ヘルプで壊れる地場産業

十勝の田舎町で暮らしている。僕は地域おこし協力隊だ。任務は自身の就農研修と、所属する生産組合の活性化。とはいえ、実際は農家さんのお手伝いをするヘルパーとして働いている。

だが、純粋なヘルパー業務だと問題がある。地域おこし協力隊の趣旨に反するからだ。一農家を助けるための制度ではない。故に役場の担当者が抜き打ちで視察に来る。ありがたいことだ。

それではヘルパーの仕事を隠れてしているかといえば、そうでもない。そもそも生産組合の組合員は少ない。何もしなければ数年後には消えてなくなる可能性だってある。活性化どころではない。現状維持に努める必要がある。農家をヘルプすることも必要なのだ。

僕は役場の担当者にヘルパー業務を認めてもらうように頼んでおいた。これで心置きなくヘルプできる。あとは僕が僕のマンパワーを搾取されないように気をつけるだけ。簡単なようで難しさと覚悟のいる仕事となったわけだ。

移住してから1年が過ぎていた。実は同じ地域おこし協力隊の同僚がいたが、今年度からは1人となった。辞めたのは頼りがいのある兄さんだっただけに、不安なのである。だが自由度は増した。スケジュールの組み方も僕次第となった。

春は植菌の季節だ。すべての農家でヘルプが必要だった。僕は1ヶ月単位ですべての農家をまわることにした。大忙しである。結局、終わってみれば町にある植菌作業の9割を僕はこなしていた。季節は初夏。あっという間であった。

これが少し怖くなった。時間の経過が速すぎるのである。残る思い出もない。ただただ時間が過ぎていった。だが得たものもある。技術だ。慣れたもので作業スピードも農家さんに負けないくらいになった。

作業の改善点も多数見つけた。いいところもである。これは僕が就農するときに大きなアドバンテージになるだろう。かなりの効率化が期待できるのである。

ひとつだけ不安になったことがある。農家さんに楽をさせてしまったことだ。僕が知る限り、空いた時間で何かを始めた様子もない。それはいいのだが、僕の地域おこし協力隊としての任期は3年だ。満期になればヘルプをすることもできない。そのとき、農家さんはどうするのだろうか。

3年も楽をすれば、その後に復帰するのも難しくなるだろう。そう考えれば、僕のヘルプは地場産業の崩壊を招く恐れもある。どうしたものか。難しいのである。

一番の困りごとは、このレベルの話の相談相手がいないことだ。農家さんは来年のことを考えても仕方ないという。どうしたもんだろう。僕は3年先ぐらいを見ることにした。ヘルプの仕事も減らさないといけないのかもしれない。バランスが大事だ。

それにしても、地域おこし協力隊の仕事を舐めていた。これは大変だ。いろいろと考える種は無限にある。どうしたもんだろう。僕の悩みは止まらないのである。


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