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UIデザイナーはいかにしてシステムへの理解を深めるか

UIデザインとは、人とシステムを繋げる行為だと思っている。繋げるためには、人とシステムの間に立たなければならない。

当たり前の話ではあるが、人は人の理屈で動いている一方で、システムはシステムの理屈で動いている。よって、システムの理屈をそのまま押し付けられても、専門知識のない一般ユーザーは理解できない。

だからこそ、UIデザインは、人とシステムの仲介者として、あるいは翻訳者として機能する。仲介者となるためには、何が必要だろうか。人の関係性で置き換えれば分かりやすい。日本人とアメリカ人の間に立ち、どうすれば円滑にコミュニケーションできるか考える。

言葉を翻訳すること。互いの背景や文化、性質をよく理解すること。人とシステムも同じことだ。ユーザーと、システム、両方について知らなければならない。だから、UIデザインを軸に見れば、UXデザインとエンジニアリングに境目はない。シームレスにつながっている。

よく、UXデザインはUIデザインを内包したもので、上位概念のように語られることがある。しかし、UIデザインは「人とシステムを繋げる行為」なのだから、ユーザーのインサイトを特定したり、体験を可視化したり、日常生活とのタッチポイントの設計も、UIデザインの一部である。よって、UIもUXも、お互いに包含関係にはなく、単純にどの視点で物事を見るかにすぎない。

人とシステムを知る、という観点で、最近のIT業界を見渡してみると「人を知る」のは促進されつつあると思える。UXデザインという用語と共に、ユーザーのインサイトを特定したり、体験を可視化してボトルネックを明らかにする手法がフレームワークとして広まったことで、デザイナーも人について学びやすくなった。

しかし、両翼の一端であるところの「システムを知る」のは、いまだに多くのデザイナーにとってブラックボックスでしかない。冷静に考えれば、人とシステムを繋げようとしているのに、片方を知らずにどうやって実現するのだろうか。それにも関わらず、多くの現場では、少なくとも表面的には仕事が回っている。それは多くの場合、エンジニアが、デザイナーの「特定の時間で、システムの出力状態を切り取ったスケッチ」を解釈する、リバースエンジニアリングによって実現している。そのスケッチは、FigmaやSketchでわたしたちが普段作っているものであり、多くのデザイナーがその青写真を「UIデザインの成果物」と認識している。ここには、まだ断絶が存在しているような気がする。

システムへの理解を、どうすれば深められるのだろうか。Webサービスを例に取ろう。普通にデザイナーとして経験を積んでいっても、HTMLやCSS、JSといったブラウザのレベルまでしか踏み込めない。しかし、それは氷山の一角でしかない。実際には、まずデータセンターに置かれた物理的なサーバーがあり、OSやミドルウェアが搭載され、ネットワークにつながり、データが加工され、ブラウザを通してユーザーはサービスを目にする。その全体感を、今の業界構造で自然に習得していくのは困難に思える。

そういえば、学生時代にユーザーインタフェース論の講義を受けていた際、第1回目はコンピュータの歴史から始まったことを覚えている。それがどうUIデザインと結びつくのか、当時は理解できていなかったが、まさしくシステムを知るための第一歩なのであった。しかし、そうした座学を持ってしても、必要な知識を得ることはできない。ノイマン型コンピュータのアーキテクチャについて、概念的な知識を身につけても、現代の開発は高度に抽象化されているため、実務とは乖離がある。また、本やインターネット上のチュートリアルを通してアプリケーションを作ってみても、現場のプロダクションコードから学べる量には程遠い。

そうした課題を持ち、わたしはバックエンドエンジニアに転職する方法を取った。結局、1年と少しでUIデザイナーに復帰したのだが、見習いレベルで1年間過ごしただけでも、UIデザインに対する見方は大きく変わった。ブラックボックスだった部分が概念的に分かるようになり、全体像が見えやすくなった。

しかし、書いておいて何だが、この方法は再現性がないように思える。いささか極端すぎたかもしれない。わたしは、たまたま趣味でごく簡単なWebサイトやゲームを作るのが好きで、当時のキャリアの延長線上にあった、ブランディングやマーケティング、マネジメントの方面に興味を持てなかった。だから、試しに思い切ってみただけ、というのが正直なところだ。わざわざ転職しなくても、何が良い方法があってほしいと思う。

例えば、OOUI等のアプローチは、システムの理解を深めるのに、良いアプローチに思えた。とはいえ、UXデザインの文脈で語られるフレームワークを覚えたからといって、ユーザーの理解が深められないのと同様に、ただOOUIに従ってビジュアルを作ったからといって、本質的な理解が得られるとは限らない。実践と、自分の頭で考えられる機会をいかに作り出せるのかが課題だろう。

あなたの幸運を全力で祈ります!