新聞に載った

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。収入は少ない。故に補助金をもらうことにした。役場へ相談しに行くと、快く引き受けてくれた。"きのこ"という品目では前例はなく、手続きは難航したみたいだが、無事に補助金を受け取ることができた。役場の方達には感謝しかないのである。

だが安心していてはいけない。補助金のもらえる期間も有限だ。いまのうちにやれることはやっておく必要がある。当初は生産組合でチームをつくるつもりだったが、そうは上手くいかない。僕はひとりで活動することに決めた。その姿を見れば親方さん達も動いてくれるかもしれないからだ。

そもそも、チームを作れなかった理由は、矢面に立つ勇気を持ち合わせている者がいなかったからだ。もちろん僕を含めてのことである。すなわち、ひとりで頑張るということは、僕が矢面に立つということ。正直、不得意である。けれども、それに負けない心を持つことが、最低条件だ。故にまずはここの克服からはじめようと思った。

まずはHPを作った。同時にBASEで農園ショップも立ち上げた。個人販売の型を作ったのである。個人ブランドと言ってもいいだろう。Twitterで宣伝もした。併せて、新聞社にプレスリリースを郵送した。

反応は翌日に起きた。取材の依頼が来たのである。しかも2件。どちらも地元の新聞社だ。大変恐縮である。時間を調整して取材のダブルヘッダー。質問されるであろう項目は予想して、事前に回答を用意しておいた。頭の中で何度も答える練習。実際に声にも出してみた。準備は万端である。

結果から言うと、取材は上手くいった。やはり記者さんはプロ。頭の回転も速い。おそらく、質問しながら紙面のレイアウトも考えているのだろう。僕も伝えたいことはすべて口にした。準備は必要なかったと思えるくらいに上手くいったのである。

ただ撮影だけは上手くいかなかった。もともと僕はぶさいくだ。写真に撮られるのも気が引ける。上手に笑うことさえできなかった。僕の場合、これが矢面に立てない理由だ。けれども克服しなくてはいけない。今後の課題が見えてきた。

数日後、僕の載った新聞が町内に配られた。想像以上に反響は多い。会う人すべてから声を掛けられる。ガソリンスタンドのおじさんからもだ。これはこっぱづかしい。だがこれに耐えるのだ。不得意を克服するということは、こういうことなんだと思う。

結局、応援してくれる声は増えたと思う。web経由の注文もいくつか入った。結果は上々であろう。そして、この取材を受けた本当の目的は、矢面に立つ訓練だ。撮影されることに課題は残ったけれども、取材されることに対しての抵抗はなくなったと思う。正直に言うと、すこし楽しかった。これなら今後も取材を受けられる。受けたいとも思えた。

取材対応のハードルが下がると、いろいろとやれることが増えてくる。この調子で農家を運営していこう。僕の戦略は止まらないのである。


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