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対立と対話

私が政治に関心を持ったのは、2015年の安保国会の頃です。大学2年生の時でした。

それまでの憲法解釈では行使できないとされていた集団的自衛権を限定的に行使できるようにした転換点で、国会前では連日のようにデモが行われていました。

それまでもニュースは見ていたし、世の中で起こっている出来事、社会問題に関心はありました。

ただ、政治、というより永田町で行われている権力争いは、分からないことだらけで、漠然と知りたいとは思っていました。あと「政治家」に対してあまりいい印象がなかったのも事実です。

そんな時、連日のように国会で激しい論争を仕掛ける野党と、それに答える時の大臣たちの答弁をテレビで見ていると「これは何やら歴史の大転換に立ち会っているのかもしれない」とゾクゾクし「もっと勉強したい」という気持ちが沸いてきたのです。当時の首相は今は亡き安倍晋三氏でした。

そこから新聞を毎日読み、一紙だけでなく朝日・読売・産経・日経を読み比べました。田原さんが大学で主宰していた塾に入ったのもこの時期です。

読み比べると分かるのが、新聞によって論調がまったく異なる点です。

朝日新聞は集団的自衛権の行使に反対で、安倍内閣に対する大批判を展開します。

ところが読売新聞はどちらかというと肯定的で、産経新聞にいたっては大賛成であり、法案に反対する野党への批判を紙面上で繰り広げていました。

当時何も知らなかった私にとっては、新聞によって意見がちがうところに新鮮な面白さを感じました。ある出来事に対する物の見方は決して一つではないのです。

そして賛成か反対の二択でも割り切れない、中間地点が存在することも知ります。

ある国会議員の方のブログでは、党としては反対の立場:野党にいるけど、与党が進めようとしている法案の方向性は評価し、だけど、法案に不備な点と拙速さを感じて「廃案」ではなく「見直し」を主張していました。

与党の中にも、法案に個人としては反対の人がいることも知ります。

とはいえ政党も組織であり、党としての方針にしたがって行動しないといけません。その個と組織の葛藤も、遠目に見て大変そうだなと感じた記憶があります。まだ社会を知らない学生でした。

そんなこんなで気が付けば政治のことにも詳しくなり、安全保障に対する興味関心も深まりました。

ただ、当時の意見の対立を見ていると、「戦争法案」といった反対側のレッテル貼りに思うところもあれば、賛成派の反対派に対する「平和ボケ」のようなバカにする態度にも、思うところがありました。

デモをやっている学生に対しても、ネットを中心に大バッシングが起きていたのもどうなんだろうと思いました。意見を主張するのは別にいいじゃないかと。

彼ら彼女らの意見に対する反対というより、存在自体を否定するような言説をネットで目にして、嫌な気持ちにもなったのです。

そして何よりも、これだけ騒ぎ立てられても関心の落差が存在することも衝撃でした。

国会のデモを見に行くと「国がひっくり返るんじゃないか」と思うくらい盛り上がっていたのに、そのあと丸の内のアルバイト先の居酒屋に行くと、仕事の帰りのサラリーマンたちが陽気に呑んで談笑して、平和な日常が流れていました。

いくらマスメディアが騒いでも、大半の国民は関心がないか、もしくは日々の「日常」に追われ政治のことまで気持ちが向かないのではないかと感じました。

大学でもそうで、周りの同級生で関心がある人はほぼいないように思えました。政治サークルに入っていたクラスメイトくらいだったかもしれません。

私個人としては当時から集団的自衛権には賛成ですし、憲法を変えることにも必ずしも反対ではありませんでした。法案の目的のひとつだった「南シナ海のシーレーン防衛」は、日本に資源を運ぶうえでの大事な問題ですから。

ところが、賛成と反対が激しく対立している状態、なにより関心がある層とない層の落差があまりに激しい状態に、どこかしら思うところがあったのです。

賛成と反対の二項対立だけではない、対立を超えた対話を実現できないか。そしてもっと政治について若い人に関心を持ってもらえないか。

そんな問題意識を持ったまま、2016年になって、18歳選挙権が導入されます。18歳選挙権ですから、大学1年生や高校3年生も選挙権を持つことになるのです。

安保国会の頃、メディアは「若い人が立ち上がった」ともてはやしていましたが、実際には立ち上がったのは若い人のほんの一部であり、むしろ大半の若い人はむしろ政治から離れたんじゃないかと思います。

先輩たちからは「デモに参加したり政治に意見をいうと就活に不利になる」という言説まで聞き、何も言わない風潮さえあったような気がします。

このままだと、若い人が政治に関心が向かないまま、18選挙権が形だけ導入されてしまう。そんな危機感から、まずは自分がいる身の回りの人たちとだけでもいいから、政治の対話イベントをやりたいと思うようになったのでした。

そして2016年の6月に、若者と政治の有識者と、自民党と民進党(当時)から国会議員をそれぞれお招きし、大学の教室を借りてイベントを開催しました。

そこで、またおもしろい発見があったのです。

(つづく)

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