【TGC創立70周年記念展】展示会作品
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天井の蛍光灯がもうすぐ切れそうだ。チカチカと規則的に点滅している光を瞼の奥で感じる。
今日は何月何日だろう。一年中暖かい現代の日本を生きていると、何百年も昔に“四季”があったなんて信じられない。
「あと三ヶ月」と言われてから、一年は持ったのだろうか。起き上がることも喋ることも、今の俺にはもう難しい。
誰かが手を握っている。ゆっくりと握り返す。「今日はいい天気だよ」と声が聞こえ、隣にバディがいることがわかり安心した。「もうちょっと話そうか?」と聞かれて二回手を握り返した。
二回手を握り返すのは“イエス”の合図。まだ意識がはっきりとしていた頃に、二人で決めた合図だ。
「調子、よさそうだね」
嬉しそうな声が聞こえてきて、思わず微笑む。俺の表情はまだ動いているのだろうか。
「じゃあ今日は、何歳頃の話にしようかな」
しばらく静かになり、バディが考え込んでいる姿が目に浮かんだ。一呼吸置いて、一緒に海へ行ったときの話を始めた。
バディの声にまどろみながら話を聞いているが、その時期に俺は海には行っていない。彼女はときどき知らない誰かとの思い出話をすることがあった。
そうだ。このバディは前の主人のことを覚えている。
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