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土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて/藤井 一至

人間はモノを自分ではつくれない。もともとあるモノを加工することはできても、モノそのものをつくることはできない。

それでも植物などなら、彼らが彼ら自身をつくる過程に入りこむことで、その「つくる」作業を人間の都合のよい方向に仕向けることならなんとかできたりもする。植物が再生可能なモノとして分類される所以である。

でも、土はダメだ。土がつくられる過程に人間が入りこむことはほぼ不可能に近い。それは化石燃料と同じで再生にはあまりに長い年月が必要なものだ。

その土が実は急激に劣化に向かっているという。こんな内容を伝える記事もある。

国連食糧農業機関(FAO)によると、食料生産に欠かせない地球上にある土壌の33%以上がすでに劣化しており、2050年までに90%以上の土壌が劣化する可能性が訴えられている。

土について、もっと知りたいと思い、藤井一至さんの『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』を読んだ。

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とにかく面白くてほぼ1日で読んだ。

土とは何か?

そもそも、土とはなんだろうか?
そうあらためて問われると、どう答えてよいかわからなかった。

しかも、土は地球にしかないという。
月にも、火星にも土はない。地球の陸地であっても、土のないところはあるそうだ。

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著者の藤井さんはこう書いている。

専門家の集う学会の定義する「土壌」とは、岩の分解したものと死んだ動植物が混ざったものを指す。

これで月や火星に土がない理由は明らかだ。岩や砂はあっても土はない。地球の陸地で土がないところも、同じ理由で動植物が存在しなかった場所なのだろう。動植物の混ざらないものはレゴリスと呼ばれ、土とは区別されるそうだ。

粘土とは何か?

月には粘土がないという。

月の砂の材料は、地球の岩石とほぼ同じ成分を含んでいるらしいが、月には生き物も存在しなければ、大気も水もない。

地球の岩石は、水と酸素、生き物の働きで分解=風化して、たとえば青色の鉄を含む岩が水に溶けだし酸化すると、赤や黄色の鉄さびができて、粘土の一瞬が生まれるのだけれど、月ではこの過程が生じない。粘土はちょっかい2マイクロメートル以下の微粒子だと定義されるが、アームストロング船長が降り立った月面を「とても、とても粒子が細かい」と驚いた月の粒子の直径は100マイクロメートルもある。

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生き物も、水も、酸素も存在しない月面では、岩の風化を促すのは太陽光の熱によって膨張と収縮の繰り返しくらいだから、粘土まで細かい粒子はつくられないそうだ。

腐植とは何か?

一方、火星には粘土がある。

赤色をしたヘマタイトと呼ばれるものだそうだ。赤色のヘマタイトは酸化鉄化合物の色である。赤レンガの材料にもなれば、赤色顔料としても使われるものだという。

火星は、現在凍ってしまってはいるものの、かつて存在した水や酸素の働きで粘土がつくられたそうだ。

しかし、そんな火星にもないのが腐植だという。

文字通り「腐った植物」に由来する。落ち葉や枯葉や根などの植物遺体に加えて、動物や微生物の遺体やフンも材料となるそうだ。

新鮮な生物遺体が原形をとどめないほど細かく分解され、腐葉土となる。腐葉土はさらに変質して腐植となり、一部は粘土と結合する。古いものでは数万年前、氷河期のマンモスや縄文時代の炭に由来する炭素原子まで土の中に残っている。

古いもので数万年前とあるが、新しくても数千年単位だというから、再生可能な物質には分類できないことがわかるだろう。

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しかも、この腐植は「高度に発展した現代の科学技術を結集してもなお、複雑すぎて化学構造も部分的にしか分かっていない驚異の物質である」のだという。「土の機能を工場で再現できない理由もここにある」のであり、この「腐植をつくるレシピ」は土の中にいる無数の微生物しか知らないのだ。

この食糧危機が叫ばれる時代において、土壌の劣化が深刻な問題となるなか、あらためて生物多様性の重要性がわかるというものだし、土壌の劣化を食い止める策をいますぐにでもとらないといけない理由もわかるというものだ。

世界には12種類の土しかない

ということで、月にない粘土と、火星にない腐植のどちらもある地球にだけ土壌がある。

その地球にある土壌は大きく分けて12種類しかない。生物の多様性に比べると、あまりにも少ない。

そして、その12種類の土は大まかに、こんな風に分布している。薄い水色の部分は土がない場所だ。

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この本のサブタイトルには「100億人を哺う土壌を求めて」とあり食料となる動植物の育ちやすい土壌環境かどうかという視点でこの12種類の土を比較したりもされるのだが、とうぜん、食糧生産という観点で「肥沃な土」かどうかの違いがある。

上の世界地図に名前のあるなかでも「永久凍土」や「砂漠土」などが肥沃でないのは、素人でも想像がつく。

ロシアなカナダの広い範囲を覆った永久凍土では文字通り土壌がかたく凍ったままなので植物が深く根をはることができず、浅い根でもなんとかやっていける植物がすこし生える程度になる。

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砂漠土は毎月の降水量より、蒸発や植物の蒸散による水の量の多い地域にある。植物が育つうえで問題あるなのは水の不足だけでなく、水の蒸発が早いために地下水が塩分を多く溶かし込んだ状態になってしまっているからでもあるという。

肥沃な土でつくられた小麦が……

反対に肥沃な土といわれるのは、ウクライナからハンガリー、アメリカ大陸中部、そして中国の東北部にみられるチェルノーゼムと呼ばれる黒い土だ。

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小麦の多くはこの地帯でつくられる。この小麦を工業資本主義的な農業によって世界中に輸出しローカルな食文化や農業を破壊した話がひとつ前に紹介した平賀緑さんの『食べものから学ぶ世界史 人も自然も壊さない経済とは?』では語られる。

そして、元はどんなに肥沃なチェルノーゼムだろうと、単一の植物を大量の農薬を使い育てて続ければ土壌は劣化する。微生物しかレシピを知らない肥沃な土を人間は自分ではつくることはできないのに、世界のごく一部にしかない肥沃な土を一部の人の金儲けのために劣化させてしまっているわけだ。土壌の重要性をあらためて知り、考える必要があると思った。

さて、日本には、どんな土があるのだろう?

火山地帯である日本には、黒ぼく土と若手土壌だそうだ。さて、これらの土が肥沃かどうか、食糧生産という点でどうか?ということについては、ぜひこの本を読んでみてほしい。


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