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「幸せだけど、たのしくない」? 夫婦のかたちを考える

「このままじゃ、パートナーとして好きって気持ちを失っちゃう」

夫にそう伝えたのは天皇誕生日の夜、みんながそわそわするクリスマスイブイブ。ふたりでストーブにあたりながら赤ワインをあけているときだった。

◆   ◆   ◆

2018年は、てんやわんやな一年だった。

まず、赤ちゃんから幼児へ猛スピードで変化する娘との生活は、はちゃめちゃに幸せだった。

腰がすわった、笑った、食べた、歯がはえた、ハイハイした、指さしした、つかまり立ちした、積み木できた、しゃべった、意思疎通できた、髪が結べた、我が出てきた……。

ほんとうは全部に、「!」をつけたいくらい。おどろくほどたくさんの「はじめて」にシャッターきりまくり、「ねえ見てみて!」と言いまくり。なるほど人が成長する姿を見るのは根源的なよろこびがあるのだなあ、と実感した。

しかし同時に。今年をホンネで振り返ってみると……「100パーセントよかった!」「最高!」「悔い無し!」とは言えない。

なぜか。独身時代やDINKS時代のような、「腹の底からわいてくるわくわく」が少なかったからだ。

わくわくとはなにか。

「現在の堪能」と「未来への期待」に心おどること、だとわたしは思っている。

いまこのときに没頭し、目一杯たのしむこと。自分がたぐり寄せる未来に思いを馳せられること。趣味に没頭するのは「現在の堪能」、あたらしい仕事への挑戦や旅の予定を立てるのは「未来への期待」、というイメージだ。

こうした高揚感が、わたしにとっては、圧倒的に足りない1年だった。おそらくそれは、生活を回すことに日々あっぷあっぷで(=現在を堪能できず)、いろいろなアクシデントを場当たり的にこなすのに精一杯だった(=「未来への期待」が薄かった)からだろう。

そう考えたとき、「幸せ」と「心おどる高揚感」はまったく別のもので干渉し合わない、ということにも思い至った。

前述のとおり、2018年は幸せだった。いままで以上に友達とよくしゃべった。いっぱい感動した。娘に対しても、今日がいちばんかわいいしいちばん好きだと毎日思っている。

だけれども。以前に比べて「幸せ」が質量ともにまったく違うものになっている一方で、日々の高揚感は目減りしたところがあるのもまた事実だと感じている(もちろんゼロではないのだけど、比較するとね)。

そしてそれは、夫も同じだったんだと思う。

(自分で言うけど)愛する妻子に囲まれ、幸せ満点。でも、家事と仕事を両立させることに必死で、ライフを充実させるエネルギーはなかった。

そのせいで、わたしが好きなところ——いつもご機嫌で大声で笑うところ、好奇心旺盛なところ、なによりわたしの知らない世界を見せてわくわく感をくれるところ——が薄れつつあって。「いつもと同じ」を好むようになり、ひょうひょうとした軽やかさがなくなり……。

家族のためにと、当事者意識を持って積極的に、かつまじめに家のことを担ってくれた夫。ありがたいしうれしいし誇らしいのだけど、そのせいで、逆に、ふたりの関係がときどきガタつくというジレンマが発生していたのだ。

ワガママなのは百も承知だ。でも、結婚生活にわくわく感がないなんて嫌なのだ、わたしの価値観では。まだまだずっと、「きゃー」と笑い合っていたい。

生活するためだけに一緒にいるんじゃないよ。ひとりでいることもできるけれど、ひとりでいるより断然たのしいから結婚したんだよ。

……というところの、「好きじゃなくなる」発言だった。力も手も抜いて、一緒にわくわくできる夫婦でいようよ、と。


「横田さんさ、『幸せだけどたのしくない』んじゃない?」

そう言うと「ああ」としばらく黙り、「うん、そうだね、すごく腑に落ちた」と深く息を吐いた。そこからふたりで話し合った。

まず、ぱつぱつになるまで家事をがんばらなくていいんだよ、とわたしは言った。とても助かってるけど、それは夫婦の本質じゃないから。

お互いできることを、無理ない範囲でやろうよ。その分はたらいて、稼いで、家事代行を頼もう。仕事の話で目を輝かせたり、先の予定を立てたり、ふたりで遊んだり、ご機嫌でいてくれるほうがよっぽど嬉しい。あなたが笑顔でいることは、あなたにしかできないから。

「うん、わかった」
「じゃあ、ほかにはなんかある?」 
「やっぱり、インプットや娯楽を諦めないようにしたい。過去のストックで仕事をするのは限界がある」
「わかる! 仕事もあそびももっと攻めたいね、すぐ『無理かな』って思わないようにしたいよ」
「あとは、もっと子抜きデートもしよう。この間の楽しかったし」
「そうだね。油断すると『せねば』に囚われがちだから、けせらせら精神を持ちたいなあ」

——そのほかにも、いろんな、たのしい案が出てきた。ちょっとわくわくした。ワインはほとんど減っていなかった。

もちろん、すべて実行されるのかはわからないし、むずかしいかもしれない。けれどなによりふたりの意識を引き合わせ、「どうありたいのか」を確認できたのは、とてもいい時間だったと思う(家事代行はその場で申し込んだ)。


やっぱりワガママかな、と思うけれど。愛あふれる家庭と高揚感あふれるライフを両立させたい。このチームで、「幸せでたのしい」を目指したい。

一年後、わたしたちは、どんなふたりでいるんだろう。

いまよりもっと仲良しで、もっといい相棒で、そしてお互い魅力的であるといいな。

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