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【佐渡市地域おこし協力隊インタビューvol.1】 達者担当 山本拓実

『地域おこし協力隊』
その名の通り、地域おこしを考える団体に "協力する" 人を指すが、全国的に見てもその存在は勘違いされがちである。

2012年から開始された佐渡市での採用人数は合計約50名。そのうち20名ほどは任期を終えそのまま定住しているが、これは全国的に見ても高い定住率だそうだ。2023年2月現在、佐渡市では16名の協力隊員が在籍している。

「どんな人がいるの?」「何をしているの?」
このインタビューは、私から見た "地域おこし協力隊という職業を選んだ仲間" をただ知っていただきたいという自己満足の備忘録である。

私から見た、山本拓実というヒト

「5分前に起きました。」と寝ぼけまなこで話す彼は、佐渡市地域おこし協力隊 達者 (たっしゃ) 集落担当の山本拓実 (やまもと たくみ) 隊員である。(以下、山本くん)

山本くんは現在21歳。19歳で佐渡に地域おこし協力隊として移住し、縁もゆかりもない地である佐渡の成人式にひとりで参加した猛者だ。当時最年長の隊員であった鷲崎集落担当の山田隊員からは孫のように、現隊員からは掴みどころがなく、自由奔放な弟的な存在として可愛がられている。

山本くんを一言で表すなら「愛され上手」だ。
ある日の夜、夕食を食べ終えた私の元に「たくみが今日20歳の誕生日らしい」と放課後等活動支援担当の五百川隊員から連絡が来たのは私にとって思い出深いエピソードのひとつである。

山本くんはその日、新穂潟上集落の小森隊員を訪ね、意図してか定かではないがポツリとその日が誕生日であることを呟いたそうだ。
20歳の誕生日なのにひとりにさせるのも…と、優しい小森隊員は五百川隊員を誘い、そして五百川隊員は私を誘い… そうして急遽開かれた誕生日会の様子がこれである。

「達者ではどうだ」「ひとりで大丈夫か」「ごはんは食べているか」彼の周りの人間はなぜか全員親のようになってしまうので、ある意味 "心配され上手" でもある。

ちなみに私にも、そして全隊員にも思い出深いエピソードとしては『新潟ハムスター事件』というものがある。かいつまんで話すと、船の時間まで余裕があった山本くんが、ハムスターを飼いたいと思い立ちペットショップに向かった結果船に乗り遅れ、ペットショップ⇔佐渡汽船間に乗車していたタクシー運転手の自宅に1泊した事件だ。
この事件について山本くんは「船に乗り遅れた話は恥ずかしいからやめて欲しい」と話すが、誰がどう聞いてもポイントはそこではないと思う。

数か月後、山本家で行方不明となってしまった



「意外と困っていなかった」
達者集落での活動について

棚村:山本くんと最初に話したのっていつだろう?
山本:
棚村さんと最初にしっかり話したのは 岩首集落担当の村山さん の手伝いで、五百川さんと、その時岩首に来ていた旅人2人で皆で田植えした時でしたっけ? 懐かしいな~。
棚村:すごく貫禄のある19歳だなって思った(笑)
山本:僕は農業高校で基礎的な農作業は学んでいたし、『農業で島暮らしができるところ』を探して佐渡に来たので農作業は得意分野。実は協力隊の勤務地として淡路島も候補にあったけど書類審査で落ちちゃって。地域おこし協力隊で落ちることなんてあるんですね (笑)

貫禄たっぷりの山本くん (左) と村山隊員 (右)

棚村:そもそもなぜ協力隊に?
山本:
テレビで地域おこし協力隊のことを知ったのがきっかけです。こんな働き方もあるんだと衝撃を受けて、高校を卒業してそのまま企業で働くのもいいけど、個人事業主という働き方も知りたかった。好奇心旺盛なんですよね。佐渡は一度も訪れたことが無い場所だったけど、チェーンの飲食店もあったり、街並みや自然も良かったし、人も優しいし、住みやすそうな場所というのが第一印象でした。

ワカメ採りを手伝っている様子

棚村:山本くんの任務は稲作が中心でしたよね?
山本:厳密に言えば "達者集落” としての受け入れなんですけど、地域に聞いても困っていることはあんまり無いと言われ、達者農産 (達者の農事組合法人) の稲作の手伝いくらいしか仕事がなかったので、"稲作中心になってしまっていた" って感じですかね(笑)
働き方のペースが掴み始めてからしばらくすると、佐渡市に僕個人に来た依頼も協力隊の仕事として認めていただいたので、姫津漁港での運搬作業や、椎茸の駒打ちなどもしていました。

棚村:「意外と困ってない」って全国の協力隊あるあるだよね。活動の中で大変だったことはありますか?
山本:達者は小さな集落なので、『地域の人=仕事に関係する人』になることが僕にとっての悩みだったかも。近所付き合いは苦ではないのですが、"仕事場であり住む場所でもある地域" の悩みを集落の人に話すとすぐに広まっちゃう距離の近さというか…
仕事と仕事の間の昼休みに、ご飯を食べる時間を削って海に入っていたら「遊んでいる」と言われたり(笑) 

棚村:海が目の前なのに好きな時に入れないのは辛いね(笑)  逆に、今までで特に楽しかった活動はなんですか?
山本:自分が人生で初めて主催した『マリンピック』ですね! 市役所や集落と打ち合わせを重ねたり、他の隊員のイベントを参考にしたり、苦労しながら企画しました。ただ、マリンピック自体は成功で終わったんですけど、これをきっかけに "イベントに参加する方が好き" だと気付いたのでもうイベント開催はこりごりです。


「佐渡の冬に勝てんかった」

実は今年の2月をもって協力隊を辞める山本くん。
地域にも恵まれ、人間関係にも大きな悩みはないと話すが、なぜ佐渡を離れるのだろうか。

山本:佐渡に移住した1年目から悩まされたことなんですが、やっぱり岐阜から来た僕には佐渡の冬がキツかったです。任期を満了して本格的に住むことを考えた時、毎年この気分の落ち込む冬を迎えなきゃいけないってことが精神的に耐えられないと感じてしまって。これが協力隊を辞める一番の理由です。

達者の地域の皆さんからは色々なことを教えてもらいました。僕にとってここは "さらに農業を学べた場所" です。

稲作で生計を立てることが大変なことだと改めて感じました。ブランド化することや、それらを知ってもらう活動をしないと食べていくことはできないんだろうなと。

達者地域の募集要項には『お達者米』というお米のブランドのPRという項目があるんです。そこで、まずはふるさと納税に登録しようと勉強したのですが、地域の方々とも話した結果、人口不足で生産作業の現状維持が限界という、PR以前の問題でした。

これは農業に限らず、小学校からCS (コミュニティ・スクール) ディレクターをやって欲しいと言われたり、イベントで着ぐるみの中に入って欲しい、牡蠣を剝いて欲しい、柿を採って欲しい…など、とにかく地方って人が足りてないんだと思います。仕事は見つけようと思えばめちゃくちゃあると思います。ただ、手を出しすぎると色々とがんじがらめになってしまうかも、というのは僕からの注意事項です。

達者集落の人とは仕事の話ばかりで、今振り返ればもっと心を開いて色々と相談すべきだったと話す山本くんだが、取材中にも近所の方が家を訪れるなど、地域からも気にかけてもらっている様子を感じられた。

「飼ってる鶏はどうするんだ」と聞く、
椎茸名人の梶井秀一さん

山本:冬季は稲作の仕事が無いので、地域の方に手伝える仕事が無いか聞いて回りました。椎茸づくりで沢山の賞を受賞されている梶井さんはよく気にかけてくれて、仕事としても椎茸の駒打ちも教わりました。鶏を飼ったり、モリで魚をとったり。本当に佐渡では色々なことを体験したなあ。

棚村:入隊前と今を比べると気持ちの中でどんな変化がありましたか?
山本:元々個人事業主という働き方に興味があったんですけど、個人事業主って思っていた以上にONとOFFの切り替えが難しくて。この2年間で自分には会社員が合っているかもと気づくことができて良かったです。

棚村:佐渡を離れた後のことはもう何か決まっていますか?
山本:岐阜に戻って、就職しようと思っています。以前岐阜に住んでいた時は自宅と高校との往復のみで地域のことを知ろうとしていなかったので、佐渡で学んだことを岐阜に戻って還元したいです。地域を良くしていきたいと思っている人と会いたいです。佐渡では出来なかった狩猟も開始したいです!

家の軒下には梶井さんと共に駒打ちした
椎茸が育っていた


達者の夕日は最高!
思い出の場所を巡るツアーへ

達者の思い出の場所に連れて行ってあげますよ!と、急遽達者ツアーが開催された。残念ながらこの日は曇り空だったが、達者の自慢のひとつは夕日がとても綺麗に見えることだと言う。

棚村:・・・山本くん、ここは?
山本:達者に来た時に住んだ1軒目の家の裏なんですけど、ちょっと高台っぽくなってて海が見えて最高なんです!
棚村:・・・達者に親戚が?
山本:あ、この山本さんは全然知らない山本さんです。
棚村:めちゃくちゃ面白いじゃん。
山本:ここの山本さんの家って、神棚とかお面とか人形とかたくさんあるんです。最初はそれが怖くて、「おはようございます、今日もよろしくお願いします」って声に出して挨拶してました。何かされませんようにって。最終的にはすごく住み心地が良くなって、今の家よりも愛着がありますね。
棚村:めちゃくちゃ面白いじゃん。

山本:そしてここは夕日が綺麗に見えるスポットです!稲作で疲れた時や、ぼーっとしたい時にここに来ると元気になります。観光の方にもぜひここから夕日を見て頂きたいです!
棚村:佐渡ポーズ反対だよ。

山本くんが育てた蕎麦畑から見える夕日


協力隊で、シェアハウス

達者ツアーを終え、達者に2022年にOPENした『海小屋』でShow by JAWSオーナー岡部 健太郎さんと3人で昼食を取った。

山本:岡部さんは移住1年目の辛い冬の時期に現れた僕の救世主です!(笑) 
達者出身だし、若い人だし、近所だし。岡部さんもSUPをはじめ、色々なことに挑戦する人だったので楽しかったです。信頼できる人なので、もし今後達者に移住したいという人は岡部さんに相談をおすすめします。集落に住むにあたっての注意事項が聞けるかも(笑)

棚村:地域おこし協力隊の働き方などでこうだったらいいなと思うことはありますか?
山本:僕が悩んだ地域との距離が近すぎるという点で言うと、着任から最初の半年くらいは集落との距離感を図ったり、佐渡での新生活や仕事の悩みを共有するための『協力隊のシェアハウス』があったら良いかも。太平洋側からの移住で冬時期に移住なんかしたら僕以上に気分が落ち込むだろうし。地域に根付くためのお試し期間欲しいですね。

棚村:最後に、達者で一番好きなスポットを教えてください。
山本:家の、この部屋です。プロジェクターを買って、壁に白い紙を貼って映画を映せるようにしました。これは岐阜に持って帰って家族にも見せてあげたいです。お兄ちゃん喜ぶだろうなあ。




これからも佐渡に遊びにきたいと話す山本くん。新天地でも変わらず周りから愛されることでしょう。2年間お疲れ様でした!

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