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令和の日本型学校教育 要約

1 「令和の日本型学校教育」とは何か。
→2020年代を通じてICTの活用や働き方改革を通して、知・徳・体を一体で育む日本型学校教育の発展を目指す教育改革である。
・方向性として
(1)学校教育の質と多様性、包摂性高め、教育の機会均等を実現する
(2)連携・分担による学校マネジメントを実現する
(3)これまでの実践とICTとの最適な組み合わせを実現する
(4)履修主義・修得主義等を適切に組み合えわせる
(5)感染症や災害の発生等を乗り越えて学びを保障する
(6)社会構造の変化の中で、持続的な魅力ある学校教育を実現する
・「全ての子どもたちの可能性を引き出す」更に「個別最適な学びと、協働的な学びの実現」へ
「指導の個別化」と「学習の個別化」を教師視点から整理した概念が「個に応じた指導」であり、この「個に応じた指導」を学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」である。
○これまで築いてきた学校教育のよさを受け継ぎつつ、必要な改革を進めるにあたり気をつけたいポイント
一斉授業か個別学習か、履修主義か修得主義か、デジタルかアナログか、遠隔・オンラインか対面・オフラインかといった、いわゆる「二項対立」に陥らないことに注意すべきである。

2 「Society5.0時代」の到来で学校と教師はどう変わらなければいけないのか。
→予測困難な時代を生き抜く力を培うための教育を、新たな授業観で行っていく必要がある。
・Society5.0時代とは
狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に続く新たな社会のことを超スマート社会(5.0)と呼ぶ。
Society5.0時代は、私たちの生活を豊かにしてくれる可能性を秘めている。一方で、まさに予測困難な時代でもある。学校を卒業してからも自らの知識や技能を頻繁にアップデートし続ける必要がある。そのためにも、学校や教師にも変化が求められている。
・予測困難な時代で必要な資質・能力
予測困難な時代で必要な資質・能力とは、「学び方を獲得し、場面に応じて最適な学び方を選べる力」である。インターネットを使って調べる力、仲間と協働して課題を解決できる力、必要な文献からほしい情報を収集できる力、こうした力をたくさん身に付けておくことが必要である。そして、自らの特性や場面に応じて適切に選択できることが必要である。

3 「個別最適な学び」と「協働的な学び」とは何か。
→一人一人の多様性に応じながら、他者との対話・協働を通じて、自律的な学習者を育てることである。
・「個別最適な学び」をどう捉えるか
「個別」は、一人一人の個別のニーズに応じる志向性を表現し、「最適」は、本人が望んでいるものと効率的に出会えるようにする志向性を表現した言葉である。よって、AIドリルが注目されることには一定の合理性がある。
・「協働的な学び」をどう捉えるか
指導の個別化や学習の個別化は、学びの孤立化、格差・分断の拡大、視野の狭まりにつながるおそれがあり、「協働的な学び」の強調はそれを是正するものである。また、新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」という形で、対話・協働を通した学びの質の追求が目指されていました。個別最適な学びは、それを補完するものであって、協働的な学びとの一体的な充実はそうした文脈でも捉えられる必要がある。

4 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現のためにICTをどう活用するのか。
→「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的にして充実していく強力なツールとして端末を活用するようにする。
・個別最適な学び・協働的な学びとICT活用
個別最適な学びである「指導の個別化」と「学習の個性化」においては、子どもがICTを日常的に活用することにより、自ら見通しを立てたり、学習の状況を把握し、新たな学習方法を見いだしたり、自ら学び直しや発展的な学習を行いやすくなったりする等の効果が生まれることが期待される。
協働的な学びにおいては、ICTの活用により、子ども一人一人が自分のペースを大事にしながら共同で作成・編集等を行う活動や、多様な意見を共有しつつ合意形成を図る活動など、「協働的な学び」も発展させることができる。ICTを利用して空間的・時間的制約を緩和することによって、遠隔地の専門家とつないだ授業や他の学校・地域や海外との交流など、今までできなかった学習活動も可能となる。
・2つの学びの一体的な充実とICT活用
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実として、教科等の特質に応じ、地域・学校や生徒の実情を踏まえながら、授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、更にその成果を「個別最適な学び」に還元するなど、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である。

5 社会全体のDX化の中で「GIGAスクール構想」では具体的に何を実現するのか。
→ICTを授業のみならず、学校生活や家庭学習など様々な場面で活用し、見方・考え方を養う。
・GIGAスクール構想の目的=情報活用能力の育成
GIGAスクール構想においては、子どもたちに情報活用能力を育成することが一番の目的になる。オンライン授業も含め、授業中のみならず、学校生活のあらゆる生活場面や家庭学習でも情報端末を活用しながら情報活用能力を育成していく必要がある。ICTはコミュニケーションを便利に豊かに、そして効率的に行うための道具である。

6「ウェルビーイング」の実現と「ニューノーマル」への移行って何?
→個人・社会の幸せを目指すこと。ポストコロナで後戻りできない新しい世界へと移行することである。
・ウェルビーイングについて
「ウェルビーイング(Well-being)」における“being”は、人や組織、社会などの「状態」や「存在」を指し、その状態や存在が“よい(well)”というのが“well-being”の意味である。具体的なは、人や組織、社会の「幸せ(幸福感)」や「健康」「物質的・精神的繁栄」などを意味する。「『令和の日本型教育』の構築を目指して(答申)」の中で、「ウェルビーイング」は、答申全体を貫く基本的視座の一つとなっている。
4つのポイントが込められている。第1に、ウェルビーイングの原理である「幸せ」を踏まえつつ、かつその対象を個人のみならず社会にも広げていくこと。第2にウェルビーイングを「経済的な豊かさ」だけでなく、「精神的な豊かさ健康」などの次元まで拡げて広く捉えること。第3に、第1、第2を踏まえて実現を目指す社会を「多様性と包摂性のある持続可能な社会」だとすること。第4に、そのような社会を実現するために子ども(個人)は、その「社会を構成する当事者」であらねばならず、そのために「自分の身近なこと」はもちろん、「他者のことや社会の様々な問題に至るまで関心を寄せ、自ら主体的に考え、責任ある行動をとることができる」ことが期待されるということ。
・ニューノーマルとはとは
「新常態」と訳されることもある「ニューノーマル」とは、ある危機的な状況を越えた後、それまでの常識や考え方が通用しない世界に抜本的に変化することである。学校教育関係者にとってのニューノーマルの課題は、教育のデジタル化である。Society5.0の実現を想定して、様々な側面における教育のデジタル化が進められている。具体的な取り組みとして、GIGAスクール構想を実質的に推進するためのICT・デジタル活用や、遠隔・オンライン授業やハイブリッドな学び、ビッグデータの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速化などが示されている。

「STEAM教育」でどんな力を身につけるの?
→各教科の知識や考え方を生かして、実社会での問題を発見・解決し、新しい価値を創造する力。
・STEM教育・STEAM教育とは?
STEAM(スティーム)教育はSTEM(ステム)教育がもとになっていまる。STEMとはScience(科学)、Technology(技術)、Engineerring(エンジニアリングまたは工学)、Mathematics(数学)の頭文字を並べたものである。STEM教育ではこれら4つの教科や領域を関連させたり、統合させたりして実社会につながる課題を扱う。
STEAM教育は、STEM教育にArt(アート)やLiberal Arts(リベラルアーツ)のAを加えたもの。Aの範囲をデザインや感性として狭く捉える場合や、芸術、文化、生活、経済、法律、政治倫理等を含めた広い範囲で定義する場合がある。Aを加えることで、学習で扱う課題は文理融合的な課題となる。学習対象や問題解決の方法の自由度を高めつつ、より創造性を重視した学びを目指している。教育再生実行会議十一次提案においてSTEAM教育は「各教科での学習を実社会での問題発見・解決にいかしていくための教科横断的な教育」となる。
・STEAM教育で身につける力と学習活動の例
STEAM教育で身に付けることが期待されている力は、各教科の知識や考え方を生かして、実社会での問題を発見・解決し、新しい価値を創造する力である。
①学習の基盤となる資質・能力として
実社会につながる課題の解決等を通じた問題発見・解決能力
レポートや論文、プレゼンテーション等の形式で課題を分析し、論理立てて主張をまとめること等を通じた言語能力
情報手段の基本的な操作の習得、プログラミング的思考、情報モラル等に関する資質・能力等も含む情報活用能力
②現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力として
芸術的な感性も生かし心豊かな生活や社会的な価値を創り出す創造性など
STEAM教育等の教科等横断的な学習において、子どもたちが各教科等の「見方・考え方」を選択的に用いたり、その「見方・考え方」の意義や価値を理解したりすることが期待されている。

8「学習履歴(スタディ・ログ)」はどのように活用するの?
→蓄積されたデータを生かして、子どもの理解と個別最適な学びの実現に役立てる。
・スタディ・ログとは何か
スタディ・ログとは、学習者一人一人の学習履歴のことである。デジタル化され、これまで以上に細かなデータが得られるようになったと考えるとよい。
・デジタル化されることのメリット
動画や写真を活用することで学習履歴をデジタル化して残すことができる。また、保管場所を気にせずに膨大な量を蓄積できることも大きなメリットである。気になる子どもがいた場合、過去のデータにさかのぼり、履歴を確認することが可能になる。
・スタディ・ログの可能性
①進学の際の引き継ぎ資料としての活用
中学校に進学する際に、小学校での学習履歴を引き継ぐことができ、そのデータに中学校での学習履歴をプラスして高校への引き継ぎ資料とすることができる。小中高一貫して学びを蓄積していくことが可能である。
②教育委員会が学校の状況を把握する手段としての活用
スタディ・ログを使って各学校の状況を教育委員会が把握することができる。他校と比べて成績が落ち込んでいるクラスには支援スタッフを増やしたり、出欠状況を把握し、必要な支援につなげることが可能である。
・個別最適な学びの実現へ向けて
蓄積したデータを活用し、一人一人の子どもの実態を把握した上で、個別最適な学びを実現させていくことがこれからの学校・教師に求められている。

9「履修主義・修得主義」等の適切な組み合わせって?
→「個別最適な学び」の推進に伴い履修主義とともに修得主義の考え方が生かされることを目指す。
・履修主義と修得主義、年齢主義と過程主義
学校における進級や教育課程の修了、卒業の要件については、2つの考え方がある。1つ目は、一定の期間、学校に在籍し教育課程を構成している各教科等を履修することによって、進級、修了、卒業を認める考え方である。2つ目は、教育課程において目標とされる学力が認定されてはじめて進級、修了、卒業を認める考え方である。前者は履修主義、後者は修得主義と呼ばれる。一方、似たような区分に年齢主義と過程主義がある。前者は、一定の期間就学し、所定の年齢に達すれば進級、修了、卒業を認める考え方。後者は、一定の評価を通じて教育課程の習得を認定することにより、修了を認める考え方である。
・ICT等を活用した教育の推進の中で
今回の答申で、履修主義と修得主義との組み合わせが提言されたのは、今後ICT等が活用した教育が進み、個別最適な学びが可能になるとの見通しがあるからだと考えられる。

10「補充的・発展的な学習」において気を付けることは?
→子どもや学校の実態に応じて、学習内容を確実に身に付けることができるよう指導方法を工夫改善することである。
・「個に応じた指導」の充実を図る
興味関心や習熟の程度に配慮して一人一人の子どもを大切にした丁寧な指導を行うという教育の基本原則があることを理解することが大切である。
・補充的な学習において気をつけること
答申においては、補充的な学習において配慮すべき点として、次のような4点をあげている。
①「様々な指導方法や指導体制の工夫改善」を進めること
(ティーム・ティーチングや習熟度別コース編成など)
②「学習内容の確実な定着」を図ること
(ミニテストを設定したり、基礎的なドリル教材を中心にした宿題を定期的・計画的に出したりすること)
③「学び直しにより基礎の定着」
(復習用の教材に取り組ませたり、中学校においては定期考査の解き直しの授業を設定したりすること)
④「ICTを活用したドリル学習等」を組み合わせていくこと
(タブレット端末でのドリル教材を用いた学習)
・発展的な学習において気を付けること
発展的な学習においては、答申では次のような4点が大切であると述べられている。
①「児童生徒の負担が過重にならないように」配慮すること
(適切な難易度と学習時間を見通して担保すること)
②「学習内容の理解を一層深め、広げるという観点から適切に」取り入れること
(習熟度別コース編成における「発展コース」のみに限定すること)
③「学年や学校段階を超えて先の学年・学校の内容」を学習すること
(習熟度別コース編成における「発展コース」のみに限定すること)
④「個別学習のみで学習を終えることにならないように留意し、学校ならではの『協働的な学び』が取り入れられるよう教育活動」を工夫すること
(「まず自分一人でじっくり解き方を考える時間」と「グループやクラス全体で対話を通して課題を解決する時間」を組み合わせること)

11「多様な教育的ニーズ」のある子どもがいることを前提とした学級経営・授業づくりとは?
→「社会モデル」の考え方を生かした学級経営と子どもの状態を把握した授業づくりを行うことである。
・「社会モデル」の考え方を生かした学級経営
「医学モデル」が障害を個人の心身機能によるものであり、個人的な問題として捉える考え方に対し、「社会モデル」とは、障害は社会(物や環境等)と個人の心身機能の障害が相まってつくりだされているもので、社会全体の問題として捉える考え方である。この「社会モデル」は、学級経営にも通じている。教師は、多様な教育的ニーズのある子どもに対する対応のみを考えるのではなく、子ども同士が助け合う温かな学級集団を目指し、誰もが安心して学べる居場所を確立するために、周囲の子どもたちの理解を促していく必要がある。

12教職の魅力を向上するためにどんな「働き方改革」が取り組まれるの?
→教師が担う業務の明確化・適正化、業務時間管理の徹底、処遇改善施策の検討、教員研修・免許状の検討などがある。
・働き方改革をめぐって:議論されたこと
中央教育審議会の議論において、多くの関心を集めたのが、学校・教師が担う業務の明確化・適正化であり、次のように3つに業務を分けて整理した取組みである。
基本的には学校以外が担うべき業務:登下校に関する対応、放課後から夜間などにおける見回り、児童生徒が補導されたときの対応、学校徴収金の徴収・管理、地域ボランティアとの連絡調整
学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務:調査・統計等への回答等、児童生徒の休み時間における対応、校内清掃、部活動
教師の業務だか、負担軽減が可能な業務:給食時の対応、授業準備、学習評価や成績処理、学校行事の準備・運営、進路指導、支援が必要な児童生徒・家庭への対応
2021年のと「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(答申)」における学校の働き方改革に関する提言は、この一連の流れを受け継ぐものである。
・「令和の日本型学校教育」においては
学校における働き方改革の目的は、
自らの授業を磨くとともに日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで、自らの人間性や創造性を高め、子どもたちに対して効果的な教育活動を行うことができるようになること
と記されている。教師自らの教職人生を豊かにしていくこと、そこに目的があることを確認し、共有を図りたいものである。

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