排除ベンチ【ショートショート#39】
病院の敷地内にある排除ベンチに座っていると、目の前の排除ベンチに座ってうたた寝をしているホームレスがいた。仕切りの肘掛けが邪魔をして横に慣れないようだ。さすが排除ベンチである。その使命を朝昼晩しっかりと全うしていた。私は私が座っている排除ベンチの肘掛けを見つめ肘を置いたが、置き心地が悪くてやめた。こいつの存在は排除のためだけにあるようだ。
この排除ベンチから仕切りの肘掛けがなくなると、こいつはただのベンチになる。肘掛けが両端ではなく、中程に設置されるだけでその肘掛けもベンチも全く違うものに生まれ変わる。
目の前の小汚いホームレスを見ていると、不便に思う。奴らは負け犬だ。会社からも排除され、家族からも排除され、いまベンチからも排除されている。ベンチで横になりたいのになれず、うたた寝をしながら必死で身体を休めようとしている。そんな哀れで小汚いホームレスを眺めていると、首をガクンと船を漕ぎびくんと飛び起き、その拍子に私と目が合った。
その小汚いホームレスは虫歯だらけの歯をニヤリとみせて、私の方へと歩み寄ってきた。うわ、もしかして私からまれるの? と身構え、いつでも逃げれるように足元にある紙袋に指をかける。
「よう! みっちゃん、昨日は眠れたかい? 風も雨も強くてダンボールがぐちゃぐちゃになってワシは眠れんかったよ」
近くで見ると顔は洗っているようで陽には焼けているが肌は綺麗だった。
「私も寝不足。しかしこの排除ベンチ、どうにかならないのかね。地面は夜の雨で濡れてるし、頼みのベンチはこんなだし」
私はそう言うと、紙袋を持ち小汚いホームレスと一緒に排除のない世界を探しに病院を後にした。
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