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我が家には、もうルールなんてないと思っていたけれど

6月、「父の日」のプレゼントを贈った。

北海道の海鮮が数種類入っているおつまみセット。ホタテやいくら、大きなホッケなど、海の幸がぎゅっと詰まっていて、注文しながら私も食べたくなってくる。

えーっと、冷凍便でのお届けね、到着日は◯日で大丈夫。はい、注文完了。

母に電話をして「注文完了したからお父さんにサプライズで渡してね〜」と伝える。きっと父は気づいていると思うけれど……私が何を注文したのかは、当日まで内緒である。




配達予定の当日、仕事をしているとピコンとスマホが鳴った。一通だけかと思っていたら、続けて3、4回鳴った。

連続でスマホが鳴るときは、大抵家族のグループLINEが動いていることが多い。姪っ子ちゃんの写真が送られたり、たわいもない会話に母や姉、弟が参戦してやりとりが続いていたりする。家族LINEかなと思いスマホを開くと、母からだった。母単体のLINEで連続して何か送られてくると、少しばかり不安になる。何かあったのだろうか。

タップして画面を開くと、

そこには、黒い大きな箱を持って笑っている父の写真があった。

写真の後に「届きました!ありがとう」の文字。箱の中身を写した写真。そして、動画があった。

動画を開いてみると、父が「届いたよ。ありがとう」と言い、箱を開けていく様子が撮影されていた。



我が家には、いつから始まったかわからない不思議な習慣がある。

例えば私が母にプレゼントを送ったとしよう。プレゼントを贈られた側は、荷物を開封する動画を撮影して(またはしてもらう)送り主に送付するという習慣だ。

言葉だけ聞くと、なんだか面倒くさいように思う。一体これはいつから始まったのか私も詳しくは覚えていない。

ただきっかけの一つだと思うのは、祖母である。

私を含むきょうだいたちは皆実家を出てしまったため、なかなか会えない祖母の元気な姿が見たくて、よく母に動画を撮影して送ってもらっていた。

誰かが帰省をしたときも、祖母がどんな反応をするのかが見たくて見たくて、「弟よ!動画!回してね!送ってね!」とお願いをしていた。特にお土産を開けている祖母の嬉しそうな顔は、みんなのエネルギーになっていた。家族一同、すっかり動画を回すのが癖になっていたと思う。

思い出の一つとして残るだけではなく、送ったほうも正直なリアクションが見えるのは楽しい。撮影する側も今回は一体何が出てくるのかが分からなくてワクワクする。今ではすっかり習慣になっているため、荷物が届くと動画を撮りたくてしょうがないほどだ。

私も実家から野菜を送ってもらったときには、一人で喋りながら動画を回す。「なんやろな〜」と言いながら段ボールを開けていく。たまに誰かのメッセージが段ボールの側面に書かれていたり、私が実家に忘れて帰った洋服が入っていたりする。節分が近かったときは、母が鬼滅の刃の福豆を入れてくれていた。自分では絶対に買わないと思うから、思わず笑ってしまった。

反対に、私が姉の誕生日プレゼントで有名店の「パン詰め合わせセット」を送ったときは、とても嬉しそうな動画が届いた。

田中家にルールなんてもうないと思っていたけれど、「荷物が届いたら撮影をして送ってみる」という、なんとも不思議で、自由で、謎なルールが存在していた。

正直手間だし、撮影しなくてもいいんじゃないの?と思うかもしれないけれど、短い動画の中で私はいつも愛を感じている。



動画には、少し恥ずかしそうな父が母に撮影されながら箱のフタを開けていた。

「うわあ、美味しそう!ありがとうね」

父の元気そうな姿を見て安心した。父は撮影されるのには慣れていないと思うから、恥ずかしいんだろうなあ。でも、とても嬉しそうだった。

「また帰ってきてな」

手を振りながら父が締めの言葉を発する。すぐに「はいOK〜」と母の声。

今日も田中家は平和である。

帰省する日が楽しみだ。

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