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未経験デザイナー採用の観点

結論から書くと、「思考」「行動」「想い」の3つの力のバランスで判断すると良いのでは、と今のところ考えている。

思考

ここでの思考とは、論理的・構造的な考え方や、コミュニケーション能力を指す。身も蓋もない話にはなるが、学歴の高い人や、いわゆる地頭の良い人は活躍しやすい。これはデザイナー云々というよりも、全ての職種に当てはまる話だ。

例えば、優秀な営業マンを想像すれば分かりやすい。業務経験を積む中で「ただ商品を売るだけではなく、顧客のインサイトや、本質的な課題を見抜いて提案すべきだ」と気付き、実際に行動に移し成果をあげているような人であれば、デザイナーにコンバートすることは容易であろう。

もちろん、具体的なスキルや専門知識は身に付けなければならないが、核となる部分は共通しており、それをあらかじめ備えているのは強い。

思考についての測り方としては、職種を問わない、いわゆる通常の面接で行われる質問と違いはない。分かりやすい観点でいえば、過去のキャリアや意思決定に関して、その背景を教えてもらう。なぜ?を重ねながら深掘っていき、筋の通った回答がもらえるのかを確認する。

ちなみに、わたしは学歴も高くないし、地頭も良くないのだが、優秀な人に全力で追いかけられれば、やはり簡単に追い抜かされてしまうだろう。

行動

未経験からのコンバートの場合、後述する「想い」とセットで、それを証明するためのポートフォリオが重要となる。これも職種を問わない話ではあるが、例えばゲームプログラマーになりたいと応募してきているのに、その過程で全くコードを書いていないのだとすれば、スキル以前に現行不一致を疑ってしまう。

もし、仮にあなたが未経験からデザイナーへのコンバートを画策しているのだとすれば、注意すべきはポートフォリオを目的化しないことだ。ポートフォリオは、能力、あるいはポテンシャルを証明し、入社して活躍する姿を相手に想像させる材料にしなければならない。

そのような観点で考えると、デザインスクールの課題や、模写のような習作しか載せていない場合、だいたい評価されない。一方で、どんなに拙くても、現実の課題を解いた事例が掲載されていれば、高評価を得られる。

現実の課題とは、名前のとおり、架空ではない実案件のことだ。例えば、知り合いがお店をやっていたり、何らかの士業だったり、バンドでもイベントでも何でもいい。そこで必要とされるWebサイトや販促物を請け負ってみたり、クラウドソーシングで企業から受注してみたり、自分でアプリを作ってみるのも良いだろう。なぜそれらが高評価に繋がるのかといえば、実案件の場合、最終的なアウトプットに至るまでに直面する課題があり、責任があり、プロセスがあり、それこそが企業で求められるからだ。

例えば、知り合いのお店のWebサイトを請け負ったとして、そもそもなぜ作りたいのか。お客さんにどう見られたいのか、どんな効果をもたらしたいのか、どんな想いでお店をやっているのか。そうしたヒアリングをしたり、課題を見極めたり、現実的な制約と、様々な要素が絡み合う中で、最終的なアウトプットに落とし込まなければならない。そうした経験を、自ら行動して獲得し、ポートフォリオに載せているのであれば、評価されないわけがない。

一方で、習作しか載せられていないと、FigmaやPhotoshop等、ツールがある程度使えることの証明にはなるかもしれないが、それ以上を想像させられない。そして、前述のような実案件を載せている志望者と並んだ場合、どうしても見劣りしてしまう。

想い

なぜデザインなのか。なぜデザイナーなのか。どんなに拙い表現でも、誰かの受け売りではなく、自分の言葉で話せる人は、企業から見ても魅力的に写る。面接官が同じデザイナーだったとすれば、なおさらだろう。

なぜデザイナーになりたいのかを聞かれて、リモートワークがしたいから。手に職を付けたいから。今後はITスキルが重要だと思ったから、といった表面的な理由しか言えなければ、企業はおそらく評価しないし、実際それらはデザイナーでなくとも実現可能だ。本来テクニック云々の話ではないのだが、それでも共感を得やすい方法を挙げるとすれば、過去の原体験と、そこからデザイナーを志向するに至った、現在との接続性を示すことだろう。

わたしが過去に聞いた中で魅力に感じたのは、ユーザーサポート業務をしていたが、日々顧客の課題に触れる中で、それを根本的に解決する側に回りたくなった、というものであった。そのようなエピソードを語れたとすれば、デザイナーとして未経験であっても、ユーザーサポートのキャリアはプラスに捉えられる。顧客への理解と共感や、課題の抽出・整理といったスキルは、デザイナーにも転用可能だからだ。

おわりに

ここまで偉そうに書いてみたところで、自分の学生時代を振り返ってみた。他職種からコンバートする話と、新卒の就活では状況は異なるのかもしれないが、自分を棚に上げたままではフェアではない。

率直に言って、わたしの「思考」「行動」「想い」の力は、決して優秀ではなかった。思考に関しては、後に新卒時代の上司から「結局何が言いたいの?結論から話してみて?」と注意される始末だったので、お察しの通りである。想いだって、初めの頃は何となくかっこいいものを作りたい、という気持ちしかなかった。強いて言えば、行動の面では少し頑張ったかもしれない。Webデザインの実績を作るために、通っていた個人経営の美容室に頼んだり、教授の知り合いの建築設計事務所に繋いでもらって、Webサイトを作らせてもらっていた。学生時代は工業デザイン系の学科だったので、大学の課題をこなすだけでは、Webデザインに触れる機会は得られなかった。

結局のところ、わたしも含めた普通の人は、行動で示すのが一番なのだろう。思考に関しては、地頭の良い人は、デザイナーに限らずどんな職種でもうまくやれてしまう。想いに関しては、重要なのは言うまでもないが、想いしか語れなければ、口だけと思われても仕方がない。しかし、行動だけは後の2つをカバーできてしまう。特に思考については、鶏が先か、卵が先かという側面があるだろう。初めからそれができている人は、おそらく地頭が良い人だ。しかし、業務経験を通して、帰納的に鍛えることができる。つまり、行動してそれを示すことができれば、思考は鍛えられ、想いは湧き出てくる。

あなたの幸運を全力で祈ります!