よろしく北海道

フェリーは初めてだった。かなり心は踊っていたと思う。乗船したのは夕方。明日の昼には北海道だ。食事をとって、お風呂にも入って、早めに就寝。船首の方に頭を向けて寝ると酔わないらしい。

おかげで朝は早くに起きた。甲板からは太平洋の朝焼け。もちろん撮った。出来た写真はぱっとしない。圧倒的な景色に気持ちが負けていた。それくらい美しかったのである。

引越のための移動は楽しい。旅行気分な楽しさだけではない。『帰るべき場所が無い』。そのことが何故か心地よいのである。本来なら不安に襲われてもおかしくはないのに。もしかしたら僕の先祖は遊牧民だったのかもしれない。

そんなことを考えていたら苫小牧の工場群が見えてきた。窓に釘付けである。このフェリーには車で乗船した。下船も車とだ。そのまま一般道へ、高速道路へ。止まることも出来たが焦る気持ちには勝てなかった。故に北海道へ上陸したという実感はない。どうでもよかった。気持ちが先走るとはこのことだった。

やたらに"笹"が多い。北海道のファーストインプレッションはそんな想いだった。異動先への顔見世と新居探しなどで3回目の北海道ではあるが、車で走るのは初。この土地の細かいところまで目が届くのである。

基本的には本州と変わらない。だが、道路が広いこと、建物が密集していないこと、家の屋根が特徴的なこと、それらが僕にとっては真新しく感じる北海道の風景を演出していた。

新居でやらかしてしまった。長旅からの解放で気が緩んだのか、トイレに入ってしまった。大きい方である。だが紙はない。荷物が届くのは翌日の予定だ。仕方なく鞄に入れていたティッシュで済ました。リビングに置いてあった鞄まで『どうやって行ったか』はあまり想像しないでほしい。部屋にはカーテンも付いてはいない。外から丸見えだ。あまり思い出したくはないのである。

この日は宿に泊まり、翌日は荷物の搬入。生活の準備をしたいところだが、お出かけしたい欲には勝てなかった。

アパートの周りを散歩してみた。食料調達のついでにだ。割と近所にスーパーがある。同じ敷地内にはホームセンターと薬局も。便利なところで運がいい。そう思っていたが、同じような並びは北海道では珍しくなかった。

区画は碁盤の目。生活に必要な店は一点に集中。合理性が強い。なんだか飼われてる気もするが、やはり住みやすい。今まで様々な場所に住んできたが、おそらく一番だと思う。冬の雪のことを考えたら、これくらいが丁度いいのであろう。

海へも行ってみた。苫小牧だ。下船した日は慌てて新居に向かってしまったので、リベンジでもある。海鮮丼が食べたかったのだ。名物の"ホッキ貝"は普通だった。だが他は旨すぎた。イカ、ホタテ、エビ。ここら辺は最高。やはり北海道の海鮮は美味しいのである

まだまだやりたいことは山ほどあるが、新居での片づけも山積みだ。文字通りダンボールは山積みされている。それを片付けないと。大丈夫。仕事が始るまでは3日ある。まだまだ遊べる。こんな日が永遠に続けばいいのに。

よろしく北海道。僕は駄目人間になりそうだ。なんのために訪れたか忘れそうになる。だが、この3日間だけは大目に見てほしい。存分に遊べば気持ちも切り代えられるから。その後はしっかりと働くつもりだ。遊びも仕事も頑張るつもりなのである。


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