに力を注いでゆきたい。

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