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個人の信用をどう担保する?~シッター事件について思うこと

キッズラインさんの件、とてもショックですぐに言語化できなかったのですが、自分自身の思考の整理のためにも書いてみたいと思います。本件についてはジャーナリストの中野円佳さんが、非常に丁寧かつ真摯な取材で問題を明らかにしています(↓事件についてご存じない方は以下の中野さんの記事をぜひお読みください)。

「共働き世帯」の「救世主」だった

なぜショックだったのかというと、事件の内容はもちろんですが、私自身が一人のユーザーとして大好きなサービスだったからです。事件は本当にひどいものですし、同じ子を持つ親として被害にあわれた方のことを思うと胸が痛みます。ただ、キッズラインさん自体は共働き世帯にとって非常に画期的な素晴らしいサービスだったのも事実です。私自身(現在2歳の娘がいます)も、初めての子育てで右も左もわからないまま、キッズラインのシッターさんたちにはこれまでたくさん助けていただきました。感謝しています。

子どもが病気のときや夫婦そろって夜間仕事のときなど。スマホのアプリで簡単にシッターさんを探すことができ、しかも早い。子どもが熱を出したときは夜の19時過ぎからあわてて探して、翌朝からのシッティングをお願いしたこともあります。同社のアプリを介して登録しているシッターさんたちと直接連絡が取れるのでとても便利でした。操作画面は使いやすく、周囲の共働き世帯でもキッズラインの愛用者は多かったです(私自身も先輩ママから同サービスを教えてもらいました)。そういう意味では私たち「共働き世帯」の「救世主」的なサービスでした。

それは同社のサービスに登録する多くの個人のシッターさんたちにとっても同様だったと思います。私が同社を通じて何回かシッティングをお願いしたある70代の女性は、もともと複数の保育サービスでお仕事をされていたものの、同社のサービスに登録してからは使いやすくしっかり稼げるのでこれに一本化して仕事をしていると生き生きと話されていました。

フリーランスは「信用」が大事

キッズラインのシッターさんたちがどこまでご自身たちのことをフリーランスとして認識されているかはわからないのですが、このような形でスキルを活かして個人として仕事を請け負って働く人たちを「フリーランス」と呼びます。たとえどこかに会社員として勤めていたとしても、副業で個人でお仕事をされているのであれば、それは広義のフリーランスにあたります。

私はフリーランスとして働きたい女性たちと企業との仕事のマッチング事業を展開する会社を経営しており、フリーランス協会というフリーランス支援の社団法人で理事としても活動しています。フリーランスのマッチングの際に重要なのが「品質保証」です。そのフリーランスが確実に成果を出せるということがわからなければ、お客様はその人に対してお金を払わないでしょう。ですから、フリーランスマッチングの事業を展開する際にはそうした「個人の信用をどう担保するか?」が重要です。

ちなみに「フリーランスのマッチング」といっても、大きくタイプは4つあります。①プラットフォーム型②あっせん型③再委託型④募集掲示板型です。たとえばキッズラインさんは①のプラットフォーム型です。仕事を頼みたい人(子どもの親)と請け負いたい人(シッターさん)の相互取引の場(=プラットフォーム)を提供し、両者から利用料を受け取るビジネスモデルです。

レビューが機能しない?

信用を担保するために多くのプラットフォームが取り入れているのが「レビューシステム」です。取引内容や仕事ぶりについて発注者と受注者が互いをプラットフォーム上でレビュー(評価)するのです。そのことにより発注者はプラットフォーム上に登録している個人(受注者)の保有するスキルや仕事ぶり(ときには人柄)を理解したうえでの発注が可能になり、ミスマッチやトラブルを極力回避することができるようになる…というのがこれまでの私たちの理解でした。

しかし今回ショックだったのは中野さんが記事で明らかにしているようにこのレビューシステムが実質的にはほとんど機能していなかったのではと思われる点です。詳しくは中野さんの記事を読んでいただければと思いますが、キッズラインさんの場合、自宅住所や自分や子どもの名前をふくめてかなりプライベートな情報が相手に共有されているため、たとえ業務内容(シッティング)に不満があったとしても、それを率直に相手には伝えにくいしくみだったのではないかと記事中で指摘されています。

実際、私が利用していた際もほとんどのシッターの方が5点満点で5ないし、4.7~4.9など高評価でした。おおむね素晴らしいシッターの方ばかりだったのですが、コミュニケーションに少し違和感がある方がおられて、でもその内容を私はレビューには書きませんでした。他の方からとても高い評価を獲得している方でしたし、相互レビューということもあり、書くことで自分自身がプラットフォームを利用しにくくなるのでは…という懸念もありました。そうしたちょっとした「違和感」や「疑問」をレビュー欄に書きにくい事実はありました。

「品質保証」に唯一の「解」はない

個人の信用を担保する有力な手立てだったはずのレビューシステムが機能しない(こともある)というのは衝撃的な事実です。ではどう信用を担保していったらいいのか?正直言ってフリーランスマッチングにたずさわる者として「これをやれば絶対に大丈夫」という「たったひとつの方法」はありません。業界で知見を共有し、何重にもはりめぐらされた「いくつもの方法」で可能な限り保証していくしかないと感じています。

私たちの会社(上記の区分でいうと②あっせん型③再委託型両方でマッチングをしています)では広報やマーケティング、人事などの「ビジネス系職種」でフリーランスとして働きたい女性たちと企業さんとのマッチングを行っているのですが、複数の手段で品質を保証するべく努力しています。

まずフリーランスとして働きたい方々は当社サイトに登録後に履歴書・職務経歴書をご提出のうえで当社キャリアカウンセラーと面談いただきます。その際に不審な点やコミュニケーション上の問題点などがあった場合は企業にご紹介はしません。また、企業側の仕事案件にご応募いただく際も同様に書類をご提出のうえで、企業側と面談していただくようにしています。面談の場では企業側の課題(依頼内容。たとえば~というサービスのWebマーケティングを強化したいとか、PRを強化したい、組織拡大に伴い人事制度を見直したいといったことです)を共有いただいたうえで、その課題解決のために自分だったらどういったことができそうか経験をもとにお話をしていただき、その結果として企業側として「この人(=フリーランス)なら成果を挙げられそう」という納得感を持ったうえでご発注いただきます。

私たちの会社ではプラットフォームではないこともあり、いわゆる相互レビューシステムは取り入れていません。ただ各企業・個人(フリーランス)にはそれぞれ担当の営業マン・カウンセラーがついていますので、案件受注後に各担当が企業や個人からいただいたフィードバックについては次回以降のマッチングに活かしていきます。

また私たちのサービスを介して初めてフリーランスとして活動される方を中心に「稼働前ミーティング」というものを設定し、フリーランスとして働くうえでの心得やありがちなトラブル事例を共有し、なるべくトラブルを回避する工夫もしています。

もちろん私たちも完璧なわけではありませんし、ときにはミスマッチが生まれることもあります。しかし、たったひとつの決定的な方法があるわけではなく、より良いマッチングのために何重にも工夫し続けるしかない、と感じています。

つながりで保証する

私たちのようなマッチング会社が企業努力として行う以外に最近有効だなと感じているのが「つながりの力で保証する」ことです。実際、フリーランス協会で調査した「フリーランス白書2020」によれば、7割以上のフリーランスが知人の紹介を含めた個人的な人脈によって仕事を得ています。

実はフリーランス協会で提供しているフリーランスDB(↓)では誰でも無料でプロフィール掲載&検索ができます。

このDBでは、プロフィールや仕事歴を掲載できるだけでなく、「仕事をしたことがある」など個人のつながりを可視化できるようになっています。気になるフリーランスの方と自分の知人がつながっていたら、知人に「この人と仕事をしたときどうだった?」など個人的に評価(仕事ぶり)を調べたうえで連絡したり仕事を依頼したりすることができる機能があります。まだまだアクティブに活用しきれていない部分が大きいのですが、こうしたフリーランスとして働きたい人と人のつながりが広がって可視化できるようにするのもひとつの信用保証の方法だと考えています。

犯罪阻止は徹底的に

ただ、個人の信用の担保は、特にシッティングなどの自宅へうかがっての密室での業務提供や身体接触を伴う業務提供の場合、互いの身の安全の確保の観点からより一層厳格であるべきですし、シッティングのような子どもが対象のサービスであればなおのことそうです。フローレンス代表の駒崎弘樹さんがnoteで書いていらっしゃいますが(↓)、事業者の自助努力だけでは、完全に性犯罪者をキックアウトできないのであれば、子どもに直接関わる保育士やベビーシッターなどの採用時に、犯罪歴をチェックする仕組みをぜひ行政主導でつくっていただきたいと切に願います。




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