リストラした

医療系の研究施設で働いている。ここは北海道。1年前に異動してきた。冬も経験したが想定よりも楽だった。今年は雪が少なかったらしい。それでも春夏に比べれば、いろいろと制限されていたと思う。

僕は写真をライフワークとしているが、冬の間の撮影回数はだいぶ減った。雪景色を撮りまくった期間もあったが、ボツ率が高すぎてさすがに自重した。

その反動で雪が無くなってからは、冬前以上に撮影頻度は上がったと思う。まずは札幌の円山動物園に行った。高くなったボツ率を払拭したかったのだ。動物園はいい。写真で迷ったら行くことにしている。頭を空っぽにして撮りまくるのだ。さすれば何かを掴むことができる。その日の動物園もその意味合いが強かった。

『ゆにガーデン』にも行った。植物園も動物園と同じ効果があるかもしれない。純粋な写真の楽しさを再確認できた。もちろんお気に入りの1枚も撮れた。植物系のパークも癖になりそうである。

美瑛にも足を運んだ。あいかわらず景色に負ける。札幌にある『北海道開拓の村』へも行った。やはり人工物は好きだ。フィルムの消費スピードも速い。心を持っていかれっぱなしだった。その意味では『真駒内滝野霊園』も同じだろう。レプリカと分かっていてもモアイ像は素晴らしい。ストーンヘッジの撮影は難易度が高くてボツになったが、それもよかった。

1年前に比べたら、僕の写真の腕も上がったと思う。この調子で行けば、来年はもっと上にいってることだろう。それが楽しみでしょうがない。僕は『僕の思う最高の1枚』を目指して写真をやっている。まだまだゴールは先だが、その道は順調に進んでいると思う。

そこへいくと仕事は順調ではなかった。どうやら新規事業の利益率があまりよくないらしい。その話は派遣社員である僕のところまで下りてきた。「経費削減をお願いします」。上長である坊主課長は僕にそう告げたのである。

望むところだ。と言いたいところだが、そんなことはやったことがない。完全なる手探り状態でスタートした。ダメもとで経費の内訳を求める。すると、あっさり開示してくれた。おそらく高額の固定費に近い項目から攻めることが正解だと思う。策に対するリターンが大きいからだ。

だからといって、むやみに安価な物へ変えることは出来ない。施設は研究が目的の建物だ。研究の信頼性が揺らぐような変更はNGだろう。それでも変更を加えるなら、その変更の信頼性を担保できる試験結果が必要だ。故に僕の経費削減策は試験を伴うものとなった。

地味な試験だが手は抜かない。顛末のすべてを文章で残すからだ。ほぼ論文に近い。それを量産。正直に言うと楽しかった。おかげで完璧な経費削減となった。成果は経費のおよそ30%OFF。上出来である。

だがしかし経費削減の注文は続いた。「リストラ候補の選定をお願いしたい」。上長である坊主課長は再び僕にそう告げたのである。

正直に言うと困った。社員さん達には嫌われたくないからだ。希望する削減数は2名。1人は確定している。皆から嫌われているおばさんだ。仕事も遅いし、場を乱すことも多いので仕方ないだろう。問題はもう1人である。

能力的に考えると、正社員のお姉さんが該当してしまう。準社員とパートさん達は仕事ができる人ばかりだ。そこと比べると彼女はすこし見劣りしていしまう。人間関係のポジション的には重要ではなかったが、性格にとげは無く、誰からも親しまれていた。

どうしたもんかと。考えた結果、すこしずるい方法で進めることにした。

ここの職場では基本的に1つの業務は個人に固定している。故に助け合いはあまりない。有給などで空いた穴は、オールマイティな僕と同じ派遣社員の後輩の2人で当たることにしている。ここではその方が都合がいいからだ。

それをすこし崩してみたのである。研修の意味合いで、他の担当業務にも挑戦してもらった。そこでのやる気や順応力、協調性を坊主課長に見てもらう。リストラ候補を書き留めたメモと一緒にだ。

メモにはこう書いておいた。「〇〇さんと、もう1人は誰でも同じです」。課長は笑っていた。その後は課長と相談して、結果的にパートの一番若い男の子を切ることに決めたのである。

送別会を行った。僕がリストラ候補の選定を行っていたことは誰も知らない。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。世の人事部はいつもこんな気持ちなのだろうか。すこし同情している僕がいる。退職する2人は笑顔で去っていった。

分かっていたことだが、人員が減ると忙しくなる。それも承知の上でのリストラであった。だが想定よりも忙しくなってしまった。その穴を埋めたのは、なぜか坊主課長であった。話によると、それがリストラを行う条件だったらしい。課長は課長で上と戦ってくれていたみたいだ。

さすがに課長職が現場に入ると、回るものも回らなくなる。被害を受けたのは上層部だった。すると人員の補充が行われた。顔の知っている者が入ってきたのである。辞めたはずのパートの若い男の子だった。

すべては坊主課長の作戦勝ちだった。さすがだ。結局、嫌われ者のパートのおばさんが去っただけ。仕事の負担もそんなに変わらず。むしろ以前より仕事が上手く回るようになった。

今回は上手くいったリストラ策。だが、もう二度とごめんだ。あんな心情には向き合いたくない。それにしてもオーナー会社は大丈夫なのであろうか。もしかしたら、ここ北海道に永住は出来ないかもしれない。そんな不安も生まれたのであった。


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