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【2024.1.21追記】入国未遂。これは越えてはいけない線だ。

「線」や「境」というものは簡単に、気軽に越えてはいけない。

他人との関係性にも一線を引く必要があるし、淫らにうっかり一線を越えてしまってはいけない。もちろん国境を越えるには煩雑な手続きが必要だし、許可なく越えると罰せられる。

一方で、越えるべき「線」や「境」もある。えいやと自分の中にある線を飛び越え、新しい自分に生まれ変わる努力が必要な時もあるだろう。

今、私の目の前にある線は、新しい自分に生まれ変わる線ではあるが、悪しき私に生まれ変わる線であり、明確に越えてはいけないトラロープ的な線である。

しかし、私は真顔でそのトラロープ的な線を腹で押し進め、異国へ歩を進めようとしていた。

熱気が充満する100kgオーバーの国へと。


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最近明らかに体重が増加しているのは悟っていたし、両頬肉に圧迫されて口が縦長ひょっとこ状に形を変え始めているのを悟っていた。しかし、悟りの境地すぎて抗うことを忘れていたのだ。

年の瀬、洗面所で歯を磨いていた時にキャスターつきのラックの下から埃を被った体組成計の電極が銀の顔を覗かせているのが左目の端に入った。その日は見て見ぬふりをしたのだが、翌日も電極の無機質な銀の嘲笑が瞼の裏に張りついたままだった。瞼の裏に電極があると邪魔で仕方ない。両目に電極をはめているとまるで仮面ライダーガッチャードになったような気分になってくる。悪とはできれば戦いたくない。

その日は電極を目にはめたまま友人との飲み会に向かった。ひと通り飲み食いし、昨日体組成計を横目で見たら張りついてしまったということを伝えて解散した。


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飲み会を終え、22時ごろに帰宅し、せっせと衣服を脱ぎ捨てる。浴室へ向かう前に電極を一瞥し、あとで乗ってやるからなと威嚇しておく。しかし、自分が出たあとの浴槽の水位低下を見るとそんな虚勢もみるみるうちに萎んでいった。

湯から上がり、微笑を浮かべる憎き電極を踏みつける。測定結果は99.4kgだった。四捨五入という概念がなくとも私はもう100kgなんだ。でも、まだボーダーライン上。そのラインを越えることも越えかけた足を上空で止め、元に戻すことも私の裁量である。


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あと一歩を超える前にギリギリで気づくということは重要だ。もしこれが100kgを超えてから測っていたら、「うわ100kg越えてるやん、100kgを超えるのは才能と言うし、そんな自分もアリか」とうっかり受容してしまいかねない。越えてしまったらもう2度と戻れないということはないが、ハードルは大いに高くなる。現在34歳、38歳にかっこよさのピークを迎えようと計画している私にはタイムロスが大きい。今こそ回れ右をしよう。

あなたにも今、何か横目で見ているだけの測定器はないか。今乗れば、一線を超えずに済むものもあるかもしれない。

これを書いている今日の測定結果が99.7kgと微増していることは内緒だ。ボーダーライン手前で一旦気づいてもぬるりと異国へ入国しかねない私がいる。

もし越えてしまったら「越えてしもうたぁ」と呑気に笑おう。

毎日インスタで体重をさらしつつ、腹筋ローラーだ。


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2024.1.21。この記事を書いて2週間ほどが経っただろうか。
その間、ひたすらにライン手前をうろちょろしていた。98kg、99.4kg、サウナで測ったら97.5kg。数百gの変動に連動して口角が上がったり下がったり。そんな日々を繰り返していた。

まぁこうして追記しているということは、はいはい、そうそう、そうだよ。100kg。100kgいったんだよ俺は。完全にライン上に立ったんだよ。

100kgに近づいてはいるが、心のどこかでそこに達することはないと鷹を括っていた。昨日の中華屋でのランチを唐揚げ定食ではなく、「黒米粥」にしたっていうのに。「黒米」の「粥」だぞおい。小鉢だって春雨とペラペラの干し豆腐を和えたやつやぞ。色付き米を食べていればすべて解決ではないのか。

これ食べたのに

風呂上がりに体組成計にのり、旅行帰りでたんまり食べたけど逆に減っていてくれと天を仰ぎ、おそるおそる数値を確認すると、101.6kgとビカビカ表示されていた。WARNING。

ん?101.6だと?超えるにしても何を1.6kgもオーバーしているんだ?背中に何かをおぶっていたかと背中に手を回す(正確にはちゃんと回らない)が何もいない。そんな節度のない、奥ゆかしくない越境ってあるかい?京都旅で奥ゆかしさ獲得してきたはずなのに?これが終着点ではなく、まだ先があることを暗示しているのか?スムーズなバトンパスがスピードを落とさず並走するように、100kg台の私に「さぁもっと太れ」と肉バトンを受け渡したのか?頼む、足もつれてころんでくれ。100kgなんだからもつれるだろ。

さすがにおかしいと思い、もう一度測り直すと、100kgジャストだった。これまた違和感があるので、何度か測り直すが、今度は何度測っても100kgだった。

101.6kgよりも、明確に「100kg」に達したという事実を叩きつけられたようだ。ここまで来てしまった。まだ私の贅肉たちは自分が100kgの一員であることに気づいていない。今日ものんきにぽちゃぽちゃと揺れている。

どどん

それでも100kgで止まっている。私の終着点はここだということだろう。さぁ折り返そう。ほらあっちあっち。いや、あっちだって。

さて心を落ち着けるとするか。さっそく京都旅で購入したお香に火を灯した。



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