ミラーレスカメラを手に入れた

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。ひとりでまわしているので収穫量は少ない。けれども、就農してから1年半が過ぎた。収穫量も上がった。毎日が大変。それは僕だけではない。選別と卸をやってくれている生産組合の出荷センターも悲鳴を上げていた。

毎日が忙しいみたいだ。新規の卸先の開拓なんて取り組む時間もない。とにかく捌く。すると市場への出荷も増えた。そこへ出すと儲けは二束三文。いや、儲けは出ていない。売上は損益分離を大きく下回っていた。

忙しくて現状維持に必死になり、事態は更に悪化する。絵に描いたような負のスパイラルがそこにはあった。なにか新しいことを始めるには、何かを犠牲にして捨てなければならない。分かっていても難しい。地域おこしの本質は、何かを捨てることかもしれないと、そう知ったのである。

そう考えれば僕は恵まれていた。価格が低いとはいえ卸先を確保しつつ、新しいことを追えるのだから。個人ではじめた直売所も少なからず黒字。webからの注文もたまに入る。『乾燥きのこ』という加工品の売れ行きも順調。小規模とは言え、6次産業化も快調というわけだ。

ひとつ上手く行ってない点を上げれば、それはスケールが小さいことだろう。ひとつひとつは黒字なのだが、それは経費を抑えているおかげと言ってもいい。故に見返りも少ない。そもそも農産物をお金に変えることは効率が悪すぎる。農家が儲からない理由は、ここにもあるのだろう。

僕は農産物ではない売り物を作ることにした。写真がいいだろう。利益率は高いし、イニシャルコストも抑えられる。農家のグッズとしても相性はいい。農作物のデジタルコピー品を売れることが出来れば、本業を支えることもできる。

だが、そんなに上手くはいかないだろう。美味い話にはライバルも多い。僕の武器は農家であること。そして毎日撮り溜めた写真。これだけでは勝つことは出来ないと思われる。なにより試行錯誤が必要だ。写真のクオリティを上げるにはそれが必要である。結論から言うと、プロ用の顔料プリンターが欲しくなった。

それはかなり高額だ。購入するには有効利用できるシナリオが必要だろう。それでもリスクは高めだ。どうしても購入に踏み切れない。どうしたものか。僕はクラウドファンディングをすることに決めたのである。

撮り溜めたきのこ写真でカレンダーを作る。それをリターンとした。実験的要素が大きい。『農家ができることを模索したい!』。その想いに嘘はなかった。

リターン品を作り、そのイメージ画像を撮る。プロジェクト本文を書き、プラットフォームの審査を待った。プレスリリースを配信し、新聞社の取材を受ける。その間も休まずに告知をTwitterに流した。

結論から言うと、無事にサクセスすることができた。早い段階で高額の支援金が入ったのである。これで欲しかった顔料プリンターの購入は目途が立った。だが支援金はまだある。どうしたものか。僕はミラーレスのデジカメを購入することにした。それが一番の恩返しになると思ったからだ。

支援者からはリターン品の感想メールが届く。皆一様に気に入ってくれたみたいだ。僕も気に入っていたので、机の隅に飾っている。クラウドファンディングは大成功に終わった。

これで僕は写真で勝負ができるようになった。顔料プリンター+マット紙の組み合わせは、僕の写真とマッチしていた。ミラーレスのデジカメも良い仕事をしてくれている。レンズは僕のメインカメラである67中判フィルム機のものを付けた。マウントアダプターを2個を介しての力業である。写りは最高であった。

農産物を売りながら、その写真も売る。それが僕の想い描く理想だ。正直に言うと夢物語でしかない。けれども挑戦してみるつもりだ。僕の写真は止まらないのである。


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