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俺の庭を荒らす女上司

徐々に通常営業に戻りつつある。
なかなか苦しんだリモートワーク&育児の生活にも終わりが見えてきた。

終わりが見えれば、もう少しこの生活を続けてもいいかもなと思ってしまう日々である。

人間はやはり慣れる生き物であり、そこがそれほど居心地の良い空間ではないとしても、一度定着したら腰が重くなるものである。


さて、そんなこんなで私にとっての居心地の良い空間って何だろうと考えてみる。

キャンパーなのでお外はもちろんだが、レトロ、というかどこか懐かしい香りの漂う場所に強く惹かれる。

マッチが置いてあるような喫茶店や、日焼けした紙メニュー、くすんだ食品サンプルなんかがあるような店でナポリタンやピラフなんかを食べたり、珈琲を飲むのが、至高の癒しである。

そんなレトロな店の集合体、地下食堂街みたいなのが好きだ。

職場近くにもそんな場所があり、週に1回くらい食べて帰るときは基本そこに繰り出す。いわば私の庭である。

先日もコロナの影響で繁忙となった部署の応援のため出勤した帰り、その庭へ赴き、くたびれた定食屋で豚肉と野菜を蒸した定食と豆腐やオクラや納豆をまぜた小鉢を食していた。デブの割にはヘルシーなもんだ。

あぁいい感じと店の雰囲気に郷愁を感じ始め、ふわふわとしていた矢先、勢いよくカランコロンカランとベルが鳴った。

コロンとした独特のフィアットのようなフォルムに灰色カーディガン、黒いインナー。トートの重みで右側に傾いた体、所作からほとばしるせかせか感。

間違いなく昨年までの私の直の女上司だった。苦手だった。

まさか俺の庭にあの苦手な野郎が入ってくるとは。怒りに震えた。縄張りを侵された動物が怒り叫ぶ気持ちにこれほど共感した試しはない。

距離はあったのだが、どうだろう。向こうは私に気付いたか。
私は肝試しで次のおばけが出てくるまでのストロークのように息をひそめ、顔をテーブルと並行にし、究極の上目使いであたりを観察した。

しかし、人間の構造上この状態でいくら上目づかっても、見えるのは前髪のみで、自分のでこの広さを再認識するだけに終わった。

ええぃやけくそだと思い切ってばっと顔をあげた。
その瞬間やつの能面ファイスが目に飛び込んできた。

なんとやつは私の正面の席にいた。1テーブル挟んでいたが、このじいさんが食べ終えたら対峙してしまう。
幸いこのじいさんは歯がないのにイカゲソを食べている。今夜は食べ終わらなそうだ。

その後もちらちら様子をうかがいながら、食べ終え、だるまさんが転んだの要領でこっそり退出した。

皆さんはこんなときどう対処するか。私はもう完全に逃げ回り、もしばれたらドッペルゲンガーを演じるだろう。

幸い私にはドッペルゲンガーがたくさんいるようなのだ。よくこないだ見たよと言われる。

この間もあそこの無印のソファで寝てたよねと言われた。あとコンビニの前でなんか食べてたよね。とか。ドッペルもちゃんとデブらしい行動をとっているようだ。

私は貴重な時間を使っていったい何を書いているのだろうか。

有益な情報があふれるこの世の中、逆にこれほどまでに無益なノートがあったっていいじゃないかと懲りずにまた書こう。


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