台湾ひとり研究室:翻訳編「#14ここまでの作業状況から考えてみた方針を3つ、まとめてみます。」
「方針」と大仰な見出しを付けてみたものの、現時点まで訳しながら考えたことをいったん整理してみよう、というのが今回の趣旨でございます。
さて第11回で、私が翻訳作業にかかる所要時間を大幅に読み違えて、大幅に立て直した、という話を書きました。その際、私なりに見えてきた課題を列挙し、担当編集さんに締め切りを延期してほしい、と泣きを入れたんです。すると編集さんから、こんな指示が届きました。
「基本的には、日本語で違和感なく快適に読めるような文章にすること、著者が日本語ネイティブで書いていたとすればどういう文章になったか、という観点で訳出していただければ良いかなと思っています」
ハッとしました。目の前の文章のことばかり考えていたけれど、これって文芸翻訳の基本だよなあ、とそもそもの原点を教えていただきました。
日本語と中国語は同じ漢字圏ですし、日本語には中国語から伝播されたものが多々あります。ですが、言語学的な分類によると日本語や韓国語は「膠着語」と呼ばれ、「孤立語」に分類される中国語とは、そもそも論からして成り立ちがかなり異なる言語です。日本語では、単語に助詞などがくっついて語と語の関係性を示し、同時に動詞が七変化することで、時制や意図を表しながら文が成り立っています。ところが中国語はまず語順がすべて。基本的に助詞も活用もないため、過去の出来事かこれから起きることなのかを語順と文脈で判断せねばなりません。それを「違和感なく快適に読める」ようにするには、どうしたらいいのか。単純な一対一でいけるはずがありません。そこをよくよく考えながら、翻訳していく必要があるわけです。
本書の著者、陳柔縉さんは記者出身であることもあって、文章は割合に端的で、読みやすいほうだと思います。とはいえ、言語が違えば考えなければならないことはいくつも出てきます。今回は全体にかかわる点として3つ、取り上げてみます。
人物名の訳出しと改行位置
勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15