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マイケル・デル「デルの革命」読書感想文

デルとは、あの『 DLL 』。
マイケル・デルは創業者。

1999年にアメリカで出版された。
2000年に日本で出版となる。

18歳で創業してから、15年で全米No.1のパソコンメーカーとなったときに口述した本となる。

絶頂期の本ともいえる。
そうして見ると、表紙のマイケル・デルは、ドヤ顔しているかのようでもある。

だから多少は割引いて読む。
が、巻頭の “ はじめに ” では、マイケル・デルはビシィッと述べる。

この本は、自伝でもなければ、デルの社史でもない。
私が願っているのは、読者の皆さんがどのような業界で、どんな役割を担っているかにかかわらず、本書が競争を高めるためのガイドになることだ、と。

マイケル・デルは何を熱く語るのか?

ダイレクトモデルである。
DELL の成功の根幹となる。

平たくいえばメーカー直販。
それを360ページにわたって、しっかりと語り尽くす。

正直いって、そんなに難しいビジネスモデルではない。
中卒の自分だって理解できた。

ダイレクトであることとは、シンプルで、ブレなくて、集中があって、接近していてという感想が持てた。

監訳者の國領二郎だって、巻末のあとがきで「デルの人に怒られるが」と、そんなに難しいビジネスモデルではないとはっきりと書いている。

が、マイケル・デルが説くダイレクトモデルは、そう簡単には終わらない。

熱意がみなぎっている。
緻密で多面で、それでいてわかりやすい。
今になって読んでみても、多くのヒントが溢れている。

※ 筆者駐 ・・・ 読書録をキーボードするにあたりネットで確かめてみました。マイケル・デルは今も現役で、コンピューター勃興期の最後の経営者と称されているとのことでした。メディアの露出は控えめのようです。


1983年、18歳で創業

当時パソコンは高額で、すべてが小売店で売られていた。
そうした小売店は、パソコンショップではない。

自動車やオーディオといった高額商品を扱っていて、次に売れるのはパソコンだろうという見込みで置いてあるのがほとんど。

マイケル少年は、自作すればパソコンは安くなることは知っていた。
商売っ気はあるほうだった。

12歳のときには、切手の売買の仲介で収益を手にしている。
すでにダイレクトモデルの原型が見えている。

16歳のころは、新聞の新規勧誘のバイトで収益を得る。
ダイレクトモデル重要な手法である “ セグメンテーション ” を実践している。

BMWの購入もした。
経済学の先生からの宿題で所得申告を提出したが、その先生の年収を上回っていた。

高校を卒業してからはテキサス大学の医学部に進学。
が、勉強よりも商売がしたかった。

大学の寮の一室で、パソコンのアップグレードサービスからはじめる。
地元紙の3行広告でも注文はきた。

1983年。
18歳のマイケル・デルは「デル・コンピューター・コーポレーション」を設立。
資本金1000ドルの会社だ。

カスタムメイドのパソコンを製造して、ダイレクトにユーザーに売りたい、というアイデアだけ。

誰にも許可も承認も得ようとはしなかった。
ただ前進しただけである、と続いていく。

文庫本|2000年発刊|364ページ|日経BPマーケティング

監訳:國領二郎
訳:吉川明希

■ 原本 ■
1999年発刊
マイケル・デル / キャサリン・ブレッドマン

ネタバレあらすじ

小さなパソコンメーカーは躍進していく

最初の40ページを過ぎると、小さな会社の本格的な事業へと場面は移る。
両親には反対されたが、大学は中退して寮を出る。

会社はマンションに移った。
電話を注文を受けて、パソコンを製造して販売するのだ。

まだインターネットがない時代。
電話の注文は手書きでメモして、それを物干しロープで止めていた。

・・・ マイケル・デルの語りに、どんどんと引き込まれる。

まずは美談が一切ないのが、信頼を抱かせたまま読ませる。

美談がきらいってわけじゃなくて、企業家が美談の創業ストーリーを語ると早々に疑問が生じてしまう。

たとえばジェフ・ベゾスなどは、妻がキャンディーの包み紙を集めるためにアマゾンを作りましたと読んだが、こういうのって、いかにも後付けされて装飾しているようで「本当のところはどうなのだろう」と疑問を生じさせる。

とくに会社名に自身の名前をつけて、本の題名にも “ 革命 ” と銘打つくらいのマイケル・デルだから注意させていた。

が、マイケル・デルは、やりたかったから行動したとダイレクト。

それ以外に創業の理由としては、IBMよりも優れたパソコンを売りたかった、IBMと張り合いたいという少々の野心がある。

以下、ダイレクトであることについてのみ話は進んでいく。

幼少期を除いては、プライベートなエピソードも語られてない。
なにが好みとか、どんな趣味があるのか、なども一切ない。

そういえば、生年も誕生日も語られてない。

草創の2年間は移転してばかりだった

パソコンの価格構造をマイケル・デルは把握していた。
メーカーから卸売り会社へ、そこから小売店へ流通させるために多くの在庫が必要になる。

それが価格を高くさせている。
メーカー直販だったら、在庫がない分安くなる。
実際に安いから売れた。

会社は成長にあわせて、1人、また1人と雇っていく。
幸いなことに、才能豊かな多くの人が職を探していた。

地元を離れたがらないテキサス大学の卒業生にも注目して入社させた。

マンションからオフィスビルに移る。
が、1ヶ月にはもっと広いオフィスに移る。
5ヶ月も経つとそこも手狭になり、もっと広いところに移る。

そこも半年で移ることになる。
電話回線の数もそうだし、設備や人でいっぱいになってしまう。

思い切ってグランドほどにも感じるオフィスに移った。
そのときは、そこを2年も経たないうちに埋め尽くしてしまうなど想像もできなかった。

製造ラインが間に合わないと、エンジニアが手伝う。
販売担当も、出荷するパソコンをパッケージしながら、さらに電話を受ける。

それでも電話が殺到すると、全員で対応した。
DELL の企業文化の多くは、こうした草創期に生まれた。

・・・ 以外だったのは、この時期の、この勃興期のIT企業家にありがちの、ヒッピーやらギーク(オタク)といったテイストを匂わせないところ。

質実剛健なマイケル・デルという印象を持たせるのは、全編にわたって、アメリカンなユーモアが1言もないからもある。

ユーモアがポンポンと出てくる企業家の本って、たしかに軽快で洗練されているユーモアではあるけど「そういうのいいから」と余計さに疲れてしまう。

小説であったならユーモアがたくさんあったほうがいい。
答えがない物語を読んでいるのだから。

ただビジネス書については、目的も明確にあって、ある程度の答えも求めているのだから、そこにユーモアが混ざると疲れるとなってしまう。

マイケル・デルに限ってはユーモアもさほどなく、余計なことなくダイレクトに口述は続いていく。

表紙がドヤ顔というのは訂正したい。
すでに信頼がある語りと感じている。

1987年、すでに業界の競争は激しくなっていた

先行メーカーは20社で DELL は21社目だった。
そのうちの17社は、1999年の時点でなくなっている。

顧客については、マイケル・デルは早い時期に気がつく。
安さも、テクノロジーも、さほど求められてない。

顧客から求められているのは、業界からしてみれば些細だとされていることだった。

たとえば、電源コードが箱から取り出しづらいとか。
セッティングに時間がかかるとか。
こういう細かな顧客体験を改善していく。

それとメーカー直販は、小売店に比べると、潜在的な不安を持たれている。

DELLは、業界ではじめて30日間返金保証をする。
出張修理もはじめた。

・・・『顧客体験』や『顧客利益』の2点は、一貫して繰り返し説かれる。

とはいっても、それらはこの本に限らず、ちょいちょいと目にしたり耳にしたりもする語句である。

そういうところでいえば “ メーカー直販 ” もそうだ。
“ 流通マージンカット ” とか “ 価格破壊 ” という語句がセットのようにして、今ではすっかりと使い古いされている。

が、マイケル・デルが語る内容とはちょっとちがう。
古さも安直さも感じられない。

なんといえばいいのか?

簡単には説明しづらい。
少なくとも「お客さまは神様です!」とか「お客さまに感謝!」というノリは一切ない。

想いではなくて、実際的というのか合理的というか効率的というのか。

だからといってマイケル・デルからは、勢いがある企業家にありがちなサイコパスさも感じられない。

ちなみに。
この本の最初には2ページの謝辞がある。
そこに書かれていた妻への感謝の言葉には、すでにホロッとさせてもいる。

とにもかくにも、おそらく誠実だろうマイケル・デルは、さらにダイレクトモデルを語る。

1988年、23歳で株式公開してCEOに

会社は急成長はしていたが、あとになってどう管理すればよかったのか、あれこれ語るのは簡単である。

どのくらい急成長なのか、日常ベースではまず気がつきはしない。
実際にはスローモーションに見えていた。

資金繰りも厳しかった。
ゴミ箱を購入する余裕もなくて、空いているダンボール箱を使っていた。

誰も大きな会社を経営したことがないし、誰も急成長のビジネスなど経験してないのだ。

アメリカの新興企業の半数は、同じような急成長がおきると消えてしまう。

解決策として、リー・ウォーカーを社長として雇う。
ベンチャーキャピタルを経営しており、数社の幹部も兼任しているプロ経営者だ。

会社にきたリーは、まずテキサス商業銀行に電話した。
18時間も経たないうちに、相当額の与信枠が設定された。

証券会社からは、株式公開の打診もされていた。
これに対して、リーは役員を人選して取締役会を組織。
株式公開を実行して、市場からは3000万ドルが調達された。

次にはトム・メレディスを招聘してCFO(最高財務責任者)として就任してもらったりもする。

「成長・成長・成長」から「流動性・収益性・成長」へと転換ができた。

以降は、CEO(最高経営責任者)としてダイレクトモデルを実践していく。

賢く立ち回った部分はあるが、ツイていたのも事実だった。
この過程で、創業者が追い出された例はいくらでもある。

・・・ 協力者や投資家の出現と、ダイナミックな資本の動きは、アメリカの企業家の本ならでは。

が、全編に渡って資本政策は、3ページも書かれてない。
株式公開の場面も6ページほど。
物足りないくらい。

マイケル・デルの創業者利益なども語られてない。
戦略の根幹のダイレクトモデルだけを語っていく。

1993年、28歳、急成長を遂げる中で

新興企業として、製品開発やテクノロジーは重視して積極的に手を出した。

失敗は繰り返した。
メモリーの在庫を抱えすぎたり。
新製品の投入もうまくいかなかったり。
それらが重なって1993年には初の赤字にも陥る。

これら失敗から立ち直る大切な手段は、コミュニケーションだった。

相手が顧客でも株主でも社長であっても「問題はこうこうで、原因はこうです。こうすれば解決できます」というメッセージをダイレクトに伝えるのだ。

驚かれはしたが、信頼を失うことはなかった。

CEOとなってからも、顧客には40%の時間を費やしていた。
いちばんの顧客は、市場を調べて教えてくれる顧客だ。
わざわざ、こちらが調査しなくても済む。

ライバルは注視していなかった。
その度にライバルが何かしら発するのは耳にはするけど、事実は顧客が教えてくれる。

・・・ パソコンを販売する顧客というよりも、DELLの社外情報係として取り込んでいる様はある。

そのほかには、失敗から学ぶというのは、くどいほど多く語られる。

焦点を絞るのもダイレクトモデルの重要な部分だ。
小売チャンネルへの製品投入もやめて直販のみにする。

25年前の本でも色あせてなく読めるのは、言ったもの勝ち状態のようにして、流行のカタカナ語を連発されないのがひとつにある。

聞き慣れない語句は、ひとつひとつ説明しながら使用する。
専門用語を出すときは「ちょっとわかりづらいかもしれないが」などと、できるだけ出してないのが伝わってくる。

最初は監訳者の國領二郎の訳しかたがいいと思っていた。
するとちがう。

巻末に國領二郎の解説があるのだけど、そっちは15ページほどなのに一気に読むのが飽きてくる。

やはり元となるマイケル・デルの話し方がいいのだ。

そんなこんなで第7章が終わると、ちょうど半分となる。

※ 筆者註 ・・・ 國領二郎氏の監訳が素晴らしいのは間違いありません。飽きてきたというのは、本編を読み終えて力が抜けたからかもしれないのです。

社員にもダイレクト

第8章の『強力なパートナーシップを構築する』では、社員について、採用、コミュニケーション、評価、と多くページが割かれる。

いちばん怖いのは、ライバルではなく社員だと語られる。
怖いといっても、ネガティブな意味ではない。

自身のダイレクトモデルを理解してもらおうとする熱意があるし、施策も多く紹介されているし、それが楽しいようでもある。

呻ってしまうのは、顧客だけでなく、社員に対してもダイレクトなこと。
直販するだけがダイレクトモデルだと思っていたがちがう。

マイケル・デル本人も自覚しているけど、なんでもダイレクトにしたい癖があるのだ。

ひとつ例を挙げれば、オフィスにいても情報はこないと、社内を歩きまわり立ち話をして、ポロッと無意識に発された話こそが参考になると語ってもいる。

第9章は『社員にオーナー意識を持たせる』とある。

これは注意させる章題だ。
ブラック企業の香ばしさがある。

誰とは言わないが「経営者目線を持て」と社員に話して、1人で悦に入る経営者だっていた。

でもこれは無理な話。
両者の思惑は相反する。

経営者は安い給料でよく働いてほしいが、社員は高い給料でいい条件で働きたい。

しかしそこは悲しいところで上位者の力学が働く。
社員も「はい」とは答えるけど、悦に入る経営者の意図を見抜いている。

しかしマイケル・デルは、悦にも入るというレベルではない。

簡単に、多少は強引にいえば、ここにもダイレクトが持ち込まれている。

会社は株主の利益のために営利活動する。
だったら、株主と社員をダイレクトにすればいいという考えというのか。

ほとんどの社員には、株式を報酬の1部として与えているので DELL のオーナーでもある。

株式の所有は、理念とか制度としてではなくて、オーナーとしての意識をもってほしいから。

事業ごとのROIC(投下資本利益率)を指標として、現場で収益を判断できるようにしているとページも割かれて語られているが、読んでみた感じでは無理筋はない。

セグメンテーションという手法

ダイレクトを保つためには “ セグメンテーション ” が必要とマイケル・デルは熱心に説く。

セグメンテーションとは分割すること。
大きなものや複雑なものは分割して攻略する。

まずは顧客に対して。
個人、個人事業、小規模事業者、中小企業、グローバル企業など、セグメンテーションと攻略を繰り返していく。

販売に対しても、アメリカ、ヨーロッパ、アジアとセグメンテーションと攻略を繰り返していく。

事業についてもセグメンテーションしていく。
垂直統合という高さを持たすのではなくて、フラットにすることでダイレクトを保つ。

組織についてもセグメンテーションしていく。
いわゆる “ 上意下達 ” にしない。

だから DELL では、職務が分割して範囲が減ることは昇進にあたる。

だんだんと、ダイレクトモデルを成す手法がイメージできてくる読書となっている。

1996年からインターネット直販に

インターネットによる商取引は、いずれ活発になるとは言われていた。
が、当時はTシャツの注文くらいしか取引がなかった。

そんななか、1994年に、www.dell.com のドメインを取得。
2年後からは、デスクトップとノートパソコンの販売を開始する。

驚くことがおこった。
宣伝はしてなかったが、予想以上の売上が出たのだ。
アマゾンよりも売り上げて利益も出した。

次には、サーバもインターネット直販にする。
当時のサーバは、法外に高い価格で売られていた。
収益の低い事業を支えるために、コストが転嫁されていたのだった。

そこに気がついて、サーバ事業に本格進出。
3年余りで約20%のシェアを占めた。

インターネット直販の地位を得たのだった。

・・・ DELL は全編を通して、新しいテクノロジーやデバイスには1番乗りは目指してない。

研究開発も、顧客の要望に沿ったものだけ。
ただインターネットの活用に関しては1番乗りが多い。

これは先見の明などではなくて、ただ単にマイケル・デルのダイレクト癖にインターネットが合致したのだなと、このあたりまで読むと、特に不思議さは感じなくなってきている。

サプライヤーにダイレクト

第Ⅱ部では、取引業者のサプライヤーについて多く割かれる。
全体の3分の1弱のページとなる。

当然のようにして、サプライヤーにもダイレクトな関係を構築していく。

が、サプライヤーには時間を要したのがわかる。
創業に戻って、一から語られる。

顧客の要望はダイレクトに把握しているし、社員にはダイレクトな考えは浸透させやすいが、サプライヤーにはそうはいかない。

いくらダイレクトだといっても「それでやってくれ」とはいかないし、丸投げするわけにもいかない。
やったとしても継続しない。

もしかしたら DELL の成長には、サプライヤーにしわ寄せがいっているのかなと、それまで読みながら推察していたけど、それは下衆の勘繰りだった。

マイケル・デルは、決してサプライヤーを “ 下請け ” 扱いしてないし、一方的な取引でもない。

さまざまな努力を語っている。
供給本位の需要でなくて需要本位の供給とか。
在庫と情報を交換するとか。
ざっくりだけど。

とにかくも、なんやかんや時間をかけて、サプライヤーとはダイレクトを飛び越えて “ 仮想統合 ” という域にまでいきつく。

今さらながら、そもそも「ダイレクトとはなんなのか」いう感想だ。

監訳者の國領二郎のあとがきにもあるけど、学者の間では DELL の主業はメーカーなのか、販売会社なのか、物流会社なのかと意見が分かれるともある。

おわりに、最後の8行ほど

DELL が1999年にパソコンメーカーの全米首位となったのもうなずけた。

顧客、社員、取引先とダイレクトになっていく様子もよくわかった。

この本でも、マイケル・デルは、読者にもダイレクトに迫ってくる。
最後まで読者にダイレクトに伝えようとしている。

ラストの8行は以下である。

もちろん、永遠に正しいやり方など存在しない。
だが、私たちの成功の本当のカギは、会社の内部にある。

自分の長所を知り(略)失敗から学び(略)そして不要なステップを省略したがる根っからの傾向・・・、それが成功をもたらしている。

これが、私たちの戦略の真のルーツである。
そしてその戦略は、私たち(そして読者が)自分の業界に革命を起こすうえで、これからも長期的に役立ってくれるはずである。

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